男の子に触られるだけで厭だった時もある。

*免疫*


「…ある特定の病原体、またはそれが出す毒素に対して、生体が特異的に抵抗性を増した状態。
また、特定の物質や条件に対し、正常者とは変わった過敏な反応を示すことは……」

「あーもういい」

 赤澤は両手を挙げた。降参のポーズ。
 辞書を片手に持ったは、椅子に座った赤澤を細目で見下ろした。

「なにいってんのよ。金田くんに保体教えるんじゃなかったの?」

「んだよまったくもう。結局、感覚だろうがそんなの。
なんかコレのこといってんなーと思ったやつにマルつければいいんだろー」

 教室に窓から入った風が吹く。
 赤澤は机に突っ伏した。

「それで 『オレは保体が得意だ!』 かぁ……、
よく言えたモンだね」

「全教科ではまだ点がいいほうだ」

「威張るな」

 は保体の教科書を丸めて赤澤の頭を叩いた。
 軽い音が教室に響いた。






 窓の外は青い空。
 夏の日差しが教室に入り込む。
 斜め四十五度。
 赤澤の地黒の肌が反射する。



「……イヤなやつではないんだけどねぇ」

「んあ?」

 赤澤が顔をあげて声を漏らした。

「なんでもない」

 いじわるく笑っては返す。



 ちょっと前まで二人はいわゆる『おつきあい』というのをしていた。
 だけれども、帰宅部の、部活に明け暮れる赤澤の二人は
 なんとなく疎遠になり、事実上別れた。
 しかし、まあこのように悪友然として話すことは多々あった。

 告白はの方からしたように思う。
 別れもの方から。
 赤澤は、時折思い返す。そんなこともあったな、と。

 一方、も、ふと思うのだ。
 嵐のように過ぎ去っていったこの男はなんだったのだろうな、と。





 とりあえず解るのは、
 その季節の後にが前より少し変われた部分があるということ。

 昔は男子と手をつなぐのも一苦労だった。
 それがまあ今では、彼らも同じ人間なのだと認められる。


 ―――ひたむきなのは認めるよ、一応。





「そうやって未開の地を土足で踏み込んでいくのがあんたの特技なんだね」

「なんだそりゃ」

 赤澤は心外な顔をした。



「はい、保体の教科書。もう一人でやりなさい」

 私は降りた、と

「うぉーい待ってくれよ。一人じゃもう限界なんだって」

「知るか。もうつきあってらんないよ」

 まとわりつく赤澤をは軽くあしらった。






 とりあえず、これが一つのの成長。







*あとがき*

石蕗柚子お題一つ目、ということで。
最初のセリフはBookShelfBasic、ver2.0からでした。

むん。小学校から中学、高校って凄い微妙な時期だと思うのです。
潔癖すぎたり、好奇心旺盛すぎたり。
危ういなあと思います。やたら悩むし。
もう一度あの頃に戻れといわれたら断固お断りしたいですね。

けれども私は青春が好きです。
悩めよ若人、行けばわかるさ! (○ノキ)

2004.05.18 石蕗 柚子




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