「日米安保条約」の条文を覚醒して読む

「日米安保条約は不公平、変えなければ」と、トランプ(敬称省略)が言った。
では、どのように不公平かというと、「もし、誰かが日本を襲撃したら、米国は日本のために攻撃し、米国は戦争状態になるが、しかし、米国が攻撃されても、日本は攻撃しなくてもいい」ということらしい。

この言葉からみれば、確かに日米安保条約は不公平きわまりない。米国にとって、そんなに不利な条約なら、一刻も早く条約を解消し、日本の領土から軍隊を撤退させたがいい。それが米国ファーストの理念にかなうのでは、とトランプの意見に大賛成である。日本としても、第二次世界大戦後も常にどこかの国に出向いては戦争をしている米国が日本の領土から出て行ってくれるのであるから、願ったりかなったりである、というのが、私の個人的意見である。

では、1951年締結済みの安保条約の改定を、米国は、何故に、1960年に行ったのか?
答えは明白である。米国にとって必要な改訂だったからである。
理由も、当時の世界情勢を振り返れば明白である。

米ソ双方における大陸間弾道ミサイル開発競争をもって、冷戦が再び緊張状態になったのが1958年ごろからである。したがって、日本領土内の米軍基地はソ連はもちろん他の共産圏から自国を守るための必須の存在だったのである。ここで書いた自国とは、もちろん米国自体である。日本ではない。

ということで、安保改訂条約の条文を読んでみなければならないが、すでに拙本「日本語を教えない国日本」において検証済みなので、次に必要な箇所(「第八章覚醒して日米安全保障条約を読む」内「第五条・1」)のみの要点を抜粋する。

第5条・1の英語原文
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan
would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutioal provisions and processes.
第5条・1の日本語訳文
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

大きな問題は、日本語訳に反映されていない原文内の「would」である。
[would]、は時制の一致のために「will」の過去形として用いられるほか、文面によっていろいろな意味を生じる単語である。主なものをあげると、「意図・意向」、「可能性」、「意見」、「望み」等がある。では、この「would」を忠実に反映させて日本語にしてみる。

各締約国は、日本国施政下にある領域における、いずれ一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくする
かもしれないと認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動するかもしれないことを宣言する。

文面だけを読めば、日本自体が武力攻撃の標的になりえる確率は、日本に駐留する米軍と同様に五分五分である。しかし、戦争放棄憲法をもつ日本自体が標的になる確率はゼロに近い。他国からの攻撃がある得るとしたら、標的は常に外国を攻撃している日本に駐留している米軍である。攻撃標的が米軍であっても、実際に爆弾を受けるのは日本領土であり、米国本土ではない。不公平である。

不公平は他にもある。日本領土上の米国基地への攻撃に対して、米国が彼らの国の平和を危うくするものと認めて対処するのは当然だとしても、日本は、標的が日本でなければ、惨劇を極力抑えるためにも冷静でなければならない。しかるに、「第5条・1」は、標的が米国であっても、日本は日本の平和を危うくするものとして対処すると言っているのである。日本が米国の言いなりに、熱くなって対処したら、日本国領域はさらに戦火に巻き込まれる危険性がある。日本人の立場からしたら、これを不公平と言わずに何と言う。

認識して、そして、忘れないでほしい。条文の英語原文には二つの「would」があるということを。