「今を生きる」第217回   大分合同新聞 平成25年6月17日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(44)
 日本人として生まれた人の半分が80歳を超える長寿の時を迎えています。沖縄県はかって長寿の人の多い地域と言われていましたが、直近の統計では沖縄は「若い世代になるにつれ死亡率が悪化している」と報じられています。原因として欧米化した食文化の影響ではないかと言われています。
 生活習慣病と言われるものは本人の食生活、身体の動かし方など日常生活の様式が大きな影響要因となっています。このために、いくら薬を使って治療しても、タバコを吸い、塩分の多い濃い味付けを好み、脂っぽい食事を食べ、お酒を多量に飲む、などの生活習慣を改善しないと医師は治療に難渋します。
 現代社会は人間の「欲」や「思い」を尊重する思考で、政治・経済・社会を動かしているように思われます。そこでの「生活の質」は、便利さ、快適さ、効率の良さ、早さ、楽しさ、食のおいしさ、環境の良さなどを追求する方向に進んでいきます。日本国内の自動車保有台数と糖尿病の患者数の関係、タバコの消費量と肺がんの患者数の増加は比例しているそうです。
 かって40歳前後の頃、仕事や日常生活で車やエレベーターなどを便利さ、速さ、楽さを求めて使うのが普通と考えて生活していました。ですが、週末に九重登山に行ったとき、若いときのように皆と一緒に行動できると思っていましたが、現実には自分の脚力の衰えに愕然としたことがありました。現実の便利さ、快適さの薄っぺらな質を近視眼的に追い求めて、まさに自分の足の筋肉を怠けさせて、脚力を低下させていたことを痛感したことがありました。
 「生活の質」を考えるとき、医療文化では表面的な質を考慮する傾向にあるために人間の思いや欲をかなえることを大事に考えます。その欲求はいったん満たされると、それがすぐに「当たり前」になるのです。そして、さらに便利なもの、刺激的なもの、好奇心を喜ばすもの、などを追い求め、結果として迷いを繰り返すことになり、あっという間に老病死につかまって愚痴を言うことになってしまいます。何と愚かで迷いを繰り返していることか……。

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