ばこ病のない社会をめざして

「たばこについての見解と政策要求」

2005年1月    

た ば こ 病 を な く す 横浜裁判原告団
(たばこ病損害賠償等横浜裁判原告団)

《代   表》 水野雅信 (肺気腫)

《副 代 表》 森下賢一 (肺気腫)

《事務局長》 高橋是良 (肺 癌)

世界はこぞってたばこ規制へ

 2003年5月21日WHO(世界保健機関)総会は日本政府を含む全会一致で「たばこ規制枠組条約」を採択しました。また日本でも同年5月1日から健康増進法が施行され、公共施設などでの禁煙と受動(間接)喫煙防止の取り組みが進んでいます。

 21世紀、WHOが公衆衛生の国際条約をはじめて採択するにあたって、たばこを対象にしたことは注目されるべきです。たばこ喫煙によって世界で490万人、日本で10万人もが毎年死亡し、年々その数を増しています。 (注1)
 政府は従来認めていなかった喫煙と肺癌などの因果関係を認め、今年中には具体的な警告文をたばこ包装に印刷することになりました。(注2) たばこ喫煙は人間にとって極めて有害・危険であり、もはや放置できない状況であり、全世界が一致して規制にのり出すこととなりました。

 私たちはこれを心から歓迎し、人類がたばこ病で苦しむことのない社会の実現へ共に前進したいと思います。

私たちの喫煙体験

 私たちはそれぞれ経過の違いはありますが、喫煙によって肺癌・肺気腫などたばこ病になりました。家族・友人などの反対や忠告を押し切って喫煙を続けた結果でした。たばこが切れれば夜中でも買いに行くほどの依存(中毒)に陥っていました。しかし、私たちはまさか自分が依存症という疾病に既にかかっているとは気付いていませんでした。まして、たばこで死ぬほど苦しむことになるとは想像もできませんでした。
 たばこは個人の楽しみであり、人にとやかく言われるものではないと考えていたのです。

 1960年代中頃になると、たばこは体に悪いというニュースを耳にするようになりました。その後、肺癌との関連があるようだという話をきくようになりました。しかし、私たちは「今日も元気だ たばこがうまい!」という専売公社の宣伝コピーに共感していました。たばこにも身体にいいことがあるのではないかと思い喫煙を続けました。しかしいざ深刻な病気となり、闘病のつらさと苦しみ、それに引き続く不自由な身体や死へのおびえ、生活の不安に直面したとき、当惑するばかりでした。その上、早く禁煙すべきだったという悔恨と、家族・友人へのすまない思いは消えることがありません。

 たばこ喫煙と受動(間接)喫煙による年10万人ものたばこ病死亡者。おそらくその誰もが共通の悔恨や苦しみ、怒り、不安、悲しみ、そして家族への思いを残して、力尽きていったものと思われます。

痛苦の体験はさけられなかったのか

 たばこ病で闘病、療養中の数え切れない患者・障害者及び家族の苦闘と困難は、喫煙と受動(間接)喫煙によってもたらされたものです。数十万人から数百万人のおびただしい規模での状況を見れば、日本政府と日本たばこ産業鰍フたばこ政策・たばこの独占的大量販売がいかに国民の幸福を奪っているかは明白です。(注3)

 たばこで病気になったのは自業自得ではないのかと私たちも苦しみました。自業自得とは喫煙した者が悪い、早く禁煙するべきだった、反省すべきは本人で責任を負うのも当然本人、不明を恥じるしかないということになるでしょう。しかしそれにしては、自業自得者・自らの不明を恥じなければならない国民があまりに多すぎるのではないでしょうか(3300万人を超える喫煙者、1800万人の依存症患者など)。(注4) その結果、交通事故死の10倍、自殺の3倍もの国民が早死にし、しかも医療費など社会的にも毎年4兆円以上の損害(注5)を招いています。そのうえ、喫煙する国民から2兆3千億円の税収を確保すべく、政府はたばこの大量販売を無責任にも認め続けているのです。

 私たちをはじめ多くの国民はたばこの健康への深く強い有害性について知らされていなかったのです。また、今でも国民の多くがたばこについてきちんと教育されず平気で喫煙しています。

 生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、最大の尊重を必要とする。(憲法13条) また、すべて国民は、健康で文化的最低限度の生活を営む権利を有する。国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。(25条)。これらの条項はどの内閣、どの閣僚も常に銘記すべきものです。したがってたばこ喫煙の人間の生命への危険性・有害性が判明した1960年代半ばから強い警告と社会的規制を実施し、将来における生産・販売の中止の方向性が示されていれば、これほどの深刻な事態は避けられたことでしょう。(注6)

たばこは商品?

 広く販売されている食品が、発癌性物質や人体に有害な毒物を含んでいることが判明した場合どうなるでしょうか。商品は生産・販売の中止・禁止となり、生産工場や会社経営陣の責任が問われます。さらに国をはじめ、公的機関の検査・指導・監督責任が追及されることも言うまでもありません。酒・茶・コーヒーのような嗜好品でも発癌商品など認められないことは当然です。

 たばこは喫煙によってその成分(発癌物質や各種毒性物質)が肺から血流にのって全身をかけめぐります。食べたものが胃腸を通じて消化され、その成分が血流にのるのと同じことです。さらに、たばこは唾液に溶けて胃腸を通じても全身をかけめぐることをみれば、その安全確保は食品に準ずる扱いとすべきです。(注7)

販売中止の確固たる決断が求められていた

 食品であれ、嗜好品であれ、生命の安全を脅かす商品は社会的に許されず、商品たり得ません。たばこも生命への有害性・危険性が判断できたときから同様の扱いをされるべきだったのです。政府の確固たる決断が求められていたのに、これが放置されたのです。

 たばこ喫煙及び受動(間接)喫煙が、「死亡、疾病及び身体障害における数多くの原因と関連づけられているという科学的根拠は明らかに確立」(注8)されています。たばこは人間の健康と両立し得ないことは明らかです。

 2000年世界禁煙デーにあたってのWHOのメッセージでは、「決められた用法に従って使うと死んでしまう商品は、たばこだけだ。たばこには強い依存性がある。…たばこは単に葉っぱを紙で巻いたものではない。死ぬまでやめられないように巧妙に開発された製品なのだ。」と述べています。 

たばこに手を出すなという認識を全ての人に!

 “たばこに手を出すな”“喫煙は死病をもたらすという社会的共有認識を社会のすみずみに定着させることが必要です。すでにアメリカやE.U.(ヨーロッパ連合)がその全ての域内諸国で、その国民の健康を守り増進させるために厳しいたばこ規制の取り組みを始めていることは、日本にとっても教訓的です。世界一の長寿国日本で、男性が女性より大幅に若死になのは、たばこ喫煙と関係していないのでしょうか。

 たばこ病の克服と根絶への取り組みは、国民的な緊急課題ではないでしょうか。3000万人を超える国民が死と身体の破滅への大行進を続けていることをストップしなければなりません。たばこ規制枠組条約の批准を契機に、全国会議員・政府・自治体・政党・企業・労組などの長や幹部の禁煙・卒煙宣言など、社会への働きかけとイニシアティブが期待されます。

たばこ病のない健康な社会を

 少子高齢化社会では、子供を生み・育てやすい社会をつくることと共に、生を受けた人間が高齢になるまで健康で元気に働き、社会的にも貢献でき、必要とされること、家族関係でも同様にそれが求められています。

 国の政策の基本は、憲法上からもまさにここにあると考えますがいかがでしょうか。私たちは自らの体験と苦しみをふまえ、たばこに対する見解と政策要求を発表し、たばこ病のないより健康な社会をめざして大いなるたばこ論議を呼びかけます。


1. 日本政府は、日本政府を含む全会一致で採択した「たばこ規制枠組条約」を最低基準として、誠実に、しかも早急に国内法に具体化することを表明すべきである。
2. たばこ規制枠組条約の目的は、「継続的かつ実質的に喫煙率及びたばこ煙への曝露を減少させるための枠組みを提供することにより、たばこの消費及びたばこ煙への曝露によってもたらされる健康、社会、環境及び経済に与える破壊的な影響から現在及び将来の世代を保護すること」となっています。
 3,000万人もの喫煙者を生み出したこと、数え切れないたばこ病患者を生じさせ、毎年およそ10万人が死亡していることは、たばこ規制枠組条約の目的と相反すること。
 憲法13条の基本的人権の尊重並びに25条の生存権・社会保障・公衆衛生向上増進の義務に違反して、国民の生命と健康を大きく損なってきたこと、たばこ病患者とその家族が健康で文化的な生活を営む権利をそこない、闘病・療養を余儀なくさせ、数多の苦難を強い、医療・福祉・社会保障・公衆衛生などに深刻な悪影響を与えたこと。
 以上について日本政府はこれを認め、深い反省と国民への謝罪をすること。
3. 多くの国民がたばこ病で苦しみ、死亡していることをふまえ、死に至らないまでも苦しい闘病あるいは療養中の患者・障害者と家族に謝罪し、治療費及び介護費用等を別途全額国庫で負担すること。生活支援等の特別対策を実施すること。
4. 喫煙から脱したいと望む全ての喫煙者が禁煙外来等の医師の指導援助を無料で受けられるよう態勢を強化し、別途国の費用負担を行うこと。
5. 将来全ての人間がたばこ喫煙を望まない社会の実現を目指すこと。当面、たばこの生産と販売中止にむけた国民的合意づくりをすすめるための総合的な国民参加のプロジェクトを発足させること。これにはたばこ農家・たばこ小売店の代表も含まれ、転業補償や支援、生活支援や保障も含まれる。
  たばこ病治療の飛躍的発展を早急に実現すべく、日本の医科学の総力が結集できるプロジェクトチームを発足させること。
6. 未成年者の喫煙を防止する手段として、@学校内は完全禁煙とし、学校教育におけるたばこ喫煙の有害性の学習を徹底すること。その学習内容は喫煙による身体への影響だけでなく、現代日本の数知れない家庭内論争、家族の不和の原因となっていること、たばこ病患者とその家族の苦難も含めること。Aたばこの自動販売機60余万台の存在は未成年者の喫煙禁止の実効性を失わせるものであり、その販売を中止すること。B地域社会で保健所・学校・警察・消防・地域自治会・町内会等が協力し、未成年者喫煙防止パトロールなど禁煙指導・教育・援助の体制をとること。
7. 妊娠中の女性喫煙及び受動(間接)喫煙防止策を早急に実施すること。保健所による妊婦への指導援助、及び母子手帳に喫煙及び受動(間接)喫煙の危険性・有害性を明記すること。
. 健康増進法における国民の健康維持義務は国にあることを明確にし、国民の健康維持のための様々な援助を具体化し、これに国民の協力を求める内容とすること。国及び政府の義務を国民に転化するのは憲法25条に違反するものである。

9. その他、当面の緊急課題として以下の事項を具体化すること。
 @ 警告表示の一層の強化。
 A たばこ宣伝の禁止。テレビ・映画など映像場面での喫煙シーン廃止。
 B 全ての公共施設、飲食店など人の集まる場所での全面禁煙。歩行禁煙。受動(間接)喫煙防止策の徹底。
 C 最新の医科学情報に基づいてたばこ喫煙の依存症とその有害性、喫煙を止めることの必要性を絶えず呼びかけ、自らの意志で禁煙・卒煙できるよう国・自治体・医療関係者・報道関係者等の連携・援助・指導・治療体制を早急に確立すること。
10. 財務省は2兆3千億円の税収の他に、株主として日本たばこ鰍フ66,7%、133万余りの株式を所有し、その配当は133億円に達している。@今後たばこ事業及びたばこ事業法の所管官庁を財務省から厚生労働省へ移すこと。たばこ事業法を廃棄して「たばこ規制・禁止及び禁煙推進法(仮称)」を制定すること。法律には、の見解内容が盛り込まれ、政策と事業推進を具体的化すること。この事業財源は現在のたばこ税収を目的税とし、たばこ政策の抜本的転換とたばこ病の克服・根絶・たばこ病患者の救済・たばこ病の治療費等にあてること。A日本たばこ鰍ヘたばこ産業から撤退すること、当面4兆5〜6千億円の売り上げから税収分を差し引いた額の数パーセントを治療費等にあてること。たばこの開発研究・宣伝費の支出は凍結すること。B当面、外国たばこの段階的関税強化及び輸入の計画的削減をはかること。

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(注)

1 2000年3月、厚生省健康21報告書は、たばこによる超過死亡数が1995年段階で95,000人と推定。全死亡数の12%を占めていると報告。

 2003年7月1日、財務相の諮問機関である、財政制度等審議会たばこ事業等分科会は、たばこの包装に病名を明示した健康被害の危険などを具体的に記載させることを決めた。来年中には実施されるもので、肺癌・肺気腫・心筋梗塞・脳卒中の四疾病の注意のほか、早産など妊婦への悪影響、喫煙への依存の可能性、未成年者の喫煙、受動喫煙の危険性など、8種類。なお歯周病との関連も強く、たばこ喫煙がもたらす健康被害は広く深く甚大で、更に明らかにされる必要がある。

 肺気腫患者はヘビースモーカー(一日20本、20年以上)のおよそ20%に発症する。例えば、500万人〜1000万人のヘビースモーカー人口があれば、肺気腫だけで100万人〜200万人の患者が発生する。

4 1999年厚生省「喫煙と健康問題に関する実態調査」より。女性喫煙率は、13,4%だが、20代は、23,2%である。

 厚生省健康21報告書

 1964年、米国公衆衛生局長官発表。紙巻たばこが肺癌の原因となる。その他の疾病にも因果関係ある、と報告。

 たばこ煙には4,000種の化学物質、200以上の発癌及び癌促進物質が含まれている。岩波新書 伊佐山芳郎著『現代たばこ戦争』

 WHOたばこ規制枠組条約前文
  


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