「今を生きる」第328回 大分合同新聞 平成30年1月15日(月)朝刊 文化欄掲載
医療文化と仏教文化(155)
宇宙中の存在は「エントロピ―の法則」(形あるものは必ず壊れて拡散する)に従って存在しています。私たちの身体は生物学的には分子が約10の28乗(10の後に0が27個ある数)個集まって構成されています。時間の長短はありますが、分子の凝集した細胞が壊れることは避けられません。
私たちの体は遺伝子の働きで毎日、その細胞のうち約200分の1を自然に壊れる前に自らで壊し、同じものを再合成することで体を維持していることが分かっています。こうして自転車操業のように、遺伝子レベルでけなげに頑張って身体を維持しているのです。
人間は日常生活で身体を動かすエネルギーを自分で作ることができません。光合成でエネルギー源を作る植物を食べるか、植物を食べた動物を食べないと生きていけません。このように、人間は動植物を殺生して生きています。
また、空気中に含まれる酸素を取り入れなければ生きていけません。酸素は大分県の森林ばかりでなく、アマゾン川の流域のジャングルでできた酸素も含まれます。私の存在は地球に根ざしたものによって支えられているのです。
仏教の「縁起の法」では、私という存在はガンジス川の砂の数ほどの因(直接的な原因)や縁(間接的な原因)によって存在させらていると教えます。これは、現在の科学的な知見との整合性があります。約2500年前に生きた釈尊の慧眼(けいがん)のすごさに驚かされます。社会的存在である人間は、人間関係や社会関係の中でも支えられ、育てられてきたのです。
私がかって進路を決める際に、世間的なモノサシ(判断基準)の善悪、損得、勝ち負け、好き嫌い、都合不都合などで考えていた時、仏教の師に「あなたがしかるべき場所で、しかるべき役割を演ずることは、今までお育てを頂いたことへの報恩行です」という趣旨のお手紙をいただきました。煩悩まみれの私の思考を知らされて、目が覚めるような驚きとともに生きる姿勢を正されたことがありました。
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