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人生の四季
 
「老いの意味を知らなければ、老いの価値は分かりません。」オーストラリアの看護師で女性牧師のエリザベス・マッキンレーの活動を描いた「する人からなる人へ」というNHKの番組の中で彼女が語った言葉です。
老人の人生だけでなく、実はすべての人の人生も同じです。生きる意味が分からなければ、生きる価値は分かりません。そして人生の意味を考えないでも生きていけるように、老いの意味を考えなくても人は老いていくのです。老いの意味と価値を考えている老人は、非常に少ないのです。
ある精神科医は人生を1日にたとえ、人生を午前、午後、夜に分けました。老年はもちろん夜です。別の精神科医は人生を四季にたとえました。春は赤ちゃんから20歳ぐらいまで。その次の夏は社会的に様々な活動をする期間です。そして今日のテーマである老年は秋にあたると言うのです。四季というものは不思議なもので、だらだらと天候や気温が変わるというよりは、ある時を境にかなり短期間に急に変わるのが普通です。
そして老年という秋も突然やってくるのです。多くの男性にとっては定年退職という社会的に大きな区切りがあります。毎朝満員電車にゆられて出勤し夜遅く帰宅する毎日が、急にあるときからそうしなくてよい日がずっーと続くようになります。妻にとっては休日以外はほとんど家にいなかった夫が、朝から晩までずっーと家にいる毎日が始まります。そのようにして人生の秋は突然おとずれるのです。
多くの人はそのための準備をとくにしていないのが普通です。しかし本当は、夏から秋に変わるとき夏物と秋物や冬物を入れ替えるように、人生の秋にもしなければならない多くの転換があるのです。人生の冬である死のときに向かって、最も重要なことを考えはじめるときです。
退職をしたら「あれもして、これもして」という計画を持っておられる方もあるでしょう。それは結構なことですが、それはそれでまた終わるときがあります。しなければならない最も重要なことは、老いの意味と価値を考えることではないでしょうか。春の成長期、夏の活動期には考えるひまがなかった、人生の意味と価値を考える絶好のチャンスです。
 前述の「する人からなる人へ」というNHKの番組では、このタイトルのもとになったある心理学者のことばが紹介されていました。人生をやはり三つに区切り、それぞれ「する人」「ある人」「なる人」の時期であるというのです。老年は三つ目の「なる人」です。実はもとは英語で、「human doing」「human being」「human becoming」です。辞書に本当に存在する英語は人間という意味の真ん中の言葉だけで、あとはこの学者の造語です。
 これまでは、どれだけ価値ある仕事をしたか、どれだけ価値ある身分や地位の人間であるか、が問われてきました。「human doing」「human being」の時代です。しかし退職後は生産や労働の量や価値で人間を計ることからは解放されました。現職時代の大会社の社長は、廊下を歩いてもみんなが頭を下げる存在であっても、公民館の老人クラブに入れば先輩に頭を下げなければなりません。そのように自分にくっついていたものが、人生の秋である老年には葉っぱのように次々とはがれ落ちていくのです。