「今を生きる」第246回   大分合同新聞 平成26年8月18日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(73)
 医療文化の基礎に人間中心主義という、理性知性で十分に考えていけば人間の理想が十分に実現できると楽観的に考え、仏教なんか要らないとする思考があります。
 日本で団塊の時代といわれる現在の65歳を超える人々が過ごした青春時代は、戦後の復興の始まりで、いわゆる右肩上がりの経済成長の時代でした。しかし、戦後の資本主義の悪い面が露出したりした社会の変革期でもあり、人間の理想とする社会主義・共産主義で皆が幸福になれるという夢を追い掛ける雰囲気が、学生や問題意識を持つ人々の間にあったように思います。
 一部の人は、ソ連と中国、北朝鮮に理想の社会が実現されようとしていると、信仰にも似た思いを持っていた時代でした。確かに人間の理性で考えて、最大多数の最大幸福を実現するには、平等な社会を作ることが大切だと、人間中心主義で理想の世界を作っていこうと考えていたのです。
 団塊の世代も、多くは戦後の経済復興の流れに押し流され、経済的・社会的な豊かさを追い求める煩悩の大きな流れ、四暴流(しぼる、煩悩の異名。煩悩は一切の善を押し流すので暴流という)に巻き込まれ、理想主義の夢を心の片隅に埋没させながら、日本の社会状況が決してよいとはいえない中で、ソ連や中国の社会の中に人間の理想が実現する萌芽があるのではという思いをひそかに持っていたのです。
 しかし、現実はソ連が崩壊して、東ドイツも西ドイツに編入され…。残る中国はと考えると、貧富の差の激しさは修復不可能だろうといわれ、中国外務省の報道官(テレビで見る理知的な美人ですが)の領土問題における日本、ベトナム、フィリピンへの発言を聞くと、人間の分別(理性知性)に潜む煩悩性をはっきりと見ることができます。

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