「今を生きる」第152回   大分合同新聞 平成22年10月4日(月)朝刊 文化欄掲載

老病死を受けとめる(18)
 最近、某週刊誌に、「長生きしたいなら、健康診断(健診)を受けない方が良い」と発言する複数の有名な医療関係者の本音が掲載されました。それに対して、人間ドック関係の医療関係者があったということです。現在進行形の話題です。
 最近、メタボリック症候群の健診を受けて脂質異常の指摘を受けた私の90歳を過ぎた伯父が医療相談に来たときはビックリしました。伯父には「90歳を過ぎている状況で自覚症状の異常がなければ、もう健康診断とか受けない方がいいよ」と本音のアドバスをしました。
 保健婦さんや健診の関係者の熱心な健診受診の勧めで、まじめな伯父は素直に従ったのでしょう。生活習慣病(高血圧や糖尿病など)の健診で脂質異常や糖尿病の診断基準が一段と厳しくなって、異常を指摘されて再検査や相談に来られる方が多いです。病や健康をどう受け取るかは、その人の病気観・人生観にかかわる課題です。相談に来られた人には、じっくりと話をうかがって結果や病気の説明を納得していただけるまでするよう心がけています。時には仏教の考え方も交えながらです。
 健診では、検査項目を増やしていけばいくほど検査値が異常と判断される確率は上昇します。すべての検査項目で正常値を目指すのは、学校でのテストで百点満点を目指すのと同じです。あまりにも正常値や異常なしにとらわれる人には、「今までの人生の出来事で、すべてに百点満点を取ってこられたのですか」と皮肉を言いたくなることがあります。
 健診の判断基準は、正常値のほかに、発病率や病気による死亡率から勘案した好ましい検査値を基準値にするという仕方もあります。最近、コレステロールの基準値の判断が、研究者や個々の関係学会が作るガイドラインによって違いが出てきており、医療関係者の間で摩擦を起こしています。何を基準に判断するかは、医療関係者にとっても悩ましい課題です。

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