「今を生きる」第178回   大分合同新聞 平成23年10月31日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(5)修正版
 今年の9月に発表された百歳を超えた日本人は過去最多で4万7千人です。あるメディの調査ではその85%に認知症の症状が出ているそうです。医療、公衆衛生などの進歩で日本は世界の先頭をきって高齢社会になっています。
 そんな中で85歳を越える人の死亡原因の第一位になろうとしているのが「肺炎」です。肺炎の原因の大きな要素が誤嚥(ごえん)です。70歳前後の人の胃透視をしている時、バリウムが肺の方に入って一部気管支造影みたいになるのに、せきなどの症状がないことに驚いたことがたびたびありましたが、加齢現象として嚥下(えんが)機能が低下して誤嚥を引き起こします。加齢により体力の低下とあいまって肺炎を発症する、一時的には治療で良くなるのですが、その繰り返しの先に、死亡原因のトップになろうとしています。
 誤嚥はリハビリで少しは改善が可能ですが、一時的に先送りできても元気な時に戻すことは不可能です。肺炎予防に胃瘻(いろう)経管栄養をしても効果はないことがはっきりしてきています。
 過去30年以上,肺炎は日本人の死因の第4位ですが,数年以内に脳卒中を抜き3位になると予想されています。その最大の理由は人口の高齢化で,肺炎による死亡率は年齢とともに上昇してきているのです。
 今年8月発表された日本呼吸器学会の虚弱高齢者を対象とした「医療・介護関連肺炎診療ガイドライン」では単に治癒を目指すのではなく、本人にとって何が大切かを考えて本人の意向(推測するしかできないことが多い)、家族の気持ちを考慮にいれて、苦悩を少なくすることを重点的に考えて、関係者が相談して対応すべきではないかと示されています。「肺炎は老人の友」というオスラーの言葉が引用されて避けることのできない病気という認識になってきました。
 現在の医療文化の状況、そして今後の発展があったとしても人間の不老不死は実現できないということです。最先端の医療といえども最終的には治癒を目指すことは「敗北」になるということです。

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