*笑おう*




 放課後グラウンド片隅。
 は一昔前のヒロインのように、木の陰からひょこん、と顔を出していた。
 視線の先には男子テニス部の練習風景。


「……相っ変わらず厳しそー」

 桃城に告白されて返事に悩んで。
 そんなに、友人のは 「テニス部の練習でも見てきたら?」 と勧めた。
 曰く、普段の教室にいる時とは違う姿を見れば、何か変化があるのでは、と。
 確かに、部活中の姿は遠目に見たことは何度かあっても間近で見たことはなかったので、
 それもいいかもしれないと出向いてみた。
 5割り増しで格好良く見えると思うよ、と笑う言葉には返事に困って頭を掻くだけだったが。


「うーわ、すっごいジャンプ」

 ダンクスマッシュをきめる桃城に、思わず感嘆の声が漏れる。
 相手コートにいる海堂が、馬鹿力とか何とか文句を言っているのが聞こえる。
 対する桃城は悔しかったら取ってみろ、などと言って笑っている。

 教室では気まずさからこの頃あまり見ていない桃城が、
 今目の前で笑顔でいることに、知らずの口元に笑みがこぼれる。

 だが。

「……ん?」

 ほんのわずかな違和感。
 桃城に以前とは違う感じを受けて、は顔を戻して木に体を預ける。

 顔は、笑っている。間違いない。
 声だって、近くはないのでそんなに聞こえなかったが、普通だ。と思う。
 部活中の行動は詳しいわけではないので、違和感を感じる理屈がない。

「ん〜?」
「何うなってんの」

 横から聞こえた声に、目をつむり考え込んでいたはびくっとする。


「……ビックリした。どうしたの、リョーマくん」
「それこっちのセリフ。こんな所で何してるんスか、先輩」
「練習は?」
「休憩」

 肩にタオルをかけ手にドリンクボトルをもっている姿を見て、納得する。
 振り返れば、休憩に入ったらしい生徒が水飲み場の方へ行くのが見えた。


「で、質問に答えて欲しいんスけど」
「え、ああ。えーっと、見学?」
「こんな所から?」
「あっはっは……ちょっと訳アリで」

 横目で見上げられ、目をそらす。
 別にやましい気持ちはないつもりだが、確かに見学と言うには変な場所だ。


「ひょっとして先輩、桃先輩とケンカでもしました?」
「へ? いや、なんで?」
先輩がこんな所から覗いてるし、桃先輩はこの頃様子変だし」
「やっぱり、リョーマくんも変だと思う!?」
「うなってた理由、それッスか」

 ぐ、と詰まり口を閉ざす。
 しかし、前半はともかく後半の言葉。
 部活仲間から見ても感じている違和感。

 先ほどのやりとりを思い返してみる。
 スマッシュを決めて、笑顔になって、それから。

「……あ」

 表情と表情の合間。
 そこで軽い溜め息をついていたことを思いだして眉を寄せる。

「桃が溜め息つくなんて……疲れてんのかな」
「だとしたら、部活以外だと思いますけど」
「え、何で?」
「身に覚え、あるんじゃないスか?」

 口元に笑みを浮かべたリョーマの視線に、顔が赤くなるのが判る。

「え、べ、別に、私は」
「桃先輩、遠い目しながらぼそぼそ話したりするから気持ち悪いんスよ」
「あいつ、喋ったの!?」
「……早めに結論出した方がいいと思いますけど」
「いやだって、急にあんなこと言われても、私は桃は友達って思ってたし……」





「ふーん、桃先輩告白したんだ」





「……は?」
「それで返事は保留中、と。なるほどね」
「ちょっと待った。話聞いてるんじゃないの?」
「別に。何かぶつぶつ言ってて気味悪いなーとは思ってましたけど」

 やられた。
 確かに、桃城から話を聞いていたと明言はしていなかったが。
 口を滑らせた自分に呆れてしまう。

「……リョーマくん、誘導尋問上手だね」
「先輩が単純なんスよ」

 確かに生意気な一年だね、とジト目でこぼし、
 そのままずりずりとしゃがみこむ。


「あーあ、もう。私だって溜め息でるよ」
「何で返事しないんスか」
「……後輩に恋愛相談する気はないよー」

 虚ろな声で答えるが、ここまで言ってしまえば後は芋づる式。
 結局の所、問題点はひとつ。

 ―― 友情と恋愛感情の差が判らない


「私、お子ちゃまだからね〜。好きの種類ってわかんないんだ」

 ヒザを抱えて空を見上げるに、ドリンクを飲み終えてリョーマは首を傾げる。

「いーんじゃないスか、それで」
「…………は?」

 視線を戻したに、リョーマは目を合わせる。

「別に呼び方変える必要ないでしょう。カレシカノジョだろうがトモダチだろうが」
「いや、だって桃は、それをはっきりさせたいって言ってるわけだし」
「それは桃先輩の言い分でしょう? 先輩はどうしたいんスか?」
「私……は、」
「結局の所、側に居たいか居たくないか、って問題なんだし」


 ぱちぱち、と目を瞬かせる。
 側に居たいか居たくないかと言われたら、それはもちろん


「ぃよっし!」

 勢いをつけて立ち上がるに、リョーマは不敵に笑う。

「オレ、今日桃先輩とマック寄る約束あるんスけど」
「ん?」
「ファンタ一週間で手を打ちますよ」
「三日にまけといて」
「りょーかい」


 リョーマが顔の横に挙げた手に気持ちを後押しされ、勢いよく手を打ち付ける。
 乾いた音に更に背中を押されて、コートに足を向けた。

 ベンチには顔にタオルを乗せて休んでいる桃城の姿。


「桃! 今日一緒に帰ろう!!」

 驚いてタオルを落とす桃城に手を振る。
 瞬間固まった桃城だったが、ふっきれた表情のに、手を挙げて応えた。








 二人が笑顔でいられるように
 そのためにまず、自分が笑顔で
 素直な気持ちを相手に告げよう






*あとがき*

ようやくここまで書けたという感じで。いやホント良かったです。
桃ちゃんが喋ってません。それこそ笑うしかない。あっはっは(殴)

リョーマ君。彼はサブキャラで出てくるととても良く動いてくれます。
桃ちゃんドリです、これは。うん。ええ。…多分。
頑張れ桃ちゃん、乗っ取られるなー。

終わりじゃなくてここからが始まりってよく言いますが。
まぁようやくスタートラインという感じの二人です。
言うなれば、友情延長微甘系で(何だそれは)


2004.08.13 伊織




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