成人をむかえるまでは一人前じゃないから

*未成年*




「だからなんでもゆるされるの?」
「ゆるされることとゆるされないことがあるんだろう」


 白い保健室に黒い帽子を被った内村。
 授業中に発熱したため休んでいるを見舞うという言い訳をつかって
 長めの自主休憩中だ。
 こんなとき保健委員もわりといいものかもしれない、と内村は考えた。
 積極的になろうとは考えなかったが。


「へんなことで悩むな。熱でてるんだろう。知恵熱で加熱するぞ」
「内村の言葉がクールだからそのぶん熱が下がるよ」
「その理屈はなんだ」


 保健室の先生がちょうどいなかったのでずるずると自主休憩はつづく。
 ひきとめるのほうも 「これは内村の授業を聞かないくせを増長している」
 という考えが熱にうかされて実感できない。


 妙な居心地のよさが二人をおそった。
 二人はあらがうこともしなかった。


 とめどなく水のように
(立て板に水ということわざのように)
 思考はかけめぐり、ちいさなあたまを圧迫する。
 そのいきどおりがふきでるのは言葉を発する口であったり
 涙を流す目であったり。


「ゆるされることは?」
「いろんなこと」
「いろんな?」
「世間では人としてゆるされないことであったりもするな」
「未成年は人じゃないんだね」
「なかなか優れた考え方だよな。大人になるまでの猶予期間だ」



「いまのうちにそのぶん大切なことを学んでいかなくちゃいけないんだ」
「大切なことってなんなのかな」
「それを考えなくちゃいけないんだろう」
「こんなに長い間?」
「こんなに長い間生きていても学びきれなかったやつらはたくさんいる」
「そんなふうにならないようにしなくちゃならないんだね」
「そうだ」




「内村はどんな大人になりたい?」
「小学校のころに書いた作文にあるだろ」
「もうずっと昔の事みたいに感じるよ」
「そんなに前の事じゃないのにな」
「あのときは嫌々かいてたけど、今はもっと明確に考えられるはずでしょう?」
「そうだな」
「あのね、他人にどう思われるかじゃなくって自分が自分をゆるせるように生きたい」
「漠然としてるな」
「だけど具体的でしょう」
「ああ」


「………おれが小学生の頃なりたかった大人は……」




 ふっとあいづちがなくなったことに気がついて内村は白いベッドにやすんだをみた。


「………寝てる」





*あとがき*

男が昔話をしはじめたらてきとうに流すといいよ。


2004.10.25 石蕗柚子




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