※ ネタバレ注意!! アニメの最終回および、ゲームの水月エンドの内容が含まれます




みんな歩き出した

人生という長い、そして短い道のりを


俺は普通の人には経験できないような出来事を体験した

みんなもご存知のとおり、俺は3年前の8月、彼氏である設定で病院へ通った

その病院にいた「遙」が事故にあったのは6年前だ

まったく目を覚まさずに、眠り続けた彼女


そして、その間に、最愛の彼女ができた

「水月」

その彼女とは同棲をしており、彼女もそのことを知っていた

俺の心はどうなっていたのだろう

俺は最終的には水月を選んだ

あのとき確かに心は揺れ動いていた

いろいろと言い訳したらまた逃げているようになるだろう

だから正直に言う。もしあのとき、何かひとつの事象が違っていたら、この生活はないかもしれない

俺自身、これは満足している

人間とはそんな生き物だ

最終的に自分が満足していれば、いいなんて思う人ばかりだ

本当に心優しい人もいるが、大体は偽善者で内心では
「見返りがほしい」そう思っている

人間なんだから仕方がない。開き直っているようにみえるかもしれないが、それは悟ったことである



さて、そんなわけで、彼女たちはそれぞれ自分の道を歩き始めていた

涼宮遙。彼女は、絵本を書いていた

彼女が絵本好きなことは知っている

まだ覚えている

もしこれを、忘れたという人間がいるとしたら、それは「嘘」だ

忘れられるはずがない

人間の記憶なんて自分で操作できないのだ

彼女は、ついに夢を実現させた


涼宮茜。遙の妹である。
彼女は水月ができなかったことを実現させた

水泳、である

彼女は、水泳でオリンピック候補選手となり、オリンピックに参加した

水月は、高校のとき水泳をやっていた

水泳でトップになる。そんな夢があった

俺が壊してしまった

水月自身はこの生活が幸せだといってくれている

それに、水月はまたコーチする側メインで水泳をまた始めたので

安心した


さて、彼女たちは、あの日まではすごく仲良かったのである

全てが崩れたあの8月27日

皮肉だよな・・・それが水月の誕生日だなんて

神様がいるんだったら問いたい

水月が何をしたって言うんだ、と。


正直なやんだところがある

今年の誕生日、あの計画を実行すべきかどうか


俺は・・・実行することにした

こんなときに頼れるやつ・・・

俺には慎二しか思い浮かばなかった

ほんと・・・俺、友達すくなかったな・・・

もしここで慎二の携帯に電話を掛けて、「この電話番号は現在使われておりません」だったら
この計画は丸つぶれである

その前に少しだけ止まってしまった

無意識のうちに電源ボタンを押していたのだ

「関係なかった慎二をあれだけ巻き込んでおいて・・
 いまさらそんなこと・・・できるのか・・・」

まず、慎二を困らせることになる

慎二の場合、断ることがほとんどないタイプのため、いやでも引き受けそうな感じである

そして俺には、こんなことを頼む権利があるのだろうか

少なくとも、ダメだった場合の俺のメンツのようなものは、崩れる


・・・メンツ・・・俺にはそんなものがあるのか?

そこまでして守らなければならない「自分」というものがあるというのか?


一呼吸を入れた後、再び携帯のメモリを探す

「平 慎二」
決定ボタンを押す


→そのまま発信
184を付けて発信
186を付けて発信
電話帳に登録

もう一度決定ボタンを押す


・・・・

入力された

・・・どっちだ・・・


呼び出し音になった

それともうひとつ、電話を取ってくれるだろうか

水月の帰りが今日は遅いということなので、今日がチャンスと、
夜8時に電話をかけた

仕事がどうかはわからないが、無視してでない可能性だってあるかもしれない

彼は電話を取った

「なんだ」

「久しぶり」

「・・・」

「ごめん・・・頼みたいことがあるんだ」

「いきなり掛けてきたとおもったら頼みたいことか?」

「本当にごめん・・・頼れるやつが慎二しかいないんだ・・・」

「・・・」

「ごめん・・・話だけ聞いてくれ・・・」

「・・・ああ・・・わかったよ」

少しぶっきらぼうな感じでも、彼はうなづいた

一方彼のほうは、確かに孝之のことを避けてはいた

でもそれは「きっかけがない」ということも含まれていた

高校時代にあれほどまで仲が良かったのだ。
何か抜けきれていない部分があったのだ

それは、慎二の「友に優しい性格」があったからかもしれない

もしそれが慎二じゃなくて別の人だったら、電話に出なかったかもしれないだろう


慎二の住む場所は知っていた

孝之はそこへ向かった

あんなやつ友達じゃない。なんて思っていれば、家に呼んだりなんかしないだろう

(密室殺人とかそんな計画をしていたなら、その限りではないが、
 孝之の頭にはそんな考えはひとつもなかった。慎二を信頼していた)

つかみが重要である
もし、ここで何も持って行かなければ、気が利かないやつという印象になるかもしれない
何か持っていけば、モノで機嫌をとろうとしているやつと思われるかもしれない
それに何かを買っていけば、遅くなって「せっかく好意的にものをとってやったのに」と思われるかもしれない

このときだけでも選択肢は大量にあった

俺にはどれが正しいのかわからない

知るはずもない

だけど俺は選ぶ

最良だとおもうものを、自分の力で選ぶ


慎二の家に着いた

チャイムを鳴らす

緊張した

最初にどんな声をかけたらいいのだろう

そんな様子をみて、ドアを開けた慎二が、

「ほら・・・さっきみたいに楽にしろよ・・・」

あのときのように、反応してくれた

「あんなことがあったから・・・もう会えないとおもってたけど
 頼ってくれたことはうれしかったんだぞ」

ほんと・・・いいやつだ・・・

俺はリラックスできた


俺はあの計画について話した

慎二はそれを聞くなり、少し険しい顔になった

「お前は、それができるとおもうのか?」

「・・・わからない・・・」

どこまでも俺は優柔不断だった

自分で計画したことを人に相談して、それで成功するかわからない?

でもしょうがない、しょうがないんだっ!!

だから俺はこういう

「おれ自身は、あのときの時間を・・・6年前の時間を
 もう一度だけ取り戻してほしいと思っている
 これからのことなんて考えて居ない
 ダメだっていえば、無理しいはしないし、
 だけどやっぱり・・・悲しいんだよ・・・」

計画とはこうだ

水月が誕生日に、遙と茜と再会することである

無謀だということはわかっていた

だけど、だけど・・・

「お前は・・それでいいとおもうのか?」

わかっていた

8月27日。それは遙が事故にあった日でもある

そんな日に・・・いやそんな日だからこそかもしれない

「結果はどうなるかわからない。そもそも聞いてくれるかどうかわからない
 だけど・・・俺はやってやりたい
 もしこれをやろうとして、自分自身の地位が格段に落ちるとしても
 俺はやろうと思う
 そもそもなんで俺は「自分」を守らなくてはならないんだ
 そんなのを守って何もできないんだったら
 守ることなんてやめる」

「偽善・・・じゃないよな」

「ああ。誓う
 もし破ったら俺の口がしゃべれなくなるまで殴ってくれ
 本気だ」

孝之の目は大マジだった

慎二は孝之の言葉が少しバカげていたので少し殴りそうになったが、
孝之の目をみて、やめた

孝之は真面目に言っていたのだから

「ああ・・わかった。お前に言いたいことは大体わかった
 お前からは涼宮たちには言いにくいもんな」

「・・ありがとう・・・」


2人ともこれるかどうかなんてわからない

仕事とか、練習とか、そんな現象が重なれば、物理的にこれないし
そもそも、OKするかどうかがわからない

8月27日夜7時

柊駅待合室ということである

速瀬もその日は大丈夫のようだし、何とかなるか


待つこと3日

慎二から電話がかかってきた

なんとか約束を付けられたらしい

茜の練習があるために8時という時間になったのだが



さて、8月27日になった

速瀬にはこういっておいた

柊駅の待合室に8時ごろまでにいてくれ。プレゼントがある、と。


あとは俺はすることがなかった

仕事自体は、定刻どおりに終わるので、それからすることはない
「あれ?今日は彼女の誕生日じゃないのですか?」

健さんはこう突っ込む

「はい、そうです。でも、俺はいけないんです」

「彼女と喧嘩でもしたか?」

「えー、そうなんですか?孝之さん?」

「いえ、そうじゃないんです」

「深い事情があるというわけですね。
 大空寺さん、玉野さん、突っ込まないで上げてください」

「わかったわよ」

「御意!」

ここ、すかいてんぷるでは、まあ前のメンツがずっといるわけで、

・・ここにもお世話になったものだ


時計をみる。「8時か」

そろそろ水月たちが再会した頃か

・・・どうなんだろ・・・

そんなとき水月から電話がきた

「孝之、駅に遙と茜がいるんだけど」

「そういうことだ。」

俺はすぐに電話を切って電源を切った

「あの場所には、俺はいられないんだ」

「そういうことなんですね」

健さんが後ろから見ていた

「これまでの経験から大体の事情はわかりました」

さすが健さんだった

「もう少しだけここにいてもいいですか」

「そうですね。道の途中で出会ってしまっては仕方ないでしょうしね」



水月のほうはというと、孝之にやられた・・という感じもあったが、
なによりも少し気まずかった

待合室ということだが、この時間ともなると人がほとんどいない

このときは、この3人だけだったので、座って話し始めた

「茜・・・がんばってる?」

元気に振舞おうとする水月

声は震えていた

怖かったのだ

「はい、がんばっています」

少し戸惑った茜

もごもごしている

そして決心したようにいった

「水月先輩。」

水月の緊張はほぐれたというより、全てが涙に代わった

茜のほうもおなじだった

あのとき、強がって見せた茜。だけど水月のことを嫌いなんじゃなかった

いつでも水月が目標だった

尊敬していた

そんな・・・そんな記録・・そんな人生の記録が消えてなくなるはずなんかない

「3年」という時間もあったかもしれない

もしあれが、あのあとすぐだったら、2人とも強がっていて、話せなかったかもしれない

だけど、時間がやさしく、悲しい記憶だけを包み込んだ

決して癒えた訳ではない傷

今だって残ってる

でも、そんなものよりも、今目の前の再会のほうが大きかった

「私だって・・会いたかったんだよ。」

そんななかで遙も一言いった

3人は「3人だけの時間」を過ごした

一応未成年ではないので、3人ともお酒も飲めるし、
時間の制約もない

楽しかった

忘れていたもの

3人は、あのときのように・・・笑顔を見せていた


12:30
いつの間にか日付が変わっていた

遙は明日も絵本の仕事があるらしいし、茜も明日午後から練習があるという

せっかくの再会だったが、もうおわかれだ


茜「ほんと・・・自分で意地張ってたのって・・・なんなんだろうなって・・・」

水月「私も・・・」

茜「本当にごめんなさい・・・」

水月「茜、ごめんはなしだっていってるでしょ
   そんなこといったら私だって・・」

遙「水月、あえて嬉しかった。本当にもう会えないと思ってたから・・・」

水月「そうね・・・私も2人と会えてうれしかった」

茜「あの・・・よかったらでいいです。
  一番意地張ってた私がいうのもなんですけど・・
  えっと・・・その」

水月「また会いましょうってことでしょ」

茜「はい・・」

水月「そうね、私もそう言おうとしていたところで」

茜「はい、ぜひまた会いましょう!
  それとそのときは・・・」



帰宅した水月

孝之はおきていた

「お帰り水月」

「孝之、諮ったわね」

「まあな、楽しかっただろ」

「・・・うん。」

「よかった」


水月はソファーに座る

そしていう

「ほんと、意地張ってて損した感じ・・・
 ・・・嬉しかった。きっかけがなかったんだ・・・」

俺だって慎二に電話を掛けるときに戸惑った

俺も実はきっかけを探していたのかもしれない

俺も慎二と話せたのはうれしかった


「孝之・・・ありがと・・・」

「ああ」

「また会うんだ。いつかわからないけど、会うって約束した」

孝之は、本当にいい再会だったんだなと嬉しかった

「それとね・・・伝言。茜と遙から。
 『慎二君に頼まれたけど、計画したのは孝之でしょ。
  孝之、ありがと』ってね」

「・・・ばれてたのか・・・」

「だってそうじゃない、そんなこと計画するの
 孝之しか思い浮かばないし」

その場に俺の名前が出てくれたのはうれしかった

下心とかじゃない、なんていうか、安心感みたいなもの

「でもほんと・・・どうしてこんなこと思いついたの?」

「そりゃ・・・
 誕生日はやっぱり
 みんなで笑っていられる日でいたかったんだ」

水月の誕生日。8月27日

あんな事故があった日。誰が笑っていられるものか

でもそんなのではいけない

記憶から拭い去ることなんてできない

だけど和らげることならできるんじゃないか


それから俺は慎二と、水月は茜、遙と何度か会うようになった

といっても、月に1回程度しか予定が取れないのだが。

それでもよかった

仲間と会える

そんな喜びをかみしめられた



世界を広いと感じるほど、世界は広くない

ずっと近くにいたんだ

忘れた。嫌いになった。そんなの嘘だ

本当は嫌いなんかじゃなかった。忘れてなんかいなかった

もし人生で出会える人の数が決まっているなら、
どうして今日会った人と仲良くしないのか

心のなかではつながっていたんだ

さよなら。があるからまた会えるんだ

永遠のさよならなんて、悲しすぎる
水月は眠りながら、懐かしかった日々を思い出し
いつもとは違う涙−うれし涙を流していた







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