「今を生きる」第320回   大分合同新聞 平成29年8月28日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(147)
 前回の文章で「人間は生まれる時に身心と共に世界を持って生まれる」というのがありましたが、「この世界とは、どういうことですか?」という質問がありました。
 仏教では時間について「今、今日しかない」とかんがえます。これは物理学でも同じようです。物理学者の佐治晴夫の著書「14歳のための時間論」には、「宇宙には『絶対時間』というものは存在しない」と教えていて、私たちの常識では考えられない時間論があることを説明しています。
 物理学の理論の一つアインシュタインの「特殊相対性理論」では、時間は自分の運動状態(速さ)によって伸びたり、縮んだりするとしています。これは、どんな立場、状況でも同じように流れる時間(絶対時間)が存在しないということです。
 さらに、私たち「いのち」を持つ生き物が感じる時間と、物理学でいう時間は別のものであり、過去や未来の時間を見ることはできません。現在という時間も見えませんが、今、この瞬間を駆け抜けていく時間を感じることはできると教えくれています。
 私たちが感じる時間は「私たち自身が生きている」という事実を通して「つくり上げているもの」であり、時間は生きている私たちが感じることのできる「美しい幻想」であり、「幻想の暦(こよみ)」を一枚一枚作り上げて、めくっていくことが、「生きている」ということであると示されています。
 「過去や未来の時間は使うことはできません。使える時間は『今』だけです。私やあなたが自由に使える時間は「今」だけです。その今の積み重ねがまさに「これからの時間」になります。その実感できる時間の集積が私の人生であり、人生観や世界観となるということでしょう」と仏教は教えてくれています。「人間は生まれる時に身心と共に世界を持って生まれる」という世界とは、そういう意味での世界ということです。

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