「今を生きる」第181回   大分合同新聞 平成23年12月19日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(8)
 医療文化の世界で長年仕事をしてきて感じることは、「健康で長生き」を実現するために医療者が知識と技術を総動員して、最大限の支援をしていますが、願いどおり実現できるかどうかは“運次第”です、ということです。
 現在の医療文化の基礎の科学的な思考では、医学的な知識、技術を駆使して確率、効率、効果を勘案しながら、健康で長生きを実現できる可能性の高いもの、すなわち、効果確率の高い方法を集めて治療に使っているということです。それらは予測効果・予測効率であって、実際の個々人の効果は現実にやってみないと分からない、すなわち、結果は運次第ということがあるからです。
 脳梗塞は一度発症した人では再発率が4%になるといわれています。脳梗塞の再発予防に効果のある薬があります。その薬は1年間で発症率を4%から3%に下げるといわれています。最近は効果のより高い種々の薬剤が使われるようになりましたが。以前はそれが標準的な薬でした。予防効果が統計的にあると判断されている薬ですので、再発を予防することを考えると使わざるを得ませんでした。
 発症率が4%から3%に下がるということは再発の危険のある人100人に服用してもらうと、そのうちの一人に効果のある(恩恵をこうむる)人が出現するということです。99人は服用してもしなくても結果(効果)は変わらないということです。薬剤服用のために副作用がなければ大きな問題はないのですが、0.2%(千人に二人の確率で)に致命的な副作用が報告されているのです。この薬を服用してもらうことが絶対的に善いことという判断は悩ましいことになります。しかし、医師の判断で使っていることが多かったのです。
 病気のある人には治療の効果確率の高い薬剤を使うようにして診療を進めていきます。高齢者は加齢現象のために高血圧症、脂質異常症、糖尿病、骨粗しょう症、肥満などの素因を持つようになり、結果として薬の数が増えていくということになる傾向が出てきます。そうすると薬の副作用の確率も高くなります。副作用の予防で薬はまた増えます。医療文化の抱える悩ましい課題です。

(C)Copyright 1999-2017 Tannisho ni kiku kai. All right reserved.