もうすぐ孝之がこの丘に来るだろう
「一生のお願い」として、私からお願いされたからだ
孝之は何を考えながらあの丘へ向かっているのだろうか
孝之はこれから何があるのか知っているのだろうか
知らなくても、もうすぐ分かる
そして同時に私の気持ちもわかる
積もり積もって、抑えきれなくなって
苦しくて、それでも今まで勇気がなくて
そんな想いを、孝之にぶつける
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孝之「速瀬?」
速瀬「よう。」
孝之「おう。」
速瀬「よかった。来てくれて」
孝之「なんだ、お前がきてくれって言ったんだろうが。
こんな時のために一生のお願いなんて使いやがって」
速瀬「一生のお願い使っても、よかったんだ。
来てもらえてうれしかった」
孝之「えっ?」
速瀬「うん、えっと、孝之、聞いててね。今から大事なこと話すから」
孝之「・・・」
速瀬「私ね・・・」
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夜、いつも買っている本の占いコーナーを読んでいた
恋する乙女である水月は、自分の運勢をいつも気にしていた
水月「あしたの運勢は・・・」
水月が占いコーナーを見ていると・・・
「恋に悩んでいる人は明日が愛の告白の最良日
とにかく、告白してみましょう」
水月「告白かぁ・・・」
思い悩んでしまう
勇気がない
自分は水泳に打ち込んできたため、恋に関してなどはぜんぜん分からない
それに、いくら告白してくる人がいるといっても、やはり自分にかなりの自信を持っているわけではない
まして、孝之は私のことを見ていてくれているのだろうか
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孝之への恋はいつの間にか始まっていた
趣味が合うということもあるし、
何も気にせず友達と付き合っていくことができるということもあるし、
理由を挙げていけば、きりがない。
孝之の場合、めちゃくちゃかっこいいというわけでもない
めちゃくちゃ頭がいいというわけでもない
いや、むしろ白陵にもいけないかもしれないといっているぐらいだから、やばいのかも・・・
でも、そんなことは関係ない
ただ、好きなのだ
一つ一つの細かなかけらがたくさん集まっていつしか、想いはとんでもない大きさになっている
些細なことでも、ホンの小さな出来事でも、私にとっては孝之との思い出
私の学校での席は孝之からみて「右に2つ前に1つ」にあたる
近いといえば近いのだが、授業中ふと、孝之のことが見たくなっても、
孝之と同じ世界に生きているんだということを確認するため、孝之のほうを見たくても
後ろを向くことになるため、無理
だから、休み時間には必ず孝之のほうを向くんだ
それに気づいてくれたときは、気分によって応対をかえる
それでも応対してくれること自体嬉しい
それから、学校の通学路を歩いている時、気軽に話しかける・かけられるが出来るため
なんか嬉しい
この前なんかは嫌いなのを分かっていて、怪談話をしてきた
ふつう、他人だとおもっている人にはそんなことはしないだろう
私のことを一人の大切な友達として認めてくれているということだ
それだけで嬉しい
でも、やっぱりたまに思う
孝之を独り占めしたいと
こんなに近くにいるのに、それでも想いは一つになっていない
それが悲しい
だから、そのたび、孝之にぶつかって(告白して)みようかと思う
それなのに勇気がなかった
でも、今回はちょっと勝負に出ようかと思う
明日は、告白最良日
こんなチャンスはない
占いというものに頼って行動したということはちょっと優柔不断な点もあるが、
でも、それでもよかった
明日告白するぞと、心に誓っていた
〜7月10日〜
告白するため、孝之に放課後丘に来るように言った
驚いてはいたが、きっと孝之ならきてくれる
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6時間目になった
あと1時間後には恋の分岐点に達する
とても緊張してくるが、時間はゆっくりになってくれない
刻一刻と迫っている
人気のないところに呼び出されたということで、孝之も少しはこのような展開を考えているだろう
だからもう後戻りは出来ない
黒板には、λ,νなどの記号がたくさん書かれているが、ほとんど見えやしない
孝之のことばかり考えてしまう
自分の想いの大きさを知っている
それでもそれ以上の想いがあるということで、それに驚いてしまうこともある
私ってこんなに悩んでいたんだ・・・というように
私だって女の子なんだよ・・
思いっきり恋をしているんだよ
だから・・・神様・・・勇気を貸してください・・・
私のために・・・
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私はいつの間にかあの丘の上にいた
そして、不思議と悩み・不安はなかった
後はがんばるだけ
神様、力をありがとう
助けてもらったんだから、自分自身も精一杯やらないと
あそこに見えるのは孝之だ
ゆっくりと歩いてくる
私のほうに向かって歩いてくる
恋に不器用だった私・・・それはいま終わる
やわらかい風がこの場に吹いた