*封筒*菊丸英二、ただいま絶不調。 理由は簡単、今日一日ちゃんとまともに会っていないから。 朝見たTVの占いでは 『今日の恋愛運は最高』 とか言ってたのに、 朝練も昼休みとかもすれ違いばっかり。会話なんかはほとんどゼロ! 朝はちょっと不機嫌になって 昼頃空回りで少し焦って そして現在、ちゃん欠乏中。 「あれ、さん忘れてったのかな」 大石の声に振り返れば、その手にはスコアブック。 ちゃんは練習前にいつも持っていってるハズだから、確かに忘れていったんだろう。 「大石、それオレが持ってく」 「そうか?」 忘れ物を届ける→話が出来る! と考えて、 着替えを済ませていたオレは、大石に手を差し出した。 大石は少し考えてから、それじゃ頼むな、と大石はスコアブックを差し出す。 その時、間からひらりと紙が落ちた。 「ん? 手紙?」 オレが床に落ちる前に受け止めたそれは、少し赤の混じった黄色い封筒。 大石の? と目線で問いかけると、ちょこっと不思議そうに頭を傾げて 「すいません、スコアブックこちらにありますか?」 あ、と呟いた大石の声に、外からのちゃんの声が被った。 ちゃんとの会話の機会をつかむため、オレは急いでスコアブックを受け取って外に出た。 出てきたオレを見てちゃんが目を丸くする。 「あの、スコアブック……」 「はいっ。珍しーね、忘れ物なんて」 久々に(何たって一日ぶりだ!)ちゃんと会話をして、オレは思わず顔がゆるんでくる。 不思議そうな顔のちゃんはオレの言葉で真っ赤になって、差し出したスコアブックを受け取った。 そんなちゃんに抱きつきたくなるのを何とかがマンして そのまま話をしようとしたオレの望みは 「……菊丸先輩、それは」 「へ? あ」 ちゃんの固い声に阻まれてしまった。 その視線の先はさっきの手紙。 そーいえば持ったまんまだった。 「って、違う違う、オレんじゃないよ! それに挟まってたんだよ、ホント!!」 「そう、ですか」 「信じて〜!!」 オレがもらったんじゃない、と必死になって伝えたんだけど、 はい、と言ってくれたちゃんの顔色はお世辞にも良いとは言えなくて。 何か言いたげだったけど、結局何も言わないで 少しうつむいたままコートに行ってしまったちゃんの後ろ姿に、オレはたそがれる。 うー、タイミング悪〜。てか何で持ったまんま来ちゃったんだオレ〜。 「あれ、さんは?」 自己嫌悪で落ち込んでると、そっとドアが開いて大石が出てきた。 「……コート行った」 「そうか。あ、それ……」 オレが持ったまんまの手紙を見て目を瞬く大石。 そういえば、さっきもなんか言いかけてたっけ。 「大石の?」 「え、いや、……心当たりがあって」 歯切れの悪い大石の言葉に少しいらついたから、 手紙に罪はないけど、少し乱暴に渡してしまった。 受け取った手紙をじっと見た後、大石はおそるおそるって感じでこっちに聞いてきた。 「……さん、何も言ってなかったか?」 「もう最悪! やっぱ誤解されたっぽいしー!!」 いきなりど真ん中な大石の言葉に、さすがにオレも八つ当たりを含めて愚痴ってしまう。 「そもそも何であんなとこに手紙なんて入ってんのさー!?」 「いや、えっと…」 「ようやくゆっくりちゃんと話せると思ったのに!」 「え、英二、そろそろコートに行かないと」 困り顔でオレをなだめている大石になお愚痴っていたら、 いきなりドアが開いて不二がでてきた。 こんな所で話してたら邪魔になるよ、エージ。なんて すんばらしい笑顔で(怖かった…!)言われて固まってたら、 集合に間に合わなくて手塚にグラウンド走らされてしまった。 (大石も固まってて一緒に走った。……ゴメン) ……やっぱオレ、ツイてない。 ■■■■■ その日の練習はさんざんで。 エラーを出しまくったオレは、手塚に真面目にやれ、と言われてまたグラウンドを走らされた。 ツイてない時はとことんツイてない。 部活解散後、ちゃんの姿を探したけど、何故か見つからない。 放課後もすれ違い? と軽く落ち込んだところに 部室の方に行った、と聞いて急いで向かった。 「すいません、ご迷惑をおかけして」 「迷惑って程じゃないよ。ただ、心配はしてるかな」 ドアを開けようと手を伸ばしたところで、聞こえた声に足を止める。 聞き慣れたこれは……大石の声だ。 「……英二は何も気付いていないよ」 いきなり呼ばれた自分の名前に目が丸くなった。 ノブをつかもうと伸ばしたままの手のひらに、じっとりと汗が浮かぶのがわかる。 「くちなし、だっけ。その封筒の色」 「……はい」 「言わなくても伝わるように……か。お節介だとは思うけど、早めに言った方が良いと思うよ。さんのためにも」 「…………」 「本当は俺が口出す事じゃないと思うけど。……君が苦しそうだから」 労りのこもった大石の声に、ちゃんの答えに詰まっている雰囲気が伝わってくる。 オレは会話の内容がうまくつかめなくて、ただ突っ立っていた。 手が、足が、体が動いてくれない。 「言葉が、うまく出てくれなくて……何度も言おうって思ったんですけど」 「うまく言う必要無いんじゃないかな。そのまま言った方が英二にも伝わるよ」 ―― ちょ、え、待って、オレのこと? 心臓が飛び上がって、痛いくらいに速くなる。 ―― どういうこと? 今までの会話を思い出そうとして、頭の中が真っ白になった。 なんだか深刻そうな内容で大石とちゃんが話をしていて ちゃんは困っていてオレが気付いてなくて大石は心配して えとつまり……オレがちゃんを困らせてる? 大混乱のオレの耳に、それじゃあ、という大石の声が聞こえた。 ……それじゃあ? 「っ!!」 「……英二?」 「え」 急いで飛び下がったおかげで何とかドアと正面衝突はしなくてすんだけど、 そのかわり部室から出てきた大石とバッチリ顔を合わせてしまった。 だーっといろんな言い訳とかが頭を駆けめぐって、今すぐ逃げたくなったけど、 部室の奥にいたちゃんの顔を見て、全てが吹っ飛んだ。 「ッゴメン!!」 がばっと頭を下げて謝るオレに、大石が少し慌てた声がかかる。 あぁ、オレが立ち聞きしたのを謝ってると思ったんだ。 それもあるけど、それだけじゃなくて。 「オレ、何にも気付いてなくて。ちゃんにメーワクかけてたんだよね?」 うるさくしすぎた? しつこかった? うっとうしかったかな? 考えれば考えるほど思考はドツボにはまっていく。 ひょっとしてこの頃しゃべってないって思ったのは、もしかして避けられてたからとか…!? グルグル考えてたら名前を呼ばれて、そっと顔をあげた。 オレをじっと見てるちゃんの顔は、なんだか泣きそうに見えた。 「うわっ、オレまたなんかヘンなこと言った!?」 またパニクりそうになったオレに、大石が「落ち着け」って声をかけてくれた。 混乱しっぱなしで(多分情けない顔だった)大石を見たら、ちゃんに何か促してる。 ちゃんを見たら、なんだか緊張した顔で何かさしだしてた。 ワケの分からないまま受け取ったそれは、黄色っぽいなんだか見覚えのある封筒。 ちゃんも大石も頷くから、開けて中の手紙を見てみた。 それは。 オレへの感謝の言葉、がこもってた。 「……これって」 「さん、英二にうまく気持ちが伝えられないって悩んでたんだよ。 だったら手紙書いてみたらって言ったんだけど、今度は渡せなくて悩んでたみたいだな」 スコアブックから落ちたのを見たときはびっくりしたけど、と言って苦笑する大石の声も、 あんまりオレの耳には届いてなくて。 感動しすぎて動けないオレの背中を軽く叩いて、大石が部室を出ていったと知ったのはだいぶ後。 気がついたらオレとちゃんの二人きりだった。 「…っあ、送ってくよ、遅くなったし!」 「え、でも英二先輩、疲れて…」 「だいじょーぶ! 吹っ飛んだ!!」 コレのおかげで、と手紙を大事にしまって笑う。 …って、あれ? 「名前っっっ!!」 「ふぇっ!?」 思わずがしっとちゃんの腕をつかんじゃったけど、確かに今…名前呼んでくれた! 途端にちゃんの顔がかーっと赤くなる。 「ねねね、もっと呼んで! ね!」 「……英二先輩」 「うんうん」 「……英二先輩」 「うんうん」 「……すきです」 「うんう…ん?」 ちっちゃいけど確かに聞こえた言葉に、少したってからオレの顔がバカみたいに緩むのがわかった。 俺も大好きー! って思わずちゃんを抱き上げて言ったら、さすがにちょっと怒られた。 ツイてないなんて思ってたけど、今日は運勢はやっぱり最高。 ……嬉しすぎて、ちゃんを送っていったのは更に遅くなってからでした(反省) 「おっはよー、ちゃん!」 「…おはようございます、菊丸先輩」 次の日の朝。 一番にちゃんを見つけてご機嫌で挨拶。 …って、ちょっとまった。 「なんでー? なんでまた戻るのー!?」 思わず涙目で聞いたら、「部活中は公私混同になるのでダメです」とか言われた。 そういえば今日見た占いの運勢は普通よりちょっと下。 ……そんなん関係なくオレの運勢はいつだって最高にしてやるっ!! *あとがき* だからお題関け(以下略) お題は「封筒」なのに、思いつく内容は手紙中心の物ばかりで苦労しました。 結局これも最後はお題からずれてしまいましたが(^ ^;) 感謝の言葉って、直接言うのも手紙を書くのも、どっちも改めてだと気恥ずかしい気がします。 手紙の方が後に残る分、恥ずかしさは上でしょうか。 伝わり方が少し違うので、どちらがいいとも言えないですけどね。 男らしい以前にコレはホントに菊丸先輩なのかと自問自答。 だんだんヘタレてきているのは気のせいだと思いたい。 2004.06.28 伊織 <<戻る |