〜Can not but can〜
〜茜's SIDE〜
10月20日(金) 午後3時
「じゃあ、いってきます」
茜は挨拶をしてクラスを早めに出る
リーダー研修会に向かうためだ
バスに乗り込む
茜はやはり少し気分が重かった
誕生日なのに、孝之から「おめでとう」の一言もない
まあ、孝之は私が誕生日であることを知らないのだからしょうがないのだが・・・
そんなこんなで、結局バスに乗り込み、相模湖自然の家に向かうのだった
バスは1時間ほど走る
大体、何でこんなところまできて会議をしなければならないのかわからない
学校とか、近くの公民館とか使えばいいのに、毎年あそこでやっているもんだから
結局場所を変えずいつもどおりそこに決まった
バスは到着する
相変わらず・・・周りは森ばっかりだし・・
自然の家につくと、入り口にいるおばあさん(65歳ぐらい?)が入り口で迎えてくれる
おばさん「はいはい、いらっしゃい。
ゆっくりしていってね」
部屋でゆっくりしようと思ってもこれから長い話し合いが始まるから
ゆっくりするのは無理なのだが・・・
・
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午後9時半
ご飯の時間を挟み、長かった話し合いが終了した
それから、お風呂に入る
もうすぐ・・・今日が終わっちゃう・・・
お姉ちゃんやお父さん、お母さんとかは「おめでとう」っていってくれたり
プレゼントくれたり・・・今年はパーティーができなかったから、明日やることになってるけど・・・
でも・・・それよりも・・・
「孝之・・・」
本当は一緒にいたかった
自分への最高のプレゼント
それは・・・孝之と一緒の時間をすごすこと
1秒でも長く・・・欲張っちゃえば、永遠に離れたくない
「孝之・・・」
〜孝之's SIDE〜
午後9時
「いや・・・暇だ」
このように言葉を漏らす
茜が家にいれば、電話しているのだが・・・
「暇だ暇だ暇だ暇だ暇だ・・・」
いっそのこと寝てしまおうか・・・
よしっ、寝よう!
プルルルルル
プルルルルル
いや、訪問販売は間に合ってますよ!
って、速瀬か・・・なんだろ?
「はい、鳴海です。」
速瀬「あっ、孝之?」
「そうだけど・・・というか、違かったらやばいぞ。」
速瀬「まあいいや。で、茜にいっておいてほしいことがあるんだけど?」
「・・・?というか、自分で伝えればいいんじゃないのか?」
速瀬「だって、茜 孝之のうちにいるんじゃないの?」
「なんで?いや、いないけど・・・」
速瀬「遙のうちに電話したら茜いないって言うから・・・
まあ、特別な日だから、愛する孝之の家に行ったのかなって思ったんだけど?」
「いや、茜はリーダー研修会ってのがあって、相模湖のほうに行っているはずだ
それと、特別な日って何?」
速瀬「えっ!!今日が何の日か知らないの?」
「うわっ、いきなり大声出すなって・・・」
速瀬「だって・・・あんた茜の彼氏でしょ!
何で今日が何の日か知らないの?」
「いや、茜からは何も聞いてないから・・・
というか茜が関係あることなのか?」
速瀬「関係あるって・・・今日は茜の誕生日なんだから!!」
「!!」
速瀬「ということは・・・今日は茜とはしゃべってない?」
「・・・うん・・・」
速瀬「電話だけでもしてあげなさい!
ほら、行ってるところの電話番号ぐらい電話帳使えばわかるでしょ?」
電話だけではわからないことがある
それは、相手がどんな表情をしていて・・・自分はどんな表情をしているか
だからこそ、会って「おめでとう」といいたい
「速瀬、ありがと。」
速瀬「絶対、茜を悲しませるんじゃないよ!」
「わかってるって。」
速瀬にはいわなかったが、俺は相模湖まで行くことに決めた
明日は土曜日だし、行っても大丈夫だろう
よしっ、相模に向けて出発だ
時計を見る
21時15分か・・・
ここから駅まで行っても8分ぐらいかかる
21時23分・・・
ぴったりの電車あるだろうか・・
相模湖自然の家は1回行ったことあるが、駅から20分以上離れているはずだ
だから、余裕を持って、23時過ぎにはついていたほうがいいだろう
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俺は走った
ただ目的はひとつ
茜にあって、おめでとうっていってやりたい
よしっ、駅に着いた!!
電車は・・・21:33分か・・・
10分余裕がある
コンビニでケーキやら、いろいろなものを買っていこう
茜と二人でパーティーをするんだ!!
コンビニで買い物を済ませ、切符を買い、電車に乗り込んだ
もちろん、最前列。JLの運転手にどのように乗り換えたらいいか聞くためだ
車掌ははじめは面倒そうに話を聞いていたが、熱意が伝わったのか、一番早く行く方法を調べてくれた
乗り換えのルートはわかった
それを忘れないように・・・
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〜茜's SIDE〜
23時・・・
寂しかった・・・
何でこんな日に・・・こんなリーダー研修会なんか・・・
家にいれば、ふと孝之のうちに行って、「一緒にいよう」って言って
一緒にいられたのに・・・
ポケットの財布の中の孝之とのプリクラ
見ると少し癒される
でも、やっぱり今日だけは一緒にいたかった
孝之とのプリクラ
孝之の笑っている顔を見ると、涙がこぼれてきた
私ってこんなに寂しがり屋だったんだ・・・と実感した
寝る気にもなれなかった
そのまま座って、孝之のことを考えていた
・
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・
〜孝之's SIDE〜
23時15分
大体、何で電車が10分も遅れるんだ!
しょうがないことなのに、そのことにむかついていた
そうでもしないと、「茜の誕生日に気づけなかった自分」を責め殺してしまいそうだからだ
駅を出る
電車に乗っているときから気づいていたのだが、こっちは雨が降っているみたいだ
それも、今の時間帯は雨が強い
それでも、行くしかない
よく目を開けてみてみると、だいぶ景観が変わってしまっていることがわかる
でも、自然の家の位置は変わらない
そこへ目指して走っていかなくては・・・
雨が強い
目を開けるのがやっとだ
そして、10月のこの時期ともなると夜は肌寒い
雨と寒さが組み合わさって寒さを呼ぶ
でも、へばってられない
23時26分
くそっ、先が見えない
でも、着実に自然の家に近づいている
23時32分
普通ならそろそろ着いているはずだが、雨のため早く走れないのと
夜なので暗くて見えないことで、時間がかかってしまっている
23時43分
看板が見えた
【相模湖自然の家・・・右折後500m】
よしっ、もうちょっとだ!!
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こういう状態をずぶぬれというのだろうか
服も洗濯をした後の状態とほとんど変わらない
俺はこんな雨の中なぜ走っているのか・・・
それは・・・待っている人がいるから
この先に待っている人がいるから走れるんだ
茜、待ってろよ
絶対今日中に「おめでとう」って言ってやるから
23時46分
「ついた!」
自然の家の敷地内に入った
よしっ、
茜がいる棟は・・・
こっちか・・・!
〜AKANE〜
茜は、体育座りをして、ひざを抱え込んで、寂しさを紛らわしていた
きっと今日という日が終われば、この寂しさはなくなるだろうと思っていた
23時50分
あと10分で今日は終わる
茜はずっと時計を見ていた
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・
〜TAKAYUKI〜
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
疲れた・・・
ついた
ここに茜がいるんだ
時計を見ると23時52分
?「あらあら・・・どうしたんだい?そんなにびしょぬれで・・・」
どこからか声がする
65歳ぐらいのおばあさんがこっちを見て話しているみたいだ
いや、茜に・・・あっ、涼宮茜さんに会いにきたんです
おばあさん「急にどうしたんだい?その様子だと、家のほうから走ってきたみたいだけど」
いや、茜が今日、誕生日なんです
でも、それを知らなくて、今日の夜9時ごろ知って・・
誕生日だからこそ、会って「おめでとう」っていってやりたくて
おばあさん「そうかい。あら・・・もう5分しかない。
それじゃあ、これ、涼宮茜さんの部屋の番号だから
早く行ってきなさい」
孝之「ありがとうございます」
部屋は近いわけでもないが遠いわけでもない
急げば、2分でいける
どんな言葉を掛けてやろうか
いろいろなことを考えながら着実に茜の部屋に近づいていった
〜IN ROOM〜
茜「残り2分・・・これで今日が終わるんだ
120・・・119・・・118・・・」
コンコン
茜「?」
コンコン
ちょっと怖い
こんな夜に・・・誰?
声「茜」
孝之・・・?
いやそんなはずはない
だってここ相模湖の自然の家なんだよ・・・
でも、あけたくて仕方がなかった
走る
そして、すぐ鍵を開けて、ドアを開ける
そこにはびしょぬれになった孝之がいた
孝之「茜、誕生日おめでとう。
遅れてごめん・・・もうすぐ日が変わっちゃうって言うのに・・・」
時計を見ると、23時59分
本当にあと少しで日付が21日になるところだった
茜「た・・・かゆき・・・?」
目の前にいる孝之は、私の寂しい思いが作り出した幻想なのか
それとも、本物なのか?
でも、それが本物だとすぐに確信した
孝之が抱きしめてくれた
遅れてごめんよといいながら
雨にぬれた孝之は少し冷たかったけど
でも、温かかった
すぐに泣いてしまった
それもそのはず、今まで23時間59分もの間寂しかったんだから
そのまま二人とも何もしゃべらず、抱きしめあっていた
10分後二人とも我に返る
孝之「本当に遅れてごめん!」
茜「孝之はずるいよ・・・」
孝之「・・・」
茜「こんなに待たせちゃって・・・」
孝之「・・・」
茜「なのに・・・」
孝之「・・・」
茜「タイミングよくこっちに来てくれて・・・」
孝之「・・・」
茜「私の寂しかった気持ち・・・全部奪って行っちゃって・・・」
孝之「・・・」
茜「私の心の中を全部埋め尽くしちゃって・・・」
孝之「・・・」
茜「本当に・・・本当・・・に・・・寂しかったんだだから・・・
かっこよすぎだよ・・・孝之は・・・」
二人は口付けを交わす
いつのまにか日付が変わってもう12時半だったが、そんなことは関係なかったかもしれない
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・
落ち着いてから、孝之は持ってきたものをあけた
孝之が買ってきたのは、ケーキ・フライドチキン・飲み物・お菓子類である
飲み物まだ冷たいが、ケーキは走ってきたせいでぐちゃぐちゃだし、
フライドチキンはかなりさめている
でも、茜にはどうでもよかった
二人だけの誕生パーティーをする
ちっぽけなパーティーだった
でも、茜には最高のパーティーだった
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・
それから、孝之と茜はいろいろ話をしたり、少しいちゃいちゃしたり・・・
いつのまにか2時を回っていた
そして茜が「そういえば」というように気づく
茜「孝之、電車で来たんだよね?
もう電車終わっちゃったんじゃないの?」
孝之「・・・多分。次は始発だと思う」
始発まではあと3時間以上ある
結局、茜の部屋に泊まることになった
この自然の家を管理するおばあさんのところへ行くと、俺たちのために起きてくれていたみたいだ
事情を話すと、
おばあさん「私にも、こういう時期あったからね。
私が何とかしておきますよ。
でも、あんた、ホント彼氏としてかっこいいよ。
茜さんがとっても羨ましいよ」
時が流れる
想い合う二人の瞬間(とき)は重なっているのだろう
朝になる
茜は来たときの気持ちと180度変わっていたのだろう
笑顔が戻っていた
友達は「何かいいことでもあったの?」と聞いてくるけど、
「べつにー」と返す
だって、一緒にいたことは二人だけの秘密だもん
バスが走り出す
これから私たちの場所にかえるんだ
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先生「では、ここで解散です」
茜「さようならー」
私は走った
どこへ向かっているかって・・・それは孝之の家
だって、昨日は孝之が私のところにきてくれたんだから
帰ってきたらお帰りって言ってあげるんだ
大好きな大好きな・・・孝之に・・・