*時代遅れ*



「……っあー、終わったー!!」

 は体を伸ばしながらようやく、といった声を出し、慌てて手を口元に当てる。


「ゴメン、邪魔して」
「ううん。僕も丁度キリがいいところだよ」


 言葉通り不二もノートをまとめる。
 目線でそう? と聞くと、不二は笑顔で応えたのではほっと力を抜き、
 テーブルの上のアイスティを一口飲んだ。

「ふぅ、今回はホント助かった。ありえないもん、あの量」
「今回は?」
「……今回も、デス」

 の横には山積みにされたノートや紙の束。
 全てに出された課題提出物だ。
 疲れたー、とテーブルに突っ伏すを見て、片づけを終えた不二は小さく息を付く。

「だから言ったでしょ、少しずつやっておかないと後で苦労するよって」
「うーん、解ってはいるんだけど……」

 つい後回しにしちゃうんだよね〜。


 声に出していないそんなの声を聞き、不二は苦笑を漏らす。
 ヒントを与えればはちゃんと理解するから教えるのも嫌いじゃない。
 でも

「夏休みの宿題、31日に始めるタイプだよね」
「おしい」
「?」
「正確には30日夜から。1日じゃ足りないんだよ」
「自慢することじゃないよ、それ」

 出来ないわけではないのにため込むのはどうかと不二は思う。
 それでも、は質問はしても内容は自分でやっているから文句は言わない。
 実際、過ごす時間は楽しいものだ。


「いつも付き合ってくれてありがとね。教え方上手だからつい頼っちゃうんだ」
「どういたしまして。予定より少し早く終わったね、少し休もうか」
「あ、それじゃまた聴きたい!」

 テーブルに伸ばしていた体をぴょこんと起こしては顔を輝かせる。
 不二は少し顔をゆるめて頷く。

「今日のリクエストは?」
「えーっと、この前のまた聞きたいな」
「これ?」

 ジャケットを見せて確認してから不二はレコードをプレーヤーにかける。

 はじめて家に来たとき、はレコードに興味を持った。
 最初は 「これなに?」 と言っていた程度だったのに


「おんなじ曲うちでも聴きたくてCD探したんだけどね。なーんか違うんだよ〜」
「 『レコードとCDの音の違いなんて解らない』 って言ってたのに?」
「……実際どこが違うのかは解らないもん」

 口をとがらせて上目遣いで睨むに、それでも良いと思うよ、と笑顔を返す。
 は、バカにしてるでしょ、とふくれて顔を逸らすが、耳が少し赤い。

 自分が気に入っているものに相手も興味を持ってくれるのは嬉しい。
 不二にとってその相手がだというのは特に。



「一緒に聴いてると僕も新鮮だな」
「う゛、やっぱり私変なこと言ったりしてる?」

 曲を聴いて感じたことをぽんぽん言って、
 そのたび不二が笑っている気配を感じているは、
 不二の言葉に赤面して向き直る。


 相手の顔は、思いの外近くにあった。


「楽しい意見もいっぱい聞かせてもらってるけどね、それより」

 ―― 君と二人で聴くのが楽しいんだよ

 耳の近くで聞こえた言葉に、体が熱くなる。
 からん、とコップの氷がくずれた音が遠くに聞こえた。








 コンコン

「二人とも、ちょっといいかしら?」

 ノックと共に入ってきた由美子は、にこやかな笑顔で迎えた弟に笑いかける。


「音楽が聞こえたから休憩に入ったのかと思ったんだけど」
「うん、一段落着いたから」
「そう、丁度今ラズベリーパイが焼き上がったのよ。一緒にどうかしら?」
「はい、ぜひ!!」

 不二から離れたテーブルの隅で下を向いていたは、勢いよく顔を上げて立ち上がる。
 大好きな由美子のラズベリーパイと聞いての顔が輝いている。その耳は、まだ少し赤かった。
 そそくさと部屋を出て先に行くの背中を見て、不二は内心ため息をこぼす。


「お邪魔だったかしら?」
「……ううん。そんなことないよ」

 小さく笑いかける由美子に、部屋の片付けを終えた不二は早く行こう、と促す。
 そんな弟の姿を見る由美子は苦笑顔だった。

「あんまりいじめちゃダメよ」
「いじめてなんかいないったら」


 そうかしら? と軽く頭を小突く由美子に、まいったな、と少し困り顔で歩く。
 ラズベリーパイを前におあずけを言われたように待つを見て
 由美子と不二は顔を見合わせて笑ってしまった。

 不思議そうな顔のに由美子は何でもない、とパイを切り分ける。
 首を傾げたままだったは、それでもパイを一口食べて幸せそうに笑う。
 笑顔はその場にいた全員に浸透していった。





*あとがき*

【時代遅れ】
その時の傾向・流行などにおくれていること(広辞苑 第四版より)


えー、常日頃から自分は流行などには疎い、と思っていたので、このお題は困りました。
何が時代遅れで何がそうじゃないのか。
時代遅れじゃない物なんてそもそも知っているのか、自分。
……まぁともかく。

レコードはやはり一昔前の代物ではないかなぁと思い、不二先輩に決定。
なんとなーくつきあい始めの初々しい感じをイメージして書いてみました。
付き合いだしたら不二先輩はイケGO! な感じがします。

しかし、読み返すと何を書きたかったのかよくわからな(強制終了)



2004.07.12 伊織



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