秘密のお話、中身はなぁに?


*秘密*




 放課後の教室。
 夕暮れに差し掛かる時間に、生徒の姿が二つ。
 手にした呼び出しの紙を畳みつつ、は口を開いた。


「で、話とは何かな?」
のことを詳しく知りたいと思ってね」


 言われた当人であるは、へぇ、と抑揚無く返す。
 表情も声色もそのままに、それはそれは、と続けた。


「光栄だね」
「そうかい?」
「つまりは、乾氏が自分では私のことを調べきれなかった、ということだろう?」
「そういうことになるな。あまり本意ではないが」


 苦笑しつつ、乾は眼鏡を押し上げる。
 廊下から、帰る途中であろう女の子達の甲高い声が聞こえる。
 手紙を口元に当てつつ、は真っ直ぐ乾を見つめる。



「少し意外だな」
「そうか?」
「直接聞くよりは、自分で調べる方を重視すると思っていた」
はデータが取りにくいからね。丁度良い機会だと思ったし」
「おや」


 眉を上げ、皮肉めいた瞳で見つめるに、乾は肩をすくめる。
 まぁいい、とは腕をおろした。


「それで?」
「そうだな、やはり好みの異性のタイプなんかを聞きたいが」
「いや、そうじゃなくて。ちなみにそれは秘密だ」

 ノートを開き、書き込む体勢の乾が顔を上げる。
 対するの顔は、素直に疑問に思っている表情だ。


「秘密というのは何故かな」
「……人間誰しも、秘密の一つや二つあった方が面白いだろう」
「面白い、か。なるほど。では、それで、とは?」
「今回はポーカーか、ブラックジャックか? 乾氏が来るとは思わなかったから気になった」
「七並べだ」
「七並べ?」


 心底不思議がっている
 乾はノートを閉じ、溜め息をつきながら答える。


「新作の乾汁が不評だったようでな、集中攻撃を食らった」
「それはご愁傷様、と言うべきかな……テニス部に」


 口元を少し歪ませるに、乾は少し小首を傾げる。


「酢酸系はダメだな。君の幼なじみにまで恨みを買ってしまった」
「え」


 目を丸くして見つめるに乾は頷く。
 瞬きを繰り返していたかと思うと、くっ、声が漏れた。



「そうか、またやったのか」




 夕焼けの長い光の中、の笑顔が乾の目に映る。と。







「はい、ミッションコンプリート」
「さっすが、鮮やかッスね」
「でもギリギリでしたよ」
「乾〜。作戦漏らすなんてずるいぞー」




 カメラ片手に教室に入ってきたのは不二。
 その後ろに桃城・越前・菊丸が続いた。
 菊丸は少しむくれた顔で乾に詰め寄った。


「別に作戦そのものは話していないだろう」
「で、今回の内容は何だったんだ?」
「30分以内に先輩の笑顔を引き出すこと、です」
「ちなみに制限時間まであと3分チョイ」
「くそー、もうちょいで乾に奢らせられたのに〜!」


 桃城がの質問に答える横で、菊丸が悔しがる。
 越前が持ったままのストップウォッチをに見せる。
 それを一瞥した後で、手にしたままだった手紙をは不二に差し出す。
 書かれている文字は不二のものだ。


『 親愛なる幼なじみの
今日の放課後、君に用事のある人が教室へ行くから、話を聞いてあげてね☆

―― 不二周助より 』


 お願いではなく既に断定系で書かれているあたり不二らしい。
 例えお願いの形を取っていたとしても、
 は自分が断れないだろうとわかってはいるが。


「いい加減、ゲームに私を使うのはやめにしてくれないか、周助」
「え、も楽しいでしょ?」
「…駆け引きは嫌いじゃないが」


 つまりは、作戦成功すれば無罪放免、
 失敗したら参加者全員に奢りのペナルティという駆け引きゲーム。
 今回の参加者はここにいるだけのようだ。


 功労者にはちゃんとお礼するから、と笑う不二に
 は腑に落ちない顔で首を傾げる。
 前回失敗した菊丸は、まだ納得がいかないらしく乾に詰め寄っている。


「内容もあまり趣味が良いとは言えないと思うが」
「うーん、それは善処するよ」
「そもそも、罰ゲームを更に賭けの対象にするというのは変じゃないか?」
「いいじゃない、楽しいんだし」


 の疑問もさらっと流し、不二はにっこり笑う。
 これ以上食い下がっても無駄だ、と知っている
 そろそろ帰ろう、と皆を促す。

 今日は私が何か奢ろう、というの言葉に
 菊丸もようやく乾を放し、早く帰ろうと皆を急かし始めた。




 陽の落ち始めた帰り道。
 外は徐々に夕暮れから闇色に変わりつつある。


「毎回、には迷惑をかけているようで済まないね」
「ホント、不二先輩が一位取ると、すぐ先輩巻き込みますよね」
、やっぱ嫌だったりする?」
「諸悪の根元は周助だしな。断るのは無理だろう」
「あはは、ひどいなぁ
「そう言ってもらえると助かるな〜」


 しみじみと言う桃城に、桃、と不二が笑いかける。
 口元を引きつらせた桃城は少し不二と距離を取ると、
 何とか話題を変えようと乾に話を振った。


「ちなみに今回の作戦、乾先輩の予想では成功確率はどんくらいだったんですか?」
「38%ってところかな」
「え、そんな低かったの? 乾」
「珍しいッスね、乾先輩にしちゃ」
「乾だったら対策練ってると思ってたけど」
「負けることはないと思っていたのか?」


「一応対策は練っていたけどね。
のデータは取りにくいから、どうしても低くならざるを得ない」
「あれはブラフじゃなかったのか」


 少し驚いた声を出すに、うそなんか言ってないよ、と乾は返す。
 その言葉に、不二は薄く目を開いた。


「ふーん…」
「あ、。あそこのアイス! 今日はそれにしようぜ!!」
「構わないが」
「よっしゃ! んじゃオレトリプル!!」
「あ、オレも!」
「トッピングも良いッスか」
「おい! あまり多い数は無理だぞ!」

 走り出した菊丸達を止めようとは駆け足で追いかける。
 ダッシュでアイス屋の前についた彼らは既に注文態勢のようだ。
 そんな四人を見ながら不二は不意に足を止め、
 ゆっくりと乾に話しかける。



は手強いよ、乾」
「ああ。……退く気はないが」



 静かに応える乾に、不二はそう、と笑顔を向ける。
 立ち止まる二人に手を振るに応え、不二が歩き始める。
 自然と止めていた足を動かし、乾も達の元へ向かう。


 乾は、ご満悦の顔でダブルのアイスを頬張る菊丸達に
 腹をこわすなよ、と声をかける。
 そしてその眼は財布を睨み眉を寄せているをそっと眺めていた。




*あとがき*


このお題とにらめっこしてたら何故かでてきた乾先輩。
不思議不思議。
最初は全然別の話・キャラだったんですが、
どんどんお題と離れていくので急遽変更。彼の出番となりました。
や、この内容がお題に添ってるかと聞かれると困るんですが。


乾先輩と不二先輩は隠し事してもすぐ見抜かれそうです。
だからこそ、彼らはわからないことがあると興味を引かれるのではないかな、と。
逆に、気になるからこそわからない、ということもあると思いますが。


賭けに乗りそうな人選をしたら会話でひたすら混乱しました。
同じキャラが2度喋ったり急にいなくなったり(笑)
でもわいわいしてるのは好きなので、書いてて楽しかったです。


2004.05.28 伊織




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