最悪だった
事故の原因は当てられ(車対車)
それも向こうの怪我はない様子
まあ幸い向こうが悪い人じゃなく、ちゃんと治療費を全額+慰謝料をいくらかくれるので
完全に人生終わった・・・な状況じゃないことはわかる。
誠意をもって対応されたので、そんなに怒鳴ることもできない(そういう性格)
最初は痛みなんてぜんぜんなかった
ぶつかったときのショックが大きく、気が動転し、自分の体のことなんて考えられなかった
向こうから話しかけられてやっと気づいた
事の重大さ
そしてそのときから激痛が走った
そう、足が痛い
骨が折れていた
医者に診断してもらうまで骨が折れてるなんてわからなかった
何せ骨を折ったのなんて初めてだったし、そのために骨を折ったときの痛みなんてわからなかった
何かがいやだった
骨折したこと?これからの生活を考えて?相手に怪我がなかったこと?
わからずじまいの悩みだった
誰にも打ち明けることができず、心の中で葛藤を続けているときに・・・あいつはやってきた
これから、生活を共にする・・・相棒・・・
・・・松葉杖
第一印象は最悪だった
それは俺の気が立っていたせいでもあるかもしれない
2人きりになったあと、やはり自己紹介はしておかないとと、松葉杖に話しかける
「よ、よお・・・これからよろしくな」
初対面に挨拶するのが苦手な俺は、ぎこちない挨拶になりながらも、
それでもやはりこれから行動を共にする松葉杖だ、仲良くなっておかないと・・という判断
だが、それは完全に踏みにじられた
「誰があんたなんかとよろしくだなんて。」
少し怒った口調で言う
自分の世界に入り込まれるのがいやなのか、俺の存在を完全に拒絶していた
なんというか・・・仲良くしたくないタイプって感じか
そんな風にあしらわれても、やはりまあ・・・仲良くなっておかないといけない
きっと俺が悪い人じゃないとわかればちょっとは殻を開いてくれる
そう考えていた
浅はかだった
少しフレンドリーに話しかけても無反応、もしくはよくて「ふーん」の相槌
決め手として交通事故の話をしてみた
あいつは俺に話してくれた。いやみたっぷりで
「それで?あんた私は被害者ですって気取ってるわけ?
あんたよりも不幸な人はいっぱいいるわ、
なによりもそんな不幸な人気取ることしかできない
あんたと一緒にいることになった私はもっと不幸ね」
何もいえなかった
怒りがこみ上げていた
あいつの考えていることがわからない
誰が、仲良くなんてするもんか・・・
あの日、最後に聞いた言葉は「私に話しかけないで」
ああ、話しかけるもんか。お前なんかと助け合うもんか・・・
松葉杖を交換したかった
だが松葉杖を交換する要素が見当たらない
性格が合わないから松葉杖を交換だなんておかしな考えだし、
そんなお金がなかった
加害者のほうに頼めばいいのだが、そんなことを受諾してくれるとは考えられない
(というよりもそんなこといっちゃダメだよな・・・と自分で考えた)
とりあえず不貞寝
一日寝れば何とかなるだろう
寝ている間だけはこの悪夢を忘れた
6時間ぐらいの幸福
おきたときにはまた最悪
あいつとの対面
暗い未来予想図
〜地獄の日々〜
悪いことは・・・というより悪いことしかなかった
会話がないゆえに気まずい空気
院内をでは、まあ一応あいつも仕事だけはこなすので楽だった
だが、夜の重い空気が流れると、気まずい
まわりに誰もいない2人だけの時間
なんかむかつく
最悪の相棒
事故にあったことよりも、あいつとであったことのほうが最悪に思えてしまうほど、
俺の気は立っていた
もしかしたら俺の足が自由だったら(そしたら松葉杖なんて使ってないが)あの松葉杖を
どこかに放り投げていたかもしれない
いじめられっこがいじめっ子への復讐を考えるときのように、あれこれ思い巡らせては
どうやればあいつを懲らしめられるか、と懲らしめたときのことを思い浮かべて
勝手に自己満足に陥ってた
1週間ほどがひどく長く感じた
最悪の相棒と過ごす毎日
1万円払えばこの生活から解放されるといわれれば、もしかしたら払ったかもしれない
(まあ最終的にはそんなことに使うお金がない!と断定するだろうが・・)
イライラ・・・イライラ・・・
俺の脳内の90%は怒りで構成されていた
残り10%はあきらめ
「早くこの怪我を治してお前とおさらばしてやるからな」
あいつに向かって嫌味たっぷりに言ってやった
聞こえてなかったのか、それとも聞いていたが反応したくなかったのか、
あいつからの返答はなかった
リハビリに情熱を燃やせた
間接的にあいつのおかげなんだが、あいつのおかげと認めることがいやだった
実質的には俺の判断
だからあいつは何の関係もない
何日が経過しただろうか。
折れた骨がほとんど治ってるっぽくて、後は歩けるようにする
完全に直ったときにはすぐにあいつとおさらばしたい
病から回復しようとする気力が強く感心だと医者からもほめられるぐらいだった
いつもどおり リハビリテーション を終え、自宅へ帰る
自宅のドアを開ける
あと数歩でいつもの座るいすへ・・というところであいつはバランスを崩した
〜風邪と共に去る〜
「うわあああああ!」
幸い「いす」とはソファーのことで、クッションとなりダメージは軽減
倒れたといっても運がよかったのか痛みもほとんどない
だがなんだ・・・?
倒れるなんてらしくない・・・まさか・・・俺の邪魔でもしようというのか?
「大きな怪我にでも発展したらどうする気だったんだっ!」
自分で言うのもなんだが、俺は怒鳴ることなんてほとんどない温和な性格だった
そんな俺が怒鳴った、久しぶりのことだ
久しぶりに大きな怒りを露骨にみせた
どんな悪態をつかれるのだろうか、あいつにはあきらめていたからな
だがそんな予想に反した返答が帰ってきた
「ご・・・ごめんなさい・・」
あいつらしくない返答
素直に謝る・・・?
思わず「えっ?」と返してしまう
「だから・・・ごめんなさい・・・」
自分の過ちを認めたくないみたいな葛藤が混じっていて、ごめんなさいのうち、最後の「さい」は
聞き取れないほどの小声
でも確かにあいつは謝っていた
「ね、熱でもあるのか?」
冗談っぽく言ってみる
おでこの部分を触って熱を見てみよう
普通だったら「気安く触らないでよ」なんて返ってくるだろうが、ない
触ってみると相当熱い
「熱があるじゃないかっ!!」
微熱ではない
おでこを触っただけでもわかるほどの高熱
もうあいつには気力なしといったところ
さっきまではがんばっていたが、たぶんもう仕事が終わるーという安堵感から直前に倒れてしまった
というところか
「まったく・・・」
少し自分が情けなかった
体調不良で倒れたあいつに怒鳴ってしまったことを
「まってろ!」
いくらムカつく相手とはいえこういうときは別だ
一応でも相棒なんだから、せわしないとな・・
「氷とか持ってきてやるから」
「あんた・・・一人じゃある・・・」
「少し黙って休んでろ」
一応は俺の家だ
冷蔵庫はすぐそこにある
もちろんわかっている
手すりもなく、松葉杖もないこの状況で俺があそこにたどり着くのは大変だということに
だが、こうしちゃいられなかった
たって歩くと危険すぎる
だからこそ、座りながら、時間をかけてゆっくりとすすんだ
一度ある段差が苦戦した
少し痛みを感じたときがあった
だけど、とりあえず任務は完了
氷を回収し、あいつの看病の体制はできた
「まったく・・・自分の体の管理もできないぐらいになるまで無理するなよ・・・」
その言葉を話しているときに気づいた
あいつ・・・今日ずっと仕事してたよな ということに
あいつは寝ていた
すやすやと
・・・そういえばあいつの寝てるところなんて見たことなかったよな
俺が先に寝てしまう、もしくは寝るとしてもあいつは遠くのほうにいる
「まったく・・・」
それしか言葉が出なかった
「黙っている分には、仕事もちゃんとこなすし、いいやつなんだけどな・・・」
あいつのことを何も知らない俺が言える一応のほめ言葉だった
いつも使っている布団をあいつにかけ、おれは適当にバスタオルかなんかをかけて近くに寝ている
いつでも氷の取替えができるように、かつあいつに迷惑をかけたくないと、
部屋にあったゴルフクラブを2本装備
松葉杖の用途がないため、機能性は劣るが、何もないよりはましだった
2度ほど氷を取り替えただろう
まあ今日ぐらいはちゃんと世話してあげようと・・・
一睡も・・・せ・・・・ず・・・・・・・・・・・
いつの間にか眠りに落ちていた
午前3時
カタっという物音で目を覚ます
あ、おきたのか・・・
あいつは申し訳なさそうに見ている
何か言いたそうだ
何か言いたいんだがいえないという空気?
意地ってものは大変だな・・・
いまならあいつと話すことができるかもしれない
というより今を逃せばチャンスはたぶんそうそうない
あいつに−今までは大嫌いだったあいつに俺は話しかけた
「まったくよー、どれだけ無理してるんだよ
自分の体ぐらいまもんねぇとな」
嫌味っぽくもなく、普通に、だけど少しだけ意地悪して聞いてみた
こう思うと自意識過剰かもしれないが、あそこまで無理をしていた理由はわかっていた
第一印象が最悪で、すごくいやなやつというイメージがついたあいつ
だけど仕事だけはまじめにやってくれた
話すことはほとんどなかったけど、最悪の相棒とか言ってたけど、
それでも相棒としては合格、いやもしかしたら相性抜群だったのかもしれない
あれほどの熱が出るまで我慢?そんなこと、普通じゃできねぇよ
微熱がある程度でも体がだるくなってやる気をなくす
職務怠慢でもして休んでればいい、でもあいつは休みたいなんて一度も言わなかった
あれほど熱が上がるということだ、昨日ぐらいから調子が悪かったんだろう
このときに思い出したが、昨日あいつは早めに寝ていた
あいつは・・・俺のために・・・がんばってくれていたんだ・・・
「別に・・・どうでもいいでしょ・・・」
弱弱しい口ぶり
いつものあいつとは正反対な感じ
少しだけ申し訳なさそうに、謙虚に、弱弱しく、顔を赤くしながらこっちを見る
ほんと・・・こんなんじゃ拍子抜けだな・・・
これで気づいた
あいつとは普通に話せるということに
きっとあいつは何か別のキャラを演じていたんだ
意図的に気が強くなっていた
だけどいまは・・・
「ずっと・・看病してくれたの・・・?」
「ああ、そうだな、ちょっと寝ちまったけどな・・・」
「・・・」
「ん?どうした」
「・・りがと・・・・・」
「ん?なんていったんだ・・・」
「・・・もう言わない・・・」
言葉を発することと言葉を交わすことには大きな差がある
言葉を発することなら簡単で、言葉を交わすことは難しい
俺はあいつと言葉を交わすことはとても難しいと思っていた
意外と・・・あっけなかったな・・・
「俺こそ、なんかいつも当たってた感じでごめんな・・・」
俺も勇気を振り絞って謝った・・・
だがあいつはもう寝ていた
ほんと・・・言いたいことだけいって後は寝ちゃうってか・・・
でも、後味の悪さはまったく残らなかった
おきると9時、いつもどおりだ
えっと・・あいつ・・・あいつは・・・っと、
ん?どこいったんだ?
「おきるの遅い!!」
・・・何このノリ?
あいつ・・・自分から話すやつだったっけ?ああ、そうか昨日・・・
「ごめんな、遅くなっちまった。
今日もがんばろうな・・・」
「べ、べつにあんたのためにがんばってるわけじゃないわよ」
「ふーん」といいながらすこしあいつの顔を見てみる
「な・・・なによ?」
「ほんとに自分のためだけー?」
「あ、いたっ!」
制裁がきた
ちゃんと怪我しているところはよけてくれる
何をみても意外だ
あいつはすごいいやなやつで無口で、嫌味しかいえないやつだと思ってたが・・・
こうやって接してみると一つ一つの嫌味にもなんか含みがあるし(初対面時の罵倒は除く)
あいつはあいつでいろいろと必死にがんばってたんだなと
印象だけでこうも感じ方がかわるのかと関心していると、またなんか変なことを考えていると思われたか
制裁がきた
「いたっ!」
〜割れた卵は自由の身〜
あいつのことをだいぶ理解してからは、あいつの反応を見るのが少し楽しみになってきている
あいつは「自分はいやな人」みたいなキャラを演じたがっているみたいで、返す言葉自体が
少し嫌味を含んでいることが多い
だが、よくよく観察してみると9割以上の言葉にはそこに必死さが感じられ
無理にがんばっているという感じがわかる
そんなところをからかったりするのが楽しかった
また、あいつはこれまでわざと俺のことを拒絶していたみたいな感じもあったが、
そこまでの拒絶反応はなくなり、むしろ心を開いてくれたというか、
プライドの高さみたいなのから、それを認めたがらないが、
やっぱりいつもと反応が違う
そんなこんなで数日が経つ
あと2・3日ほどで俺の怪我は・・・・ん?
よく考えてみよう
俺はあいつと別れたがっているとき、「早く直せば別れられる」といっていた
その言葉は言い換えれば、「直したら別れが来る」ということか・・・
そう考えるとすこし寂しい気分が沸いてきた
この感情はなんだろう?
もったいなさ?つまらなさ?・・・いやちがう
なんか別の感情がうごめいていた
もうリハビリを続けたくない・・みたいな?
でも俺にはそんなことできなかった
医者にも「気力のあるやつ」と期待されていたし、あいつの厚意も無駄にはできなかった
あいつは風邪を引いた体ながら俺のことを助けてくれた
でもおれが弱気になってたらどう?そんなの許されないよな
あいつは失望するかもしれない
そもそもこのリハビリをやめたいと思う感情は何なんだ・・・?
今日もくだらない会話(あいつの反応を見るためにわざと俺が変なことを言ってみるというのが大半)
をしながら帰路へ。俺は少し寂しかった
明日は最終判断の日
最終判断といえど答えは9割9分9厘決まっている
「完治です、おめでとう」ということか
松葉杖(あいつ)は借り物であり、つまり病院側に返さないと・・・
ズキッっと何かが痛んだ
心
心が痛んだ
もうわかってる
俺にはわかっている
この心の痛みの正体
リハビリをやめたいという意思の正体
後ろめたさ
わかってる
だけど勇気がない
進みだす勇気がない
あいつだってわかってた
明日が最後の日だと
あいつも、悲しんでくれるのか・・・?
あいつの顔を見る
少し寂しそうな表情をしていたが、視線を感じたのかすぐにいつもどおりにもどる
「何よ・・」と
家について夜になる
いつのことだろう、一週間が長く感じたというのは
最近は一週間がありえないぐらいの早さで流れててこまるものだ
不公平だな
楽しい時間が長ければいいのに・・・
地獄の時間・・・いやあれは本当は地獄じゃなかった・・・
俺が地獄の時間だと錯覚していただけだ
床(とこ)に入る
暗闇、すべてを包み込む無音空間
1分ぐらいしただろうか、俺はあいつに話しかけた
「ちょっといいか?」
「なーに。」
あいつのわざとっぽい嫌そうな返事だ。
本当に嫌ならばあいつはたぶん何も返事しないだろう
それでも返事をするということは嫌じゃないということ
「お前は俺といて楽しかったか?」
「べ、別に普通でしょー」
「そうか。俺はお前といられて楽しかったぞ」
「・・・ほ、ほめても何も出ないからね」
少しあせった感じ
嫌味をこめようとしたが嬉しくてこめられずにあせってしまうといった感じ
「お前は俺のこと好きか?」
「ば、ば、バカじゃないの?誰があんたなんか」
「そうか。俺はお前のことが好きだぞ」
あっさりしていた
こういう空気だからこそ、あっさりと自分の気持ちが言えた
そう、これまでの後ろめたさ、寂しさは全部この気持ちのせい
「え・・・そ、な、何言って・・・」
「俺はお前のことが好きだってことだ」
「し・・しらない・・・」
話を途中で区切ろうとするのは相当あせっている証拠だ
あせり方から見ても結構嬉しかったんだろう
そんな反応が見れて嬉しかった
「いままで・・・ありがとな・・・」
「・・・・うん・・・私からもありがと・・・」
「最後の聞き取れなかったぞ・・・」
「もう・・・言わない・・・
おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
残り12時間というところか
俺はいろいろ物思いにふける
正直眠れなかった
明日になれば・・・あいつがいなくなる
初めから何もない状態ならば、こんな気持ちにならない
ないものがなければ何もない
あるものがなくなればそこに穴が生まれる
いなくなる・・・だけ・・・だけど・・・
自分の気持ちを正直に言おうとすれば、あいつと別れたくない
だから明日は・・・
〜過去の傷跡(松葉杖視点)〜
私は幸せだった
人の役に立てる仕事としてはじめて担当した人がすごく優しい人だった
その人はいつも私のことを考えてくれて行動してくれる
私がその人に恋に落ちるのに時間はかからなかった
私が風邪を引いたとき、傍で看病してくれた
彼の怪我は重いわけでなく、数日間すればリハビリも完了し、
歩けるようになる
そのとき私は思った
もし彼の怪我が治ってしまったら・・・私は彼と別れなくてはならない
私は彼と話した
素直にいつのまにか告白していた
そのときわかった。私と彼は両思いだった
だが運命は私たちを引き裂く
明日は彼と一緒にいる最後の日
・・・私は悲しかった
そんな時彼は言った「俺はお前と一緒にいたいからな」
彼は交差点に飛び出した
彼は小型車にはねられた
といってもその車はそれほど速度が出ていない
彼の計画通りだったみたいだ
だが、その計画通りはそこまでだった
彼ははねた後別の車、大型車に轢かれた
骨折じゃすまなかった
意識不明
病院前の交差点の悲劇
私は彼がいつ目覚めても言いようにと手術室の外にいた
彼は・・・一命だけは取り留めた
だけど危険な状態だった
私はずっと彼の病室にいた
彼は数日間は目を覚まさなかった
10日後の夜2時だっただろうか
彼のベッドの上にデジタルの時計があってその表示が見えたのでまだ覚えている
彼はいきなりマスクをはずして、こういった
「ごめんな・・・骨折だけじゃすまなかったな・・・
これからもお前と一緒にいようとおもったんだけど・・・」
それだけ彼は話して目を瞑(つむ)った
ピーーー
その数秒後に大きな機械音が部屋中に響いた
画面に表示される横一線。「0」という表示
医者たちがかけつけ、事務的な行為を行う
私は最愛の人を失った
私は・・・後悔した・・・
私が告白したばっかりに・・・
私が好きになったばっかりに・・・
自分の殻というものに閉じこもろうと決意したのはその日だった
目を開ける。夜中の3時
目には少しの涙の跡
なんでこんな夢を見ちゃったんだろう
少し嫌な予感・・・
予知夢であってほしくない・・・
私はもう一度眠りに落ちた
〜君への愛、君からの愛〜
病院前に着いたのは10時45分
この状態ならば俺は松葉杖の使用はなくなる
・・・そもそも松葉杖を今は使ってないぐらいだからな
あの門をくぐって、「予約」として決められた診察に行けばすべてが終わってしまう
「このままだと・・・お別れだね・・・」
「そうね・・・」
無愛想なキャラを演じているのか、でも感情は隠しきれていない
「俺はお前と一緒にいたいな・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
「どうして謝るんだ」
「もう・・・お別れ・・・だよ・・・」
いつもとあいつの口調が違った
あいつはいつもどおりなら嫌味キャラを演じてくれる
だが、この言葉には嫌味もなく・・・ただ・・・感情だけがこもっていた
「・・・・さよなら・・・」
「俺はお前と一緒にいたいからな」
俺は交差点へ向けて走り出す
人通りはそんなに多いほうでもないし、車のとおりも多いほうじゃない
俺は一番近い交差点へむけて。
「やめ・・・やめてよっ!!」
あいつは初めて感情をむき出しにして大声を出した
俺は交差点の・・
隣にあるガードレールを思い切り蹴り飛ばした
「うあああああああああ!」
と叫びたいところだったが、痛みをこらえて足を引きずりながら戻ってくる
これで骨折ぐらいならしただろう
と、あいつの元に戻るとあいつは俺のほうに来て泣き始めた
何かが吹っ切れたように
あいつは俺があのまま交差点に飛び出すとおもったらしい
その理由について聞いてみると最初の数回は答えてくれなかったが、
5回目ぐらいの質問で答えてくれた
過去の悲しみについて・・
今日あの夢を見たことについて・・
過去の悲しみについてを聞いて俺は思い出した
初対面のときのこと
「それで?あんた私は被害者ですって気取ってるわけ?
あんたよりも不幸な人はいっぱいいるわ、
なによりもそんな不幸な人気取ることしかできない
あんたと一緒にいることになった私はもっと不幸ね」
あれは彼女なりのがんばりだったのかもしれない
彼女は弱っていたんだ
好きになっちゃったから・・・そう彼女は自虐し、自分の殻に篭り 好きにならないために嫌いになればいい、嫌いになってもらえばいい
彼女はずっとそうしてきた
「あなたが優しいから・・・好きになっちゃったじゃない!」
強がった言い方だが少しの変化に気づいた
「あんた から あなた に変わってること」
彼女は泣き続けた。
「幸福」を得てつかの間「絶望」に陥れられ、また「幸福」を得たと思えば
それを失ってしまうかもしれないという「恐怖」が襲ってきた
怖かったんだろうな・・・少しだけ強く抱きしめてやった
というわけでまあ、そのまま医者のところへ行った
医者は「あれー?」とまあ治りかけていた怪我が再発していることに驚いていた
「私結構無茶なことするもんで・・・」と怪我をした内容については濁しながら
話す
「これでまた、リハビリ生活ですね」
と笑いながら言うと「そんなにうれしいのか?」と返ってくる
「いえ、そんなわけ・・」まあ嬉しい
最高に嬉しい
それと医者にこういった
「私、結構無茶するほうですし、それに私、
そろそろ北海道に行かないといけない用事があるんです
北海道の病院の紹介状をかいてくれませんか
そちらのほうで治療しますよ
あと、この松葉杖最高に相性がいいので、北海道にも連れて行きます
というわけでこの松葉杖かいますね」
北海道に行くというのはでっち上げな嘘で、まあ遠くにいくともなれば
この松葉杖を再び回収されるなんてことはないだろう
医者を言葉巧みな嘘で回避し、俺は帰宅
あいつに「これからはずっと一緒だ」と告げる
あいつは顔を「ぱぁーっ」っと明るくしてすぐ「べ、べつに嬉しくないわよ」と
素直じゃないところは変わってないな。
まあそこがまたいいんだけどな
これから俺たちは北海道へ行く
「俺について来い」との言葉をあいつに言う
「わかったよ、ついてってあげる」
「ん?嬉しくないのか?」
「べ、べつにー」
「俺は嬉しいけどな
で、お前は嬉しくないのか?」
「・・・もう・・・・」
「にしても・・・あの車の前に飛び出したって人。
バカだよな・・・」
「バカってなによ。」
「だってさー考えなかったかな?その危険性」
「あの人だって私のためにしてくれたんだし・・・」
「でもお前をおいていってしまったら意味はない
俺は、賢明な判断をした
その人と比べると地味で情けない感じかもしれないがこれでいい
その分逆にお前と一緒にいられるという最高の結末を得たからな」
「そうだけど・・・」
「お前は俺といるのは嫌か?」
「い、いやよ・・・」
「ふーん、その割にはさっきからずっと嬉しそうだけどな」
「き、気のせいよっ!」
「まあいいけど。」
北海道に到着
治療を受け、少しあとには完治した
まあ、完治しているのに松葉杖を持って歩くというのはおかしいが
一緒に街を歩くときはわざと怪我をしているようにみせかける
(そのために包帯は家に常に10本完備)
最悪と最高。両者は極限にあり、隣り合うことのない存在
だが、その最悪が最高に変わる瞬間というのを得た
っと、定時だ。仕事が終わった
あいつは家で待っている
今日も早く家に帰ろう
さて、あいつとの出会いのことを何かに書き残しておこう
そうだな・・・「最高だった」っという書き出しで始めよう。
さて、あいつとの出会いのことを何かに書き残しておこう そうだな・・・「最高だった」っという書き出しで始めよう。ここについてはこのSSの書き出し「最悪だった」から、