「今を生きる」第157回   大分合同新聞 平成22年12月20日(月)朝刊 文化欄掲載

老病死を受けとめる(23)
 ガンは根治できないけれども、医学の進歩で、ガンを患いながら今までよりは長く生存することが可能になることも増えてきています(死は避けられないが)。最先端の治療の分子標的薬剤だと前記のようなことも起こってきたと医学界新聞で報告されています。
 しかし、無増悪の生存期間を一年間延ばすのに必要な医療費は約540万円と見積もられていて、ガン患者さんの延命を現在の公的医療保険で全てをまかなうということは不可能だといわれています。
 医療の展開でガンの長期生存率が上昇し、長期にわたってガンと過ごすことが増えてくると、診断後の「生」を重視しガンを抱えながらも主体的に人生を生きていくことが課題になります。
 死をイメージさせるガンと共に生きるということは、まさに老病死の受容の文化と密接な関係が出てきます。「老病死はあってはならない事柄である」という受け取りしかできない者には「死に向かって」の長期生存はまさに苦悩の時間になるでしょう。
 患者さんが直面する困難として、治療の継続・中止の判断、身体の変化による自己否認や無力感、再発や死への不安などいろいろな課題がでてくることが予測されます。最近の癌治療学会では「“いつまで生きるか”から“いかに生きるか”へと、われわれの発想の転換が問われてくるだろう」と、議論や意見交換がなされています。
 世俗の普通の思考「健康で長生き」では間に合わなくなり、哲学・宗教を含めた人間・人生の全体をどう考えるかが問われようしています。

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