10月のご案内(B.E. Buddhist era 仏暦2542)

 「今日、世間一般で仏教と言う名で行われている儀式の約8割は儒教の影響を受けたものです」と阪大の名誉教授がいうのをラジオで聞きました。そう言えば仏教で学ぶ内容と仏教の儀式の内容との相違を感じていた私は頷くことが出来たました。しかし、そんなに沢山かともびっくりもしました。よく葬式仏教といわれることもあるがその一面をみて仏教の全体と決め付けると本当の仏教を見てないことになる危惧があるということのようです。
 今年のWHO(世界保健機構)の総会で健康の定義が変更されようとしました。結果的には時期尚早と言うことで決定までには到らなかったようです。どういう事かというと、従来「健康」とは肉体的(physical)精神的(mental)社会的(social)に健全であるといいうことにしていたのが今回SPIRITUAL(名詞形のspiritは「魂」あるいは「霊(精神)」と訳されることが多い)とdynamic(動的、機能している)の2語が加えられようとしたのです。特にSPIRITUALをどう訳するかということが日本の関係者の間で問題になっています。なぜならこの概念は日本の文化・言葉に無かったというか、なじみのない(いや、無視していた)分野の言葉だからす。具体的には「人間に生まれた意味は何ですか」「本当に生きるとはどういうことですか」「死ぬために生きているのですか」「苦悩しながら生きる意味はあるのですか」等の問いに答える領域に関することと思われます。西洋(キリスト教も含む)の文化に由来する言葉でしょう。学者・関係者の皆様がどうな訳を作るか期待と不安を持って待っているところです。
 敬老の日を機会に長寿のお祝いが新聞等で報道されますが、長生きを祝うことはこれからはなくなると思われます(私の希望的見通し)。まず長生きした人が必ずしも喜ばしい、望ましい、うらやましい、幸せ、等と言えなくなって来ていると言うことです。また戦後、一時「健康優良児」と言うことの表彰がなされていましたが止めてしまいました、一部にただ早熟して同年齢の人より身体が大きいだけということが解ってきた(高校ぐらいになると結果的には同年齢の人より小さいことにもなってしまったと言うこともよくあったのです)ということを聞いたことがあります。長生きも年齢、馬齢を重ねたと言うだけではおめでたいといえなくなってきたと気づく人が多くなると思うからです。まさに今回の健康の定義の変更の動きに多いに関係すると思うからです。
 仏教の学び(お経に尋ねる、仏法の本を読む、よき師の話しを聞く等)のなかで現代の仏教界の実態、儀式の持つ意味合い等を知らされ、健康の定義の変更の目指すところも頷けてくるのです。医療・仏教が共に「生老病死」を課題として取り組んでいると言う指摘をあらためて納得したことであります。
 人間の苦悩を救うという使命に医療・仏教が取り組むわけですが役割分担の自覚が大切だと思うのです。そして相手の役割の尊重、そして協力し合うことが悩める人の救いへとつながるのではないでしょうか。
 役割分担について書いてみます。、人間の苦悩は「自分の現実」と「自分の思い」の差に比例するのです。差が無ければ苦悩はないわけです。私は私でよかったと安心、満足できるわけです。差を小さくする取り組みの中で健康の定義を変えないことには解決できない側面が見えてきてSPIRITUALという要素を加えようとしたのです。病気と言う現実が苦悩の元になるのは私の思いが健康と言う状態を想定しているからです。病気を健康と言う状態に戻すために医学知識・技術・薬等が動員されます。
 しかし病気を良くする取り組みの全体像を客観的に見ると「自然の治癒力で良くなるのが80%、医療技術で良くなるのが12%、という、後の8%は医療でかえって悪くなる」と医療関係者が発言しています。医師が見て病気は良くなっているのに依然として苦悩が残る(精神的な取り組みをしても)ことがある、そこでSPIRITUALと言う側面を持ってこざるを得なかったわけです。病気を治癒に導く取り組みをすると同時に病気である現実を受容するというの取り組みが同時に大事になるのです。まして治癒不可能な病気、老化に関係した病気ではその取り組みの方がより大きな役割を果たします。自然の治癒力を促進する働きかけ(療養環境の整備等)そして現実を受容する取り組みに隣人.家族・仏教の役割は大きいのです。
 医学知識や医療技術に対抗しようという宗教の名を語る邪教もはびこっていますが良識のある対応を期待する次第です。仏教は尋ねて見ると医療という世界をも包み込む、私の思いを越えた領域であるとの自覚にもつながる世界なのです。
 念のためWHOで予定されている英文の定義案を添えておきます。
[Health is a dynamic state of complete physical,mental,spiritual and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity] WHO

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