「今を生きる」第188回   大分合同新聞 平成24年4月2日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(15)
 医療文化のよりどころとしての思考は「客観性」を尊重することです。国民の健康志向は健康関連の経済活動をますます大きくしているようです。売れれば何でもよいという風潮の商業主義、企業活動も問題ですが。国民ももう少し理知的になる必要があるのではないでしょうか。最近の健康食品やサプリメント(健康補助食品)への過剰な関心に対して、一部の商品による副作用を知らせる日本医師会の広報情報が配布されました。
 生活習慣病の治療では薬の効果を病気の発症率で調べますが、その効果が100人のうちの2人や3人ということもあります。それでも統計学的には効果のある薬と認知されています。わらをもつかむ思いの患者さんの気持ちもうなずけますが、薬や治療の効果の程をあるがままに見るという醒(さ)めた視点も大事ですよ、というのが理知的であるということでしょう。
 正しい知識が必要ということを教えてくれる米国の小話です。厳しい環境で生活することで有名な某宗教団体に所属する父と子が、どういう事情からか住んでいるコミューンを出て、初めて大きな町へ行き、デパートへ入りました。当然、目にするもの耳にするもの、親子にとって初めてのものばかりです。
 さて、息子がエレベーターの前に立っていると、デパートの利用客が乗り込んだり、降りたりしていきます。われわれにとっては別に珍しくもない光景ですが、仕組みの分からない息子にとっては、エレベーターが「魔法の箱」に見えたのでしょう。びっくりして父親を呼びました。「お父さん、大変だよ! あの箱に入ると変身しちゃう!」。
 呼ばれた父親がじっとエレベーターを見ていたその時、老婦人が乗り込みました。息を詰めて成り行きを見守る親子。しばらくしてエレベーターのドアが開くと、現れたのは、若々しい女の人でした。父親は何事か考えている様子でしたが、やっと口を開きました。「早く、家に帰ろう。ママを連れてこなきゃ」。
 メディアには健康のための商品の情報が溢れています。それにとらわれないようにするために、理知的な分別を働かせることが大切ですが、その知識にまたとらわれるという問題があります。

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