「今を生きる」第40回   大分合同新聞 平成17年12月26日(月)朝刊 文化欄掲載

都市社会(2)
 
フランスでの移民二世、三世の若者による社会不安は仕事の有無、貧富の差の拡大が原因だと報道されています。都市社会では経済活動が大きな地位を占めています。現実の生活で、人々の悩みの大半はお金がらみです。お金に不自由しなければ、ほとんどの悩みは解決するだろうと思っています。都市社会では特に、生活のすべての領域でお金なしでは動きがとれないという現実があります。お金さえあれば、幸せになれると考えるのも無理はありません。しかし、ある資産家が「貧乏人にはお金持ちの苦労が分からない」と言ったということを聞いたことがあります。金の不自由さに苦しんでいる者は「一度でいいから、お金持ちの苦労を味わってみたい」と夢見るものです。私の学生時代(三十数年前)、「宗教は確かに人間の苦しみを軽くするかも知れないが、人間の不満を覆い隠し、社会の矛盾から目をそらし、物事の本質を見誤らせるアヘンである」と聞かされたことがあります。また、「本当に人間を救うのは経済の課題で、富を平等に分配していくことで人間は救われる、経済的な要素こそが人間の幸せや満足度に大きな影響を及ぼすのだ」という主張がなされていました。国民が平等に物質的に潤っていくことで、確かに人々の不満は少なくなるでしょう。現象的には、現在の日本は物質的な豊かさがそこそこ実現されています。しかし、高齢者の多くが「年を取っても、何もいいことがない」と愚痴をこぼしているのは、なぜでしょうか。

田畑正久(たばた まさひさ)
1949年、大分県宇佐市の生まれ。九大病院、国立中津病院を経て東国東広域病院へ、同院長を10年間勤め2004年の3月勇退。現在宇佐市の佐藤第二病院に医師として勤務、飯田女子短大客員教授として医療と仏教の協力関係構築に取り組んでいる。

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