*グレープフルーツ*




 夕暮れ、は内村宅のチャイムを押した。
 親戚からの頂き物、おすそわけに籠いっぱいの果物を手にして。
 たまにはトマトばかりではなくこんなものもいい。


か」


 内村京介は扉を開けてを招き入れるとおもむろに一個手にとった。




「………さすがにそのまま食べはしないよね」
「はあ?」
「ううんなんでもないよ」




 は台所に立つ。


 斜陽に黄色がぼんやりとにじんでいる。
 グレープフルーツ。


 柑橘の薫りがたちこめて部屋中にその存在を誇示しても
 包丁をいれないわけにはいかない。
 ましてやそのまま腐らせるわけにもいかない。




 だっておなかがすくのだもの。


 そんなわけで細工は粒々。
 後は仕上げをごろうじろ。




「酸っぱいな」
「あたりまえでしょう。グレープフルーツだもん」




 一人で食べきれない?
 しょうがない。せめてふたりで一個にしましょう。
 酸いも甘いもふたりでひとつ。
 噛み分けましょう。





*あとがき*
そのうち酸っぱさもくせになるものさ。


2005.02.04 石蕗柚子




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