*からっぽ*内村京介は夜空を見上げることが多かった。 それは特に星空の綺麗さを知っているからとかそういったことではなく 単にすることもしたいこともないからだった。 内村京介は草むらに座り込んでいた。 その帽子はつばの部分をすこし上にしてじいっと空を無感動に見据える。 夜風が草むらをゆらした。 その匂いに別のものが混じったので内村は振り返った。 近くにあるテントからの夜食を持っただった。 「おじさんたち盛り上がっているよ」 「みたいだな」 一緒にキャンプに来ている親戚たちは二人のいる場所よりも 少し離れた場所に集まっているのでがやがやとした音しか聞こえない。 「あれはオリオン座?」 「オリオンは冬の星座だ。あれはこと座だろうが」 「……じゃああれは?」 「鷲座。夏の大三角形もわからんのか」 「………くわしいね」 「まあな。森から教えてもらったんだけど」 そうして夜空を見上げているとふと一筋の光が流れた。 流れ星だ。 は小さく感嘆の声をあげた。 「何か願い事をした?」 は内村に訊ねた。 内村は口を少し開きかけたが、やめて考え込んだ。 そして首を振る。 「わからん」 はうん、と頷き 自分もそうだと返した。 満天の星空の下 ちっぽけな二人はからっぽの手のひらをそっとつないだ。 2005.03.03 石蕗柚子 <<戻る |