*手土産*




 金田は努力家だ。
 彼は一度そうきめたら動かないらしい。
 そのがんばり方は生来ぐうたら者の私からしてみれば
 「おいおい大丈夫?」 と声をかけたくなるようなほどであり
 実際いつか倒れてしまうんじゃないかと危惧して
 いつも救急車を呼ぶ準備と応急処置の予習は欠かしたことはないのだが
 ところがどっこい、というかなんというか
 金田は今日もけろりと奮闘している。



「金田はどうしてそんなにできるの?」

「へっ。何のことだよ?」

「なんでそこまで練習できるのかってこと」




 人気のないコート。
 夕焼けはもうビルの谷間に落ちてしまいそうになっていて
 校舎も金田も金田のもつネットも赤い。
 染められたそれらはなんだかいつもと違っているようで
 だけどもちっともかわっていない。

 スクール組はテニススクールのほうに行ってしまっている。
 そのほかのテニス部員は赤澤部長も含めてもう帰ってしまった時間だ。
 けれど金田は 「もうちょっとだけ」 と一人で特訓をしていた。
 今はそれも終わって帰るまえのコート整備にとりかかっている。
 これまでの練習風景をみたついでに手土産をもって私は金田の一部始終を見届けていた。

 純粋な私の疑問をきいた金田は恥ずかしいのか少しこちらから目をそらして、
 だけれど迷わずに言った。



「俺には目標があるから」




 そうつぶやいた金田の顔はどこか知らない男のようだった。
 なにか私にはわからないものを抱えてる男の子の顔。
 夕焼けに映えて、すっかり別人のように感じた。

 私はなんだかくやしくなってムッとした。



「そっか」

「……どうかした?」

「なんでもないよ」




 いつか金田は迷ってた。
 その背中を押したやつの気持ちじゃないな。
 私はそう思って首をふった。




「これ。飲みなよ差しいれ」



 後ろ手にもっていたスポーツドリンクをさしだす。
 それを受け取った金田の顔はなんだか妙だったけど気にしない。
 別に、うらやましくなんてないよ。



「ありがとう、



 そう言ってくれた金田に、にかっと笑って返した。





*あとがき*


なにかに向かってる人の顔はいいね。

2004.11.12 石蕗柚子




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