「今を生きる」第422回   大分合同新聞 令和4年6月6日(月)朝刊 文化欄掲載

医療文化と仏教文化(248)
 肥満に悩む人がいるとします。体重の増加は、食べる量と消費カロリーに大きく関係します。力士やアメフトの選手たちは、ぶつかる力を強くするためにたくさん食べて体重を増やします。当然、体重は食べる量に比例して増加します。
 肥満を改善しようとすれば食べる量を減らすか、消費カロリーを増やすのが合理的な方法です。この道理に逆らうと改善の方向には進みません。
 お釈迦様の目覚めに「縁起の法」というのがあります。これは、大きな原因(因)があって、それが小さな原因(縁)と和合して働き(業)をすると結果(果)がもたらされる。そして、それが次に影響(報)して「因縁業果報」というように展開するという法則です。
 内臓の調子もよく、元々食べるのが好きだという因と、たまたまおいしそうなお菓子が食卓にあった(縁)のでついつい食べてしまって体重が増えた(果)。これは「縁起の法」に沿った自然な流れです。
 仏教では不自然なことを推し進めると、いつかは否応なしに自然に戻されると教えています。
 いろいろな事象を考えるとき、因や縁次第では何でも起こります。固定した「我」というものはなく、私の身体も代謝によって常に変化し続けています。心も状況次第で常に変化していて、それを「無常」と言います。喜怒哀楽も縁次第で目まぐるしく変化します。いくら怒りっぽい人でも、二日も三日も怒り続けるということはないと思います。
 世間の出来事でも、縁次第では何でも起こると教えています。私自身の人生でも「まさか」と思うことが実際に起きました。大学での学園紛争、米軍のベトナム撤退、地震、津波、火山噴火、ニューヨークの世界貿易センタービルの惨事、原発事故、新型コロナウイルスのパンデミック、ウクライナ危機など枚挙にいとまがありません。
 心の変化を表わす指標として国の統計をみると、その年に提出された婚姻届件数に対する離婚届件数は、最近の10年間は離婚率は約33%で推移しています。婚姻届けを出すときに離婚は考えなくても、私たちの心は常に変化するのです。
 仏教は人間の思いや感情の変化を見透かして、自分の思いに執われている私たちに「感情の奴隷になるな」と言います。そのために智慧の光に照らされて「自分の相(すがた)を知ること」の大切さを教えているのです。

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