「今を生きる」第352回   大分合同新聞 平成31年1月28日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(179)
 ある新聞の医療相談の欄で泌尿器科の某大学名誉教授(医師)が「夜、何回もトイレに行くので眠れない」という頻尿の相談に答えていました。私自身も同じ症状の患者を経験したことがあります。
 私の場合は、患者さんに病歴や病状を聞いてみると、夜間は尿瓶に用を足して朝まとめて捨てているとのことでした。その尿量(夜間の尿量)が約1.5リットルと聞いて驚きました。それで、夕方以降の水分摂取を減らすよう指導しました。通常成人の1日の排尿量は1〜1,5リットルで排尿回数は5〜7回と言われています。
 健康教室などでは、水分摂取が少ないと血液が濃縮されて血管内で固まり易くなり、脳梗塞や心筋梗塞の原因となる可能性があると説明されます。それを避けるために、「水を飲んで血液をサラサラにしましょう」と指導しているようです。暑い時期に仕事などで汗をかいた後に水分補給をしないと脱水症状になって、脳梗塞を発症する可能性が高まることはあると思われます。
 前述の名誉教授は「頻尿という症状で泌尿器科外来を訪れる高齢者が多い。膀胱炎の症状と同じなので尿の検査をしても異常がないことがほとんどです。それでよく聞いてみると、血液サラサラを目指して水分を多く摂取して、それが原因で多尿、頻尿になっているケースが増えている」と答えていました。
 その名誉教授は最後に「高齢者と呼ばれる人たちに『健康で長生き』ばかりの指導でなく、『成仏(成熟)する道』を教える人はいないのか」と結ばれていました。
 仏教の学びをして感ずることですが、「長生き」に関して、量的と質的な長生きがあるということです。医療者はこの量的な側面だけをみる傾向があります。某教授は質的一面に言及されていましたが、それ以上は書かれていませんでした。次回そのことに触れたいと思います。

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