「今を生きる」第225回   大分合同新聞 平成25年10月21日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(52)
 生活という漢字を「生」と「活」に分けて考えると、「活」はいわゆる食べることに関係すると思われます。世間的に「食べなければ死ぬ」、「食べる糧を求める仕事」「食べることで忙しくて、お寺に参る時間がない」などと言われるものです。
 「生」で問題にするのは、「食べなければ死ぬ」と思っているかもしれないが、よく考えてみてください、「食べても死ぬ」のですよ…という課題です。仏教では「生死(しょうじ)の問題」と言います。
 医療の世界でも、予防できる病気は健康に気をつけて予防しましょう、治る病気は早期発見、早期治療を受けましょう、と健康で長生きを目指して社会啓発活動がなされています。病気だけを対象とすれば、言われていることは間違いありません。
 しかし、人間全体、人生の全体を見通すとき、病気を予防しても病気を早期治療しても、必ず老病死につかまるのです。全体を見渡した考えをしないと、健康指導は、既に病気になった人、早期発見、早期治療のできなかった人、既に障害を負ってしまった人には、冷たい、心を傷つける言葉になる可能性があります。
 現代日本社会では宗教という名でなされるものも、無病息災、商売繁盛、願い事成就を願う世俗的なものと受け取られる傾向が強く、気付き、悟り、目覚めといった世間を超えた宗教への理解が少ない時代性を感じています。目先のことに捉われるか、人生全体を見通すかという課題です。
 先日、患者(70歳代女性)とこのような会話がありました。「○○外科の医師が、散歩すると転倒して骨折するかもしれないので散歩を控えてください、と言われました。私は散歩が好きで散歩を続けています」。高血圧症などの生活習慣病を担当している立場から、「人間や人生全体から考えると、散歩は続けた方がよいと判断します」と説明しました。

(C)Copyright 1999-2017 Tannisho ni kiku kai. All right reserved.