「今を生きる」第295回 大分合同新聞 平成28年8月13日(月)朝刊 文化欄掲載
医療文化と仏教文化(122)
医療の世界で、医療従事者は患者さんをどう受け止めているでしょうか。医師の専門分野の対象疾患だけを診て、それ以外の領域は他の専門医を受診してくださいという傾向がみられます。専門分野以外の領域を診察するのは無責任ではないかという医療人の考えでしょう。
私が受けた医療相談は、歯が痛く、歯の一部が摩耗しているなどを指摘され、顎関節症という診断を受けた患者さんでした。歯科、口腔外科を受診してそれぞれの治療を受けたが、数カ月経過しても改善しないということです。その結果いろいろな医療機関を受診することになってしまってしまいました。
それ以外に高血圧症、めまい、耳鳴り、頭痛など、種々の症状がありました。自分なりの納得と症状の改善を求めて医療機関を受診し、まさにさまよっているといった状態でした。
それぞれの医療機関からさまざまな薬剤をもらっていますが、途中からさらに、上腹部不快感、排尿障害などの訴えも出てきました。そのたびに医療機関を受診し、そこで言われたことを独りよがりな判断をして、医学知識がないために、変な思い込みに振り回される結果になっていたのです。
当人からじっくりと今までの病状、病歴を聞いてみると、それぞれ医療機関の医師の診断を総合的に判断する人が患者本人だったのです。患者個人の思い込みの判断で迷走を繰り返しているのは明らかです。
友人のある領域の専門医にじっくりと診ていただいたところ、その医師は精神科ではないが判断は「うつ状態、うつ病が最も考えられます」とのアドバイスをいただきました。恐らくそうではないかと考えていたので、私なりに納得しました。
症状の根本の原因である精神科領域の治療は受けずに、いろいろな症状ごとに医師を受診し、専門領域の対応だけがなされていたのです。医師数の多い都会ならではの現象でしょうか。総合的に情報を集めて、人間(患者)全体を大局的に診察し、相談に乗る医療人の存在が願われます。
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