片方だけなくなってしまったから
どこにもゆけずたちどまっている彼。

*サンダル*




熱い太陽がとおい空に照っている。
あおが二つ。海の碧と空の蒼。
そのどちらにも染まらないカモメ。


うみべの砂浜に座った内村はなにをかんがえているのか
よくわからない顔で水平線をみつめていた。
はそんな内村京介になにをいうわけでもなく
ただそばにいるのがあたりまえのようにして
いっしょにぼうっとしていた。
すると内村がひとことぼそりとつぶやいた。


「なんにもない海はいい」
「なんにもない海?」
「船もなにもない海。砂浜にだれもいない海。」
「それでなんにもない海」
「ああ」


満足そうでも不満そうでもない声で
内村は言った。


二人の目の前にはふたつの線。
とおくの空と海とをわける線。
ひいてはかえす白いレースと砂浜の線。
それだけ。


でも、とは内村に向かって言った。

「この二つの線だけの海には、どれだけの生き物がいるんだとおもう?」


ふたりのみえないところで
いくつもの命をはらむ海。




内村はその言葉に何かをいいかえそうとした。
はだまって内村のはだしになった右足に
どこからか拾ってきたサンダルをはめて、顔をみつめた。









2004.09.10 石蕗柚子




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