「今を生きる」第54回   大分合同新聞 平成18年7月24日(月)朝刊 文化欄掲載

自我意識(2)

  自分に気づく、すなわち鏡に映った自分の顔を自分の顔だと気付く反応は人間ではいつごろから起こるのでしょうか?
  生後6ヶ月ぐらいだと自分だという反応を示さないで、鏡の中の像(自分)を見つめたり、笑いかけたり、働きかけたりして、鏡の中に他人がいるという反応を示すそうです。
  普通、1歳半を過ぎるころ、言葉を話し始めるころに鏡の中に映っている像が自分だと気付き始めるそうです。しかし、自我意識の発達過程の最初の自我意識は、ただ自分だけを認識する意識主体です。
  初期の自我意識は、他人の立場になって自分を見る、視点を他人の立場に移すというようなことはできないようです。自分が見ている自分だけの範囲に限定されるそうです。
  普段、私たちがいろんな事象に出合って、それは自分にとって善か・悪か、損か・得か,敵か・味方か、勝ちか・負けかと、すぐに自分のことを考える自己中心的思考に似ています。他人への配慮まで最初は気が回りません。
  自分の存在が他人に迷惑をかけてないか、嫌われてないかという、自分が周囲へ影響を及ぼしていることは考えず、他人から自分が馬鹿にされてないか、無視されたり、低く評価されていないかという、自分のことだけを意識する感受性も自我の発達に関係するようです。
  保育園の教師が園児に「みなさん、この紙は大切な物だから、お母さんかお父さん渡してね。忘れずにね」としつっこく言うと、「先生、ぼく帰ったら渡すん?」と聞きに来る園児がいるといいます。「みんな」という概念の中に、自分が入っているというふうに思えないらしいのです。初期の自我意識は、自分の視点からだけ自分を見ていて、他人の立場になって自分を見ることができないのです。
  他人の立場、仏の視点からの見える自分の姿を教えられて目覚める展開は心の内面の深さ、広がりに関係して、豊かな人生への進展の縁となります。

田畑正久(たばた まさひさ)
1949年、大分県宇佐市の生まれ。九大病院、国立中津病院を経て東国東広域病院へ、同院長を10年間勤め2004年の3月勇退。現在宇佐市の佐藤第二病院に医師として勤務、飯田女子短大客員教授として医療と仏教の協力関係構築に取り組んでいる。

(C)Copyright 1999-2017 Tannisho ni kiku kai. All right reserved.