孝之は橘の街を歩いていた
そう、それはあゆに呼び出されたからである
「あいつ・・・ついに決着をつけようとしているのか?」
知りよしもない、
呼ばれた本当の意味を・・・
〜2月12日(火)(あゆSide)〜
あゆ「まゆまゆ、なにやってるのさ?」
まゆ「あっ、先輩!」
まゆはすかいてんぷるの裏キッチンを使い、なにやら甘いにおいをかもし出しながら料理をしていた
まゆは勤務時間を終え、タイムカードを通した後だ
このすかいてんぷるのキッチンを私用しているらしい
まゆ「チョコレートを作ってるんです☆」
あゆ「チョコレート?なんでさ?」
あゆはバレンタインを知らないらしい
まゆ「先輩、じゃあ後でゆっくり説明してあげますね☆
先輩の勤務時間はいつまでですか?」
あゆ「あと1時間だけど?」
まゆ「じゃあその後に教えてあげますね」
〜1時間後〜
あゆはタイムカードを通してまゆのところへ行った
まゆ「2月14日はバレンタインデーって言う日なんです
最近は友達同士でお菓子の配り合いばかりですけどもともとは、
好きな人にチョコレートをあげる日なんです
好きな人には本命チョコっていう気持ちを込めたチョコレートを上げるんです
それだけじゃなくて、本命じゃない友達には義理チョコというものをあげるんです」
それから、本命チョコ・義理チョコについてをまゆが語った
あゆ「まゆは誰にあげようと思ってるのさ?」
まゆ「孝之さんにです
いつもお世話になってるので
先輩はあげないんですか?」
あゆ「あの糞虫に?」
あゆは少しだけ顔を赤らめ、言葉を言うのも少しだけためらった
まゆはそれを見逃していない
まゆ「本当に孝之さんのことそうやって思ってますか?
本当はあげたいんじゃないんですか?」
あゆ「そんなことないさ!」
まゆ「じゃあ私だけであげてきますよ」
あゆ「そうすれば・・・いいさ!」
反射的に出てきた言葉なのに、一度言っていいのかどうかと胸が痛んだ
そんなはずはない
これって・・・あいつにあげたいってことになっちゃうじゃないか
まゆ「先輩、自分の気持ちに素直になってください
先輩は、孝之さんのことが好きなんですね☆」
肯定できない自分がいた
それ以上に否定できない自分がいた
「まゆの力」といったところか、なぜか嘘がつけない
そうさ・・・気になっていたさ
あいつのことがいつも気になっていたさ
毒舌なことを言えばいつもあいつはつっかかってくる
気にしてもらえる
それがうれしいから毎日こうやってこれるのさ
まゆ「わかりました、先輩!
じゃあ、一緒に作りましょう
私が孝之さんを好きなのはライクですけど、先輩はラヴみたいですね☆
だから、がんばって孝之さんに喜んでもらえるようなものを作りましょう」
初めて・・・まゆに負けたような気がした
それも、完敗
いつもまゆまゆはボケているような気がしたけど、自分は自分の気持ちにボケていたのかもしれない
心は乙女だった
夢見る乙女
きっと、その日、あいつを驚かしてやるさ!
裏キッチンにはほとんど人の出入りはない
そして孝之は今日は急用で休み
というわけで、安心して作ることができる
チョコレートを作るのは初めて
まゆまゆは何度も作ったことがあるようで手馴れている
まゆまゆの作り方を見て真似をしてみる
あまり、うまくいかない
何度も何度も作って、まゆまゆが「手伝いましょうか?」っていっても「いいさ」と、返した
この特別な日は、自分で作らないと意味がないような気がしたから
まゆまゆはずっと付き合ってくれた
そして午後10時・見事完成!
あとは渡すだけだ
〜2月13日(水)〜
あゆ「この、糞虫が!」
イベント前日だというのにいつものペースでやっている
そうしないと自分が壊れてしまいそうな気がしたから
といってもやはり、なにか気にしてしまう自分がいる
そしてチャンスをうかがって、
あゆ「明日の午後0時に、柊駅前に着てほしいのさっ」
「こなかったら明日、猫のうんこ大量にぶつけてやる!」
何も言わなかったら今、感づかれる
来てくれなかったらいやだ・・・
そのために二言目を言った
言ってから・・・こんな口の悪い私じゃ・・・なんて後悔した
こんなときまでこんな風に言っていたのか・・・
ちらちら出てくる「夢見る乙女」は、胸を苦しめる
ドキドキ
ドキドキ
ドキドキ
・
・
・
こんな痛み・・初めて・・・
私は病気なの・・・こんなに胸が痛い・・・
そうかもしれない・・・病気なのかもしれない・・・
あいつだけのことしか考えられない・・・病気かもしれない・・・
帰り際まゆまゆから自信をもらった
「あとは、行動あるのみ!」らしい
お父様にはなんとか話をつけて遅くなるように言った
23時19分、駅前に到着
ちょっとというか、かなり早く着すぎたか
ここにきて、不安が生じた
もし、ここで気持ちがばれたら・・・
今までみたいにすかいてんぷるで毒舌言い合ったりができなくなる!
なんとなく意識しあってしまい、いい争いができなくなる
それはやだかもしれない
逃げたかった
呼び出したのに逃げたかった
足が少し動く
2歩目を動かしたとき、目の前に知っている人が現れた
そう、まゆまゆだ
まゆ「だめですよ、先輩!逃げちゃだめですよ!」
なにか、束縛されているような気になってしまった
しかし、そんな気持ちは一気に吹っ飛んだ
まゆ「このまえ、私は孝之さんのことをライクだって言いましたよね?
本当はライクよりももっと好きだったんです
でも、私はあきらめました」
まゆの言葉をゆっくり聞いた
まゆ「でも、私じゃだめなんです
孝之さんは、先輩じゃないとだめなんです!」
何を言っているのかわからなかった
いつも孝之さんはすかいてんぷるで笑顔をみせてくれます
ずっと笑顔でいてくれます
でも、その笑顔を向けているのは・・・私じゃなくて先輩のほうになんです
あゆ「・・・!」
もう心の中に不安はなかった
もしかしたら、まゆの見間違いかもしれない
もしかしたら、ただ単に笑顔を向けてくれているだけなのかもしれない
でも、不安はなかった
応援してくれている人がいる
自分の気持ちに・・・明日は素直にならないといけない
まゆ「頑張ってください、先輩!」
あゆ「まゆまゆはどうするのさ?」
まゆ「私は明日のバイトのときに渡します
先輩は絶対に明日になってすぐ渡してくださいね」
時計の針はゆっくりと進んでいく
それでも確実に進んでいく
のこり2分
孝之「大空寺!どういうことだ!」
やばいっ!2分前にきてしまった
手に持っているものもあと2分隠さないと・・・
あゆ「あとちょっとまってさ!」
孝之「・・・?」
・
・
・
あゆは時計の針から目を離せなかった
前日に渡すのはやはりシャクみたいだ
時計の針は12時を回る
孝之「おい、大空寺!一体どういうことだ!」
あゆ「ほら・・・これ、受け取れさ。」
綺麗にラッピングされたひとつの箱
孝之「・・・?」
あゆ「ほら、今日はバレンタインってやつさ
だからチョコレートさ!」
孝之「あ・・・ありがとう・・・」
あゆ「糞虫がー!本命だと思うなさ。
義理で渡しただけさ!」
心にもないことを言ってしまった
本当は本命チョコなのに・・・
なんだか自分がよくわからなかった
なんとなく逃げたかった
その場を走ろうとする
孝之「おい、大空寺!・・・本当にありがとな・・・」
このような言葉が聞こえたが逃げ足をとめなかった
落ち着いてみると後悔した気分だった
あんなときまで素直になれないなんて・・・
絶対変に思われたはずだ・・・
結局・・・自分に素直になれなかった・・・かもしれない・・・
あいつに気持ちが全く伝わってないかもしれない・・・
・
・
・
〜2月14日(木)〜
すかいてんぷるにいく
いつものように明るく・・・なんて行かない
なんか後悔した気分だ
ますます自分がわからなかった
なんであいつだけのことで、こんなに落胆しているんだろうか
まゆ「あ、先輩!孝之さん来てますよ」
あゆ「えっ?」
いつもの私じゃない反応
ただ、まゆにつれられてあいつのところへ
孝之「おー大空寺、おはよう!」
あいつはなぜかご機嫌だ
孝之「チョコありがとな!」
あゆ「・・・」
孝之「玉野さんからももらったが、あれは義理チョコだからな
まあ、お前のチョコ、うれしかったよ」
少し照れる
でも一言言い返したかった
あゆ「だから義理チョコだって言っているさ」
孝之「あれが義理チョコか?
あゆが一生懸命作って・・・気持ちがたくさんこもってるチョコ
おまけに、形はハート形だからな☆」
何もいえなかった
孝之「ありがとな。」
あゆ「言うだけ言って、人の気持ちまでよみおって!
お前なんかねこの・・・」
孝之「っと・・・そこまで!」
孝之はあゆの口を押さえる
孝之「まあ、玉野さんも気をきかして出て行ってくれたみたいだし・・・
俺も何か言わないとな
お前の気持ちのお返しの言葉を
俺は・・・・」
あゆから孝之に贈られた小さなチョコは大きなものを運んでいた・・・
ちょっと、あゆ・まゆのイメージ・・・違いますかね・・・
まあ、そんなこんなで2月14日の0時ちょっとに書き上げることができました