(視点=遙と孝之の子供・次女(17))
〜20年目のミートパイ〜

私は、麻衣香

半月前から彼氏ができた

私は白陵大付属柊学園に通っている

彼には丘の上で告白した

後から聞いたところお母さんとほとんど同じシチュレーションらしい

こういうところで親子のつながりってあるのかな

もうすぐ8月6日

この時期になるといつもお父さん(孝之)がミートパイを食べたいという

これはお母さんとお父さんが付き合い始めて間もないころの思い出が関係しているらしい

とても良い思い出だったというけれど・・・そんなにこだわることなのかなぁ・・・

もちろんお母さん(遙)のミートパイはおいしい

小さいころから食べていて、幼児期の食記憶というものもあるかもしれない

けど、それを差し引いてもおいしいと思える

1年前のこの日に友達が遊びに来ていて

その友達にも食べさせてあげたら目を丸くして「おいしい」といった

驚くほどおいしいらしい

毎年毎年、腕を上げているみたいでお父さんもすごく喜んでる

でも・・ほんと・・・なんでこんなにこだわるんだろ・・・

微妙に理解できないことであった


私もなにか彼に作ってあげたい

ただ、料理はほとんどダメ

なんとなくめんどくさがりやのところもあり、料理の腕は上がらない

この性格誰に似たんだろ・・・

うーんどうしよう・・・

今度の彼とのデートは8月6日

この日に何かつくってあげたい

しょうがない、いま1番簡単に教われそうなのはミートパイかな

よし、じゃあお母さんからミートパイの作り方を学ぼう


料理がからっきしダメの私にとって、たまねぎのみじん切りすら苦だった

炒めるとか、実は初めて

調理実習のときもほぼ片付け専門だったからな・・・

失敗回数は数え切れない

10回ではない

軽く2・30回はいっただろう

日付はドンドン過ぎて行き、8月5日

ついに前日となった

これまでの失敗回数は50回を越えた

お母さんがこれを作ったときの失敗回数は10回ぐらいといっていたが、

それを軽く越えている

でもそれでもお母さんは楽しそうに練習に付き合ってくれた

普段はのんびりしているけどいいお母さんだ


8月5日午後10時10分

ついにミートパイが完成した

いま、作り方をみると、何でこんな簡単なものにこれだけ失敗したんだろうと思える

恥ずかしい

それでも完成してよかった

お母さんはとても笑顔で「よかったね、麻衣香」という

隣でお母さんもミートパイを作っていた

だけど私のほうのミートパイには一切手を加えなかった

「麻衣香だけでつくったミートパイを食べさせてあげてね」といっていた

手伝ってほしいとは何回も思ったけど、今考えるとこれでよかったと思う


〜8月6日〜

彼は遅れずに来た

とはいっても、とても疲れた調子だ

なんでも、昨日は部活動(陸上部)の練習がきつかったという

本当に、お疲れ様

彼は陸上部でも速いほうで、かっこいい

お父さんと比べると100倍彼のほうがかっこいいんだから!

電車に乗る

わたしはまず「景色が良いところにいきたいな」といった

彼は「じゃあ橘町の公園のほうでもいくか」といった

もちろんこのバッグの中にミートパイが入っているということは内緒

電車に乗っていた

「・・・?」

彼はとても眠そう

それもそうだよね、昨日は陸上の練習で忙しかったんだもん


彼は転寝(うたたね)をしてしまった

もぉ・・・後ちょっとで橘町に着いちゃうよぉ!

【次は〜橘町〜橘町〜】

次は橘町だ

・・・

彼はまだ眠っている

ちょっとだけゆすってみても起きない

本当に、疲れているんだね

彼の寝顔を見るとすこしかわいい感じがする

いつもはちょっと強そうなかっこいい感じなのに、なんだか寝顔はとてもかわいい

疲れてるんだもんね。もうちょっと寝かせといてあげよう

駅がドンドン過ぎていく

彼は終点まで起きなかった

しょうがなく彼を起こす

起こすと彼はびっくりして、「ごめん」といった

寝顔がかわいかったから起こせなかったというと、なんだか照れた口調だった

なんとなく止まった白塚駅

周りは未来的な駅が多いのに、少しだけここは寂れた感じ

でもそれであり景色がよく、空気も澄んで、いい感じがする

彼「もどるか・・・?」

私は「うん、いいの!ここでも景色が良いし。それにどこへ行きたいとかじゃなくて
   私、ミートパイ作ってきたの。これ食べてほしくて」

駅のホームでミートパイを食べる二人

とても絵になるような感じだ

人はあまり来ない

ほほえましいゆっくりとした時間が流れる

彼「よし、今日から8月6日はミートパイ記念日にしよう!」

彼は言った

「大げさだよぉ」


でもなんとなくお父さんの気持ちがわかった気がする

結局お父さんやお母さんと同じような歴史を・・・同じ場所で繰り返してしまった


あれから1年半後、彼のオリンピック出場を機に結婚をした

それから彼も毎年言うようになった


8月6日・・・この時期になると・・・「ミートパイが食べたい」って・・・




TOPへ戻る