「今を生きる」第216回   大分合同新聞 平成25年5月27日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(43)
 かって成人病と呼ばれていたものが、平成の時代になって、その多くは加齢すれば罹患しやすくなるのではなく、生活習慣の改善によって予防し得るという認識を国民に醸成することを目的として「生活習慣病」へと呼称を変えました。現在では「生活習慣病」の語が定着しています。その代表的なものは、糖尿病・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症です。
 糖尿病や高血圧症の場合は、患者と医師との対話が大事です。新たに来院した患者に、今までの病歴を聞く中で、「これこれの薬はもらっていましたが、服用していませんでした」というような発言を聞くことがあります。患者も身を守る(?)ために、医師との付き合いに苦労されているなあと思うとともに、患者自身の素人判断を尊重していることが気になります。ゆくゆくは私も利用される一人になるのでしょうが、それくらいの信頼度なのかと思うと、少し寂しい気持ちになってしまいます。
 対話の中で医師からの医学知識を利用してもらうことはうれしいことですが、利用しようとしている患者の思考が危うい独り善がりになっていることが心配です。そういう意味で患者と医師の本音の対話が大切なのです。交換し合う情報(症状や薬の服用の有無)に虚偽の情報が入ると、医師が判断を間違える可能性が高くなります。
 患者にとっては病気の治療が主目的でしょうが、生活習慣病の場合は、病気を良い状態に保って、命取りになりそうな脳梗塞や心筋梗塞の予防的に治療するという面が大きくなります。そのために80歳を越えた患者では、血圧や血糖値の管理の厳しい基準に執着した治療は行うべきでなく、生活の質, 日常生活の活動性に配慮し、残された人生を豊かに過ごすための支援を配慮すべきだといわれるようになってきています。その質の領域に関わるのが仏教文化です。

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