「今を生きる」第41回 大分合同新聞 平成18年1月9日(月)朝刊 文化欄掲載
都市社会(3)
欲望の充足を是とするような価値観をもって、欲望を満たしてその先にしあわせがあると信じて疑わないのが現代社会であるように思われます。
政治・経済は、より多くの人間のしあわせを求める活動の調整機能という一面があります。選挙のときは立候補者のほとんどが「良い社会を実現させるようにがんばります」と訴えて支持を求めています。訴えが本当ならば立候補者の誰が選ばれても世の中は良い方向に向かっていくはずです。民主主義を発展ささえるために選挙が繰り返されてきましたが、その歴史の集大成、結果が現在でしょう。読者の皆さんの現在のしあわせ、満足の度合いはどうですか。
国という形態が出来て以来、トップに立った為政者は国の安定、国民のしあわせを願ったことでしょう。そして、今は満たされてないかも知れないが、頑張れば将来必ずしあわせがやってくると国民を勇気づけ、鼓舞してきたのでした。
自分の思いが将来実現するという希望をもって努力する毎日のあり方は、内面では不足・不満・不安をかかえているのです。若い時ならいざ知らず、壮年期、老年期になっても明日への希望を生きる動機付けとするならば、結果として「虚しく」過ぎたということになる可能性が大きいのです。内面に不足不満をかかえた日々をいくら積み重ねても、s喜びや満足には決して至らずに、ただ「虚しく」なっていくのです。仏教が「今」「今日」「ここ」の充実を目指すのは、明日を夢見て生きることの愚かさに目が覚めたからなのです。
田畑正久(たばた まさひさ)
1949年、大分県宇佐市の生まれ。九大病院、国立中津病院を経て東国東広域病院へ、同院長を10年間勤め2004年の3月勇退。現在宇佐市の佐藤第二病院に医師として勤務、飯田女子短大客員教授として医療と仏教の協力関係構築に取り組んでいる。
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