遙は本屋に来ていた
マヤウルのおくりものという本をいつも探していて、
たまたま本屋にてその本を見つけたところだった
「う〜ん、とれないよぉ」
必死に見ているが、本が落ちてくる気配もない
視線では本を動かすことはできないが、ついつい集中して見てしまう
「とれないよぉ」
せっかく見つけたのに取れないのはとても悔しい
こんな時、鳴海君が取ってくれたらなぁ・・・
って何考えているんだろう
鳴海君とは話したことすらないのに
「どれ?」
「えっ?」
えっ何で鳴海君がいるの
あんなこと考えちゃったから鳴海君をここに呼び出しちゃったの?
いや、えっ、どうしよう
心の準備なんてできてないのに
「本、取れないんだろ?これ?」
どうしよう
なんか頭の中が真っ白になってきた
何も聞こえない
えっ、あっ、うっ
肩に鳴海君の胸が少し当たって少しだけ正気に戻れた
「っと、ごめん、これでいいだろ?」
「うん、その本とろうとしてたの。ありがとう☆」なんてどんなにがんばってもいえるわけがない。
今まで話したこともなかったのに鳴海君がこんなに近くにいる
どうしよう
わかんない
どうしよう
何かいわないと・・・
「あ、あの・・・」
「あ、違った?」
何言っているんだろ
このままじゃ鳴海君に変な風に思われちゃうじゃん
でも普通になんかしゃべれないよぉ
鳴海君困ってるよぉ
もっと私から話さないと
「いいえ、その・・・」
どうしよう
「この本です」とか「ありがとう」とか言おうと決心してもやっぱり言えない・・・
こんなに鳴海君をじっと見てたら鳴海君困っちゃうよ
「あの・・・『マヤウルのおくりもの』じゃない?」
よし、今度こそ「そう」って言おう
「は、はい!そ、そうです・・・けど・・・その」
何で話し続けようとするの
話せないのに・・・
どうしよう
鳴海君と話したい
その意志は現れてるのに
話しかけられるとぜんぜん実行できないよぉ
どうしよう
「じゃあ、はい」
マヤウルのおくりものが渡された
受け取れない
ドキドキして受け取れないよぉ
どうすればいいんだろ
どうしよう
逃げたら変に思われるよぉ
でも受け取れない
もういいや、2を選ぶ
「ご、ごめんなさいっ!!」
鳴海君と話したいは話したいけど近くにはいられないよ
走って逃げた
・
・
・
はぁっ・・・つかれた
もぉ、いきなり鳴海君がいてびっくりしちゃったよぉ
マヤウルの贈り物見つけたけど、今行ったらまた鳴海君に会っちゃう
今度買いに行こう
遙は家に帰った
・
・
・
「ただいまぁ」
「あっお姉ちゃんお帰り、ってどうしたの?悩んでそうだけど」
「うん。茜ぇ、聞いてよ、今まで探していた本があったのに高くて取れなかったの」
本当は高くて取れなかったんじゃなくて、ドキドキして取れなかったんだけど・・・
「踏み台か、店員か、誰か知っている人にでもとってもらえばよかったのに・・・」
「うん・・・、今度見つけたらそうするね。じゃあ、茜ぇ、部屋行ってくるね」
・
・
・
何であの時逃げちゃったんだろ
ドキドキしながら受け取っているよりも、もっと変に思われちゃうじゃん
今度せっかく水月が花火のこと計画してくれたのに・・・
〜本屋の出来事 END〜