「今を生きる」第214回   大分合同新聞 平成25年4月29日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(41)
 医師は病気のこと、患者のことをよく知っているから、患者は治療については医師にお任せという時代がかってありました。それをパターナリズム(父権主義、親は自分の子どもに悪いことはしない、良いことをする)と呼んでいます。医師と患者の信頼関係の上に成り立ってきたことです。
 しかし、アメリカ医学の影響と人権意識の高まりで、平成の時代になって、そのパターナリズムの関係が変化しました。患者自身も医療情報を説明してもらい、理解して納得し、治療方法の決定に参画する自己決定権を尊重するようになってきました。
 治療の内容も、医師が主導的に決めていかなければならない救急医療の現場から、生活の習慣に関係するために、医師・患者が十分に相談しながら治療を進めなければ効果が上がらない生活習慣病、死に関係するために、実存的、宗教的課題が問題になる終末期の治療選択など、個別の状況で直面する課題に差があります。
 どの領域も最新の医学知識、技術が必要なことは論を待ちませんが、一人の医師が全ての領域で最新の知識を駆使することは不可能です。診療の現場でジレンマを感じながら思うことは、患者はいろいろな専門科を症状に応じて受診して治療を受けますが、病気についての素人の患者が、それぞれの受診科の情報を統合して考える必要が生じた時、総合的に理解しようとして、結果的に迷っていることが多いということです。
 全身管理のできるはずの内科も専門分野が細分化して、「私は呼吸器が専門なので、糖尿病は他の専門医に診てもらってください」と言われたと患者が話してくれました。医療の細分化が進み、人間の身体を全体的に診るということが難しくなっています。そのために総合医、総合診断医という、患者を総合的に診る専門医が現われようとしています。

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