「結婚前の心構え」

 
「はじめに」
 
ピアノと楽譜を買えばピアノが弾けるようになる、と考える人はほとんどありません。しかし結婚に関しては、不思議なことに、多くの若い男女がそのように考えているのです。あの人と結婚をすれば幸福になれる、子供を産めば幸せな家庭ができる、そのように夢見て不幸な結婚生活に耐えている男女は後を絶ちません。結婚前は「良い相手を見つけて結婚すれば幸福になれる」、結婚後は「相手が悪いから私の結婚生活はうまくいかない」と考えている人たちです。
最高のピアノと名曲の楽譜をそろえても、まだ何も始まっていません。まだ道具をそろえただけ。最高の条件がそろった相手と結婚しても、それで結婚がうまくいくのではありません。結婚は楽器をそろえることではなくむしろ楽器の演奏に似ているからです。ショパンのポロネーズが演奏できるようになるためには、退屈な練習と忍耐が要求されるのは言うまでもありません。ピアノも結婚生活も本当は退屈なものではありませんが、日々の学習と長年の忍耐が要求される点では両者はよく似ているのです。
聖書は結婚を、式場やハネムーンの行き先から始めていません。新約聖書の多くの部分を書いたパウロは「教会のために御自分をお与えになったように、妻を愛しなさい」(エフェソの信徒への手紙5:24、25)と言っています。結婚式場のパンフレットには、もちろんそんなことは書かれていません。他の誰が、そんなところから結婚を考え始めるでしょうか。言い換えれば、そのようにしないことが結婚がうまくいかない原因です。しかし、不幸な結婚をしているほとんどの夫婦は、その他のどこかに原因があると思いたいのです。
 
決断
それまでの経過はともかくとして、いよいよこの人と結婚するかどうかという決断の時が来ます。そのときどのようにして決めれば良いのでしょうか。何の迷いもなく決める人、迷った末に決める人、迷い迷って決めない人。相手のあることでもあり、ケースバイケースなのですが、絶対に外してはならない二つのポイントをわきまえなければなりません。
当然のことですがまず、良い選択をするようにしなければなりません。そしてその次は、自分が選択し決断した結果に責任を取ることです。結婚が「めぐり合わせ」「相性」「血液型」「星座」「占い」「お日柄」などの問題だと思う者は、結婚がうまくいかなくなったとき、今度は「めぐり合わせが悪かった」「性格不一致」などに原因を求め始めるかも知れません。つまり不幸な結婚は、自分の責任ではなかったのです。責任があるとしても、「相性」がよいかどうかの判定を誤ったという責任だけで終わってしまいます。
しかしもし私が選択し私が決断した結婚であるなら、私は自分の選択と決断の責任を負わなければなりません。そうです、結婚を考える年齢になった成熟した男と女は、まずそのように考えなければなりません。そして結婚式場やハネムーンをどこにするかではなく、そこが結婚の本当の出発点であるのです。
 
結婚の誓約
では結婚する二人は、何を選択し何を決断するのでしょうか。ある男性を夫として選択し、ある女性を妻として選択するのではありません。もちろんそれが含まれているのは当然ですが、それだけでは全く不十分です。一人の男性を自分の夫として愛すること、一人の女性を自分の妻として愛することを選択し決断をするのです。そしてこの二つの選択には決定的な違いがあり、どちらの決断をしたのかによって、その後の結婚生活は決定的に違うものになるでしょう。
結婚式の誓約の文章は、結婚をする二人が結婚する前に決断しなければならない事柄の要約です。これから結婚する男女のためにも、すでに結婚した夫婦のためにも、多くの結婚式場でも用いられている教会の結婚式の三つの誓約の内の一つを、ここに引用しておきましょう。「あなたは、神の教えに従い、きよい家庭をつくり、夫(妻)としての分を果たし、常にあなたの妻(夫)を愛し、敬い、慰め、助けて、死が二人を分かつまで、健やかなときも、病むときも、順境にも逆境にも、常に真実で愛情に満ち、あなたの妻(夫)に対して堅く節操を守ることを誓約しますか」(「日本キリスト改革派教会式文」日本キリスト改革派教会大会出版局)。
ある男性を夫として、ある女性を妻として選択するという決断だけであるなら、自分の夫として自分の妻としてふさわしくないと思うようになったとき、夫や妻を愛するのを止めてしまうかも知れません。結局、自分を幸福にしてくれる者を選択したのであり、自分を愛することを決断しただけであるからです。
もちろん、若い男女が完璧な決断をもっていなければ結婚してはならない、と言いたいのではありません。しかし結婚に関して、そのような理解が全く欠けているのならもう少し考えてみるべきです。これから42.195キロメートルを走ることを理解していないマラソン・ランナーは、勝利することはおろか完走できる可能性すらあまりにも小さいのです。十分な心構えと十分な準備をもってしても、途中で棄権する選手が出る長いレースであるのならば、そうではない者がすぐに挫折してしまうのはむしろ当然と言わなければなりません。
結婚前の準備に関しては、他にも知らなければならない事柄はいくらでもあるのですが、結婚前の準備の中で最も重要なのは、結婚生活とはどのようなものであるかを理解しておくことです。つまり、2章以下に記したような結婚生活の基本的な原則を少しでも知っておかなければならないのです。