待ち合わせ時刻、午前10時。
 只今の時刻、午前10時30分。


*うたたね*




「げ」


 ベットの中で時計を見て絶句するリョーマ。
 たとえ時計を逆さまにしたとしても、遅刻決定。


「おお、リョーマ。どした? そんなに急いで」
「っ親父、邪魔!!」
「つれねーな、何しに行くんだ?」
「テニスのコーチ!」
「は? 一体誰に」
「友達!!」


 準備に時間がかからないのは女でなくて良かったと思うところだろうか。
 仕度を済ませると、返事も短くリョーマは家を飛び出した。





 待ち合わせ場所に着いたのは11時ジャスト。
 そこに付いたとき、リョーマの目に映ったのは
 荷物を片手に持ち、一人の男に絡まれているの姿だった。


「なぁ、さっきからだいぶ待ってるだろ」
「…ですから、待ち合わせているので」
「いーじゃん、遅れてくる奴なんかほっといてさぁ」

!!」


 二人の間に割り込み、の手を引いて歩き出す。
 いきなり現れたリョーマに男は「おい!」と肩に手を置くが、
 鋭い瞳で睨まれ、舌打ちをして去っていった。


「悪い、その、怪我した妊婦さんを病院に連れて行ってて」
「うん。越前くんがすぐ来てくれたから大丈夫」
「…ゴメン。本当は寝坊した」


 足を止めてリョーマはに向き直る。
 よく見るとの目元がほのかに赤い。
 空いた手で顔に触れようとすると、
 は 「本当に大丈夫だから!」 と手をふりほどき離れる。


「じゃ、コートこっち」


 先を歩きはじめたリョーマの後ろを、
 手荷物をまとめては追いかける。
 から見えないリョーマの顔は
 自分の行動を思い返して赤くなっていた。





■■■■■





「…えと、それじゃ今日はよろしくお願いします」
「ん」


 最近テニスを始めたは、時々朋香や桜乃と共に練習をしていた。
 それを聞いたリョーマは今日のコーチを引き受けてくれたのだ。

 ストレッチを終えた後。
 壁うちをしながら、時折フォームのアドバイスを受ける。



「ヒザ、もっと沈めて」
「…え、こんな感じ、かな」
「ん、そんなもん」


「グリップ、もう少し薄く握った方がいいよ」
「……え、えっと、こう、かな」
「いや、もうちょい…そう、それくらい」


「スクエアスタンス、もう少し速く取って」
「………え、あ」
「…疲れた? 少し休憩入れようか」


 動きの鈍くなってきたに、
 リョーマは休みを入れる。
 よく見ると、少し顔色が悪い。


「オレ、飲み物買ってくる。は?」
「…あ、私はスポーツドリンク持ってきてるから」
「そ。じゃ、そこのベンチで休んでなよ」


 木陰にあるベンチを指さすと、リョーマは歩き出す。
 リョーマの背を見送ったは、ベンチに座ると、
 急いでバックから本を出して読み始めた。











「っくそ」


 リョーマは自販機の前でひとりごちる。
 自分の態度が素っ気ないことは自覚していた。
 今日のの格好はポロシャツにパーカー、それにハーフパンツ。
 なんて事無い姿なのに、
 いつもの制服と違うだけで、妙に意識してしまう。

 テニスのフォームを見ているうちは良い。
 だが、 『』 を見ると、とたんにぎくしゃくしてしまう。

 今も、半ば逃げ出した心境だった。


「…オレも、まだまだだね」

 いつまでも戻らないわけにもいかない。
 空を見上げて一息つくと、ファンタを片手にベンチへ向かった。







「…?」


 未だ緊張を残したまま戻ったリョーマを待っていたのは、
 ベンチに座り眠りにおちている
 そんなに疲れていたのか、と思い近づいてみれば、
 の膝の上には開きっぱなしの本。

「初心者のテニス用語…?」

 確か、待ち合わせ場所でも持っていたものだ。
 ぱっと見ただけで、マーカーや付箋がかなりされているのが解る。
 本自体は古くないようなのに、
 開き癖が付いているあたり、使い込まれているのだろう。


「おっと」
「…あ、れ。…越前、くん?」

 バランスを崩して落ちかけた本を取ると、
 の寝ぼけ眼が開いた。
 ぼーっとリョーマの顔を見ていたが、
 その手にある本を見ると一気に目を覚ます。

「えっ、越前くん、その本…! …あ、あれ、ひょっとして私今」
「オハヨウ、。良い夢見れた?」

 真っ赤になるの顔を見て
 面白そうにリョーマは笑う。
 そのまま本を片手に話し始めた。

「結構読み込んでるね、この本」
「え、あ、うん」
「で、一つ質問。昨日何時に寝た?」
「……」
「……」
「……さんじ、くらい」

 根負けしてつぶやくの言葉に、
 リョーマはため息を付く。
 そういえば今日は最初っから少し反応が鈍かったような、と
 今更ながらに思い当たって顔をしかめる。


「それじゃ、今日はもう帰ろう。そんな状態で続けたら怪我するよ」
「うん。…ごめんなさい」
「いいけど。そもそも何でこんな本読んでるの。
オレに聞けばいーじゃん」




「越前くんの言葉、解らないとイヤだったから」
「は?」


 それこそ意味が分からないの言葉に、
 リョーマは疑問の声をあげる。
 だが。


 (―― あぁ、そうか)


 次の瞬間気が付き、苦笑しての頭に手を置いた。


「悪い。今度から気を付ける」
「ううん、私頑張って勉強するから」
「それこそオレに聞いてよ。
が何解らないのか解らないと、オレ嫌だし」


 うん、とうなずくに、
 今日は良いもの見せてもらったな、とこぼし、
 再び真っ赤になったを見てリョーマは満足そうに笑っていた。






*あとがき*

私のところのリョーマくんは書くのに時間がかかります。
うまく言葉がでてくれなくて。
でもだからこそ、書き上がるとホント嬉しいです。
やはり青春は良いですな。うん


専門用語、解る人は普通に使いますけど、
解らない人にはひたすら謎の言語だと思うのです。
パソコン用語も解らない人には宇宙人語とか言われますしね。


この作品、一度全部消えまして。
頭の中も真っ白になって柚子に泣きつきました。
おにょれスリープキー…!
何かリョーマくんの機嫌を損ねたか? と真剣に考えちゃいました(笑)

てゆか、うたたねあんまり関係ないよ、伊織サン(致命的)




2004.04.23 伊織




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