顧問「どうしたんだ涼宮!大会2週間前だぞ!」
顧問「今日は調子が出ないようだな、もう帰っていいぞ」
・
・
・
〜おにいちゃんのやさしさ〜
−6月3日(水)−
今日もやはりここに来ていた
家に帰るかどうかも不明であるため同棲と変わらないような気がする
くるたびくるたび茜ちゃんからは「おかえり」といわれる。
俺は、もうこの家の人間だ!
遙と出会ってからもうすぐ1年がたつところだ
あれから奇跡に近いほどの勉強の向上力をみせ
慎二の学力はすぐに、そして2学期の後半ごろには学年トップクラスの成績を維持していた
慎二には「愛だけでここまで変われるんだな、孝之は!」とからかわれながらも時は過ぎ
俺は志望校である白陵大に見事進むことができた
合格発表を見て遙と浮かれていた姿を見てバカップルだと思った人は何人いるだろうか
結局、親にも冷やかされている状態である
そんな風に毎日を過ごしていて、だいぶ大学生活もこなれてきたところだ
今日はほとんど授業がなく帰ってきて遙と一緒にいちゃついている
時計を見ると4時半、そういえば帰ってきたのが1時半だっけ
だいぶ時間がたつのが速いな・・・
・
・
・
よく毎日いちゃついてて飽きないな!とおもう皆さん!
そんなことはないんです
好きな人と、遙と一緒にいるなら何万年だって飽きることはありません!
というわけできょうも遙とゆっくり流れる時間を・・・
ガチャ・・・
茜「ただいま・・・↓」
茜ちゃんが帰ってきたところだ
ん?やっぱり・・・今日も元気ないか・・・
今までなら「お兄ちゃん来てたんだ!またお姉ちゃんといちゃいちゃしてたんだね!」
とからかいに来るだろう
しかし最近明らかに元気がない様子でいるのだ
みんなでご飯を食べるときも、最近の茜ちゃんはわざと明るく振舞っているように見える
茜ちゃんはなにかあると顔に出やすいタイプで、そんなのちょっとみていればわかる
なにか・・・つらいことがあるのか・・・?
−6月4日(木)−
今日は俺のほうが早く終わった
というわけで遙の家に先におじゃましているのだ
えっ?どうして入れるかって?
それは決まっているじゃないか!もう合鍵をつくっているんだ!
遙だって俺の部屋の合鍵を持っているし!
と、遙の家にいくと・・・、ん?
絶対あるはずのないものがあった!
そう、茜ちゃんの靴・・・
今日は確かに帰宅が早いといっていた
といっても茜ちゃんは水泳の練習があるじゃないか!
柊に入ったとたん水泳部にはいって、また全国目指して練習していた茜ちゃん
もちろん今日だって練習があるはずだ
こんな水泳日和(?)に練習が休みになるはずがない
リビングへ行くと茜ちゃんは教科書を読んでいた
・・いや、その表現はおかしかった
明らかに教科書には集中していない
ただ上の空で何か考え事をしているような・・・
茜ちゃんはいつでも笑顔でいるようなイメージで、
周りの空気を楽しい空気にするという茜ちゃんが、とても複雑そうな顔をしている
「茜ちゃん、どうしたの?」
茜「・・・」
気づいていない・・・?
そこまで何かを考えているのだろうか?
ためしに教科書を取ってみる
思っているほどよりも簡単にとれた
握っているというより乗っていただけかもしれない
しかしまだぼーっとしている
「茜ちゃん!」
茜「えっ!あ、!お、お兄ちゃん!お、お帰り!
遅かったね!」
やっぱり上の空だったんだ・・・今の時間に帰ってきて、遅かったねなんていうはずがない
「ほんとにどうしたの?茜ちゃん?」
茜「えっ?」
「さっきから上の空だったから」
茜「えっ!あっ!なんでもないよ!」
なんでもないはずがない、いくら心を読むのが下手な人にだってわかりすぎるほど顔に出ている
・・・何があったんだ?
茜「ほら、お兄ちゃん!なんでもないから!
お兄ちゃんこそどうしたの?」
いつものような笑顔、ではない。明らかに作り笑顔に見える
これは、自分の心を悟られないようにといったところか
何か深い悩みがあるようでそのつくり笑顔は悲しい・・・
はっ?もしかして!と、茜ちゃんの部屋に侵入しバッグや制服を見る
しかし、切られた跡というより汚された跡すらない
「お兄ちゃんのバカぁー!!」
と追い出される
まあ、無理もない
いくら俺が遙の彼氏とはいえ、茜ちゃんだってお年頃の女の子で
それなのに勝手に部屋に侵入された挙句、タンスまで開けられて・・・
俺、バカか・・・
どう考えてもそう思うだろ・・・
とりあえず茜ちゃんにあやまった
といっても茜ちゃんの表情は上の空だ
絶対何か大きな悩みを抱えている
それを話してしまえばどんなに楽だろうか?
1Kgの荷物を持つよりも2Kgの荷物を持つにはもっと力が必要だ
そしてどんどん荷物が重くなってくると持てるかどうかすらあやふやになってくる
いくら持ててもいつか耐えられなくなる
どんなに力持ちでもいつかは限界が来る
悩みだって同じだ
今は耐えられたにしても、この悩みがずっと続いたら
この悩みがどんどん深くなってきたら・・・
こんなこと、茜ちゃんに耐えられるのだろうか?
救ってあげたい・・・茜ちゃんだって気持ちを楽にさせたいはずだ
だからもう一度聞いた
「茜ちゃん、どうしたんだ?」
茜「・・・・」
やっぱり話さないか・・・
もしかしたら俺が思っている以上に深いのかもしれない
もしそうだとしたら、話すのにだって勇気がいる
だからそのときはそっとしておいた
でももちろん茜ちゃんをほうっておくわけにはいかない
だからこそあるところへ向かった
『Folex』のエンブレムが目の前にある
速瀬から話は聞いたことはあるが、間近でみるとまた雰囲気が違うというか・・
圧迫感を感じる
これも、この場所のすごさを象徴しているのだろうか
と、こんな感傷に浸っている暇はない!
とりあえず速瀬の場所を聞いた
どうやって、誰から聞いたかはひみつだ
どうやら速瀬はまだ練習中らしい
やはり実業団に入っただけあり、速瀬の泳力の伸びは激しく、
最近はテレビの特集などにゲスト出演するようになった
つい最近まで同級生だった、そして現にも友達である速瀬が
テレビに出ている姿を見ると、不思議な感覚がある
ああ、やっぱりすごいんだなとも感じる
・
・
・
速瀬か?
あの髪の長さ、速瀬しかいないだろう。
速瀬「た、孝之!?」
いきなりの登場に驚いた様子だ
しかし適応力が早いみたいで
速瀬「何々?どうしたの?もしかして遙とケンカでもしちゃった?」
「いや、そうじゃないんだけど?」
速瀬「あ、じゃあすごくなった私に会いにきたとか?」
「いや、そうでもない。」
速瀬「もぅ!せめてうそでも『そうかも』っていいなさいよ。」
「まあ、いいだろ、ほんと、テレビに出るようになっても速瀬は速瀬だな!
とりあえず聞きたいことがあってきたんだ
茜ちゃんのことだけど?」
速瀬「え、茜がどうかしたの?」
何かあったの?といった表情でこっちをみている
つまり、知らないわけか?
「茜ちゃんが最近元気がないんだ
学校から帰ってくるなり、ぼーっとしてたり
ご飯食べるときの振る舞いがとてもわざとらしかったり
今日は練習があるはずなのにないみたいな時間に帰ってきたんだ」
速瀬「うーんどうしたんだろ・・・
茜に・・・って聞いても答えてくれないね。
あの子、へんに意地っ張りなところもあって
悩みを一人で抱え込もうとするところもあるから」
「そうか・・・」
速瀬「あっでも、後輩に聞いてみたらわかるかも!」
「おお、じゃあ速瀬、お願いだ!」
速瀬「どうしよっかなぁ?
って、うそうそ、孝之も真剣みたいだし、私が一肌脱ぐとしますか!」
・
・
・
10分後、真相がわかった
これこそ、通信技術の進歩!
離れたところでもコミュニケーション!というのは関係ない!
知りたいのは結果だ
速瀬「茜、水泳うまくいっていないみたい・・・
なにがあったのかわからないけど、前回の大会が終わったあたりから
タイムが伸び悩んでいるみたい
この前は今までで一番の最低タイムを出して、学校内でも3位だったみたい」
速瀬も気持ちがわかるのだろう
速瀬にだって伸び悩んでいる時期はあったはずだ
スポーツとは常にうまくいくものではない
だからこそ負けることだってあるんだ
でも・・・・それを抱え込んでしまって、それからずっと伸び悩んだら・・・
もうまったくだめになっちゃうじゃないか・・・
人は向上心を失ったとき伸びることを忘れるという
いま、茜ちゃんの中になにかとてもよくない考えがあるのだろう
速瀬「あの子、本当は強くないのに・・・」
そうだよ、茜ちゃんだって女の子だ。
きっとつらいときには助けがほしいはずだ
ふと俺の中に「俺がやらずに誰がやる」という正義感が沸いてきた
そうだよ、一人が見逃し、二人が見逃し・・・を続ければみんなで見逃してしまう
だから気づいた人が救ってあげないとだめなんだ
茜ちゃん・・・いま、楽にしてあげるから・・・
計画は練っていた
その計画のために俺は準備しなければならないことがある
もちろん、その計画実行までは2日という時間しかないため、ゆっくりはしていられない
ある場所に通い・・・練習・・・練習・・・
少し腕が痛く感じるも気にしない!
・
・
・
遙には「ちょっとあるプロジェクトを成功させるためにがんばる」と言ってある
毎日疲れて帰宅するので遙のひざまくらは快適だ・・・
もちろんこの計画は、茜ちゃんにはばれないように・・・
−6月6日(土)−
遙は気づいていた
というより気づかない人はいないだろう
茜ちゃんの異変に
だから、遙には「今日は茜ちゃんが悩んで苦しんでいるのを救ってくる」といってきた
「茜ちゃんが元気に帰ってきたら、今日から3日間ぐらいはずっといちゃつきたい」とも言い残して
茜ちゃんは今日は練習休みといっていた
しかし、そんなはずはない
そんなうそ、すぐばれるのに・・・
だけどそれは好都合。計画をたっぷり実行できるんだ
茜ちゃんをあるところに誘った
そう、これが計画の第1段階
俺が今まで練習に練習を重ねたもの
それは水泳・・・
茜ちゃんにいつもの水泳道具を持ってくるように言った
俺も実はもう水泳道具は持ってきてある
そして近くの大型市民プールへ行った
オープンはしているものの、いまの時期にはほとんど客は来ないそうだ
貸しきり状態とは行かないものの人が少ない中で計画が実行できる
使うのは50m競泳用プール
「よしっ!茜ちゃん!勝負しよう!」
茜「えっ?」
「去年の負け分の借りを返せてなかったからな!」
茜「お兄ちゃん、いきなりどうしたの・・・?」
とあきれながら言う
そして飛込みからスタートするも、着地の時点で大幅にリードを取られる
これまで2日間練習してきただけで勝てるぐらいになるとは思えない
むしろ、これで勝てたら俺はオリンピック候補選手になれるだろう
圧倒的な差で負ける
3度目の正直!ぐらいまで勝負を挑むもすべて簡単に崩れる
そして陸に上がる
茜「お兄ちゃん・・・いきなりどうしたの?」
陰りはほとんど見せなかった、今が勝負時か?
「ああ・・・ちょっと聞きたいことがあったんだ
茜ちゃん、やっぱり最近何か悩んでいるだろ・・・
それを茜ちゃんから聞きたくて、勝ったら教えてもらおうと思ったんだ」
もちろん、勝てるなんてまったく思っていない
茜「・・・」
今、葛藤で悩んでいるんだろう
言うべきなのか言わないべきなのか・・・
言わないに転ぶともう絶対に機会が得られないような気がする
だからこそ、更なる勝負のために俺は向かう
「よしっ、じゃあこうしよう。
いまから俺がこの50mプールを使って2Km泳ぐ!
2日間練習したといっても俺の体力は落ちてきていて
今は泳げるかどうかわからない。でもやってみる。
だからできたら教えてほしい」
といって、返事も聞かずに泳ぎだす
飛込みから成功
しかしそんなに速度が出るわけでもない
時間がたつにつれてそれなりに疲労もたまってくる
500m、つまり10ターンを完了させた
体力が落ちたものだ
しかしこんなところでへばってたらあきれられるに決まっている
1000m、半分が完了
残りがもう半分である
半分が終わったといっても残っている体力は残りわずかのようなきがする
ああ、どうだ、でも力を振り絞ればいけるかもしれない!
1500m、おお!あと10ターンじゃないか!
俺の体力も捨てたもんじゃない!
出そうと思えばだせるじゃないか!
と、考えると少し楽になったかもしれない
残り400m
もう感覚がなかった
ただ、泳いでいる。
考えることなどなく泳いでいる
もし、今俺が魚だと言われたら信じてしまうかもしれない
残り300m
自分でもカウントを忘れそうだった
だからこそ、頭には数字だけを思い浮かべていた
タッチするごとにカウントがひとつ減っていく
これだとまるでカウンタ(数える機械)とかわらないだろ
残り200mをタッチ!
あと4ターン!
きっといける・・・
ゴールはもうすぐだ
・・・と、気を抜いた瞬間!
あ、足が・・・
・・・
痺れなのか、それともつったのか?
詳細な感覚はわからなかった
それを考えるほどの体力すらなかったのかもしれない
今まで泳いでいたため俺の体力はほとんど残っておらず、この状態で何かをする気力すらない
ただ、足の痺れなのかつったのかわからない状態で沈んでいくだけだった
そして、泳ぐことがとまった瞬間、俺の意識は少し遠のいた・・・
・
・
・
気がついたとき俺はやはりプールサイドにいた
タオルが枕の代わりに敷いてあって、その近くに茜ちゃんがいた
俺が目を開けたのを確認したからか、とても安心したような顔をして涙を流した
俺は途中で挑戦に失敗したんだ
そして茜ちゃんに助けてもらってここにいるんだろう
助けてもらったところは記憶がないが、そうだと予想できる
茜「もう、お兄ちゃんのバカ・・・」
話す言葉は怒っているような感じだが、
大きな涙を流しながら泣いていることから怒っているというわけではないだろう
茜「どうして・・・どうしてこんなになるまで・・・」
孝之「家族だからね。」
茜「えっ?」
孝之「まあ、遙と付き合っているからとか、結婚するからとか、そういう・・・
形式的なものじゃなくて・・・
茜ちゃんだって・・・俺の大切なカゾクだから
大切な人たちだから・・・」
そこまでいうと本当に吹っ切れたように俺の胸のなかで泣いた
大泣きだった
きっとここで流れている涙は「ほんとうの涙」であろう
茜「私ね・・・最近水泳がうまくいってないんだ・・・」
「・・・」
ここで下手に突っ込みを入れたら茜ちゃんの話をさえぎってしまうことになる
いまはただ聞くだけのほうがいいのだ
茜「このまえの大会で、小さな大会だったんだけどそれで負けちゃって・・・自信なくしちゃった」
「・・・」
茜「そのときはまだよかったんだけど、期待されているからちょっとのことでも
プレッシャーになっちゃって・・・」
きっと、速瀬も感じていただろう
期待されることがどれだけつらいことか
表では輝ける
しかしウラではプレッシャーとともに戦っている
期待されるとはそういうものだ
茜「これが、どんどん重くなってきちゃって・・・
どうしていいのかわからなくなっちゃって・・・」
茜ちゃんはまた大泣きをした
俺の胸の中で
プールの水よりも茜ちゃんの涙のほうが多くなったかもしれない
でもこれだけ茜ちゃんは一人で抱え込んでいたんだと感じた
速瀬の「あの子、本当は強くないのに・・・」という言葉が身にしみて感じたような気がする
今は泣いてもいいんだ
抱え込んできた痛みは、誰かが慰めてあげないとだめなんだ
そして一通り落ち着いたころ、急に茜ちゃんはストップウォッチを取り出した
ついでということでここでタイムを計るらしい
もう前までの茜ちゃんに戻ったのだろう
顔が生き生きしている
孝之「よーい!すたーと!」
散々計測の方法を説明され、正確にはかる
カチッ!
茜ちゃんのゴールと同時にストップウォッチをとめる
茜ちゃんはあがってきてタイムを聞く
俺はストップウォッチに表示されているタイムを読み上げた
茜ちゃんは「ほんとに?」と聞いてきた
そうだと答えると、「ほんとにほんとに?」
うん、と答えると、「ミスとかしてない?」
そんなに確認とるものなのか?といおうと思った瞬間、茜ちゃんが満面の笑顔で
飛びついてきた
とてもうれしそうだ。
「やったやった!」と言い出しそうなほど
俺は・・・茜ちゃんを救えたのだ
そしてその後、急にさっき俺に抱きついていたことを恥ずかしそうにしていた
それから一通り練習に付き合った後、帰宅準備
来るときと帰るときで茜ちゃんの表情は驚くほど変わっていた
そして遙のうちについた
ドアを開けて2秒後、遙が飛びついてきた
そしていちゃいちゃタイムの開始である
それをみて茜ちゃんは今までのように本当に笑っていた
きっと、こういう空気が好きだったんだろう
食事の時には茜ちゃんがちょっかい出してきて、遙がなだめる
そしてそれをみてお父さんやお母さんがわらう
こんな雰囲気が好きだったんだろう
俺は全力で・・・この「大切なモノ」を守ったのだ!
〜Epiloge〜
−6月20日(土)−
今日も大会会場は熱気に包まれていた
いつもの恒例行事のように遙やお母さん・お父さんと一緒に茜ちゃんの応援に来ていた
生き生きとした表情で大会に臨む茜ちゃん
俺と勝負したときとやはり泳ぎ方が違う
いつもどおりの力を発揮して見事優勝を飾った!
そして満面の笑顔で「すごいね」といってほしいとぐらいに
「すごいでしょ!」という態度を示す
そんなとき茜ちゃんは俺に向かって
茜「お兄ちゃん、ありがと!」
〜FIN〜