「今を生きる」第205回   大分合同新聞 平成24年12月24日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(32)
 自然の治癒力は病気がよくなるに当たって大きな力を発揮しています。しかし、一般の人々は自然治癒力より薬や医療に対する期待が大きいようです。薬や医療へ期待する日本人の在り方は自然の治癒力を役割をしのぐがごとくであります。治癒力と薬との関係については、以下の事実を考えるとよいと思います。
 ある病気で集中治療室に入院している患者が、何らかの原因で血圧が下がり医師が昇圧剤を使い始めました、それに反応して血圧が回復して小康状態になりました。しかし、しばらくすると再び血圧が下がり始めました。昇圧剤を増やしたり、もう少し強力な昇圧剤を使用しましたが、血圧は思ったように上がらず、次第に全身状態が悪化していきました。
 こういう場合、自然の治癒力があれば、薬剤に反応して血圧が維持できるということです。体力が落ち弱まり、薬に反応しなくなり、薬を増量しても、薬剤の種類を替えても、反応しなくなると、今の医学・医療ではこれ以上の対応はできません。
 薬でよくなるのであれば、薬を増量したり、強力な薬剤に替えることで回復するはずです。しかし、体力、自然の治癒力が悪化して弱まると薬剤に反応しなくなります。ここで決定的な要因は体力・治癒力です。
 ある有名雑誌の編集者が、病気が良くなるにあたっての、自然の治癒力は約80%であり、医療の力は約20%であろうと言っていました。病気の種類によってその割合は変化すると思いますが、長年の医療の世界で仕事をしてみて、その編集者の言ったことの真実性がうなずきを持って思われることです。
 誤解を恐れずに言うならば、「良くなる病気はよくなる。良くならない病気は良くならない」ということです。良くなる病気を良くなる方へ導く責任は医療者にあるということです。良くならない病気を治癒させることに取り組むのは医学研究者の使命です。しかし、治療において治癒率はパーセントで示されるように100%と言うことはありません、医療には不確実性が常に伴うということです。

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