文化


 
Q.キリスト教は西洋文化にどのような影響を与えましたか。
A.キリスト教は西洋文化のあらゆる領域に影響を与えました。西洋の音楽、絵画、文学、哲学でキリスト教の影響を受けていないものはない、と言っても言い過ぎではありません。ですからとくに、そのような西洋の芸術や文化を研究したり、それを職業にしようと思う人は、キリスト教やその歴史を知らないと中途半端な研究や不十分な仕事になってしまいます。たとえそれが近代の実存主義哲学など、キリスト教に否定的なものであっても例外ではありません。
 
Q.西洋音楽にキリスト教はどんな影響を与えましたか。
A.西洋音楽の歴史をグレゴリオ聖歌から始めるのが一般的ですが、これは中世から近代まで教会で歌われてきた単旋律の賛美歌です。歌詞には主に旧約聖書の詩編が採用されています。その後メロディ-は複雑になり、いくつかの旋律が同時に歌われるポリフォニー音楽が教会の礼拝堂で歌われるようになります。ビバルディ-やバッハなどバロック時代の音楽は基本的にポリフォニーで書かれていました。バッハは主に教会の礼拝のために音楽を書いた最後の大作曲家ですが、モーツアルトやベートーベンなど、その後の偉大な作曲家は少しずつ教会から独立して様々な音楽を書くようになります。しかし、それまでの音楽と無関係にではなく、それまでの音楽の基礎の上に建て上げられていったと言わなければなりません。その後のロマン派の音楽や、近代のストラビンスキーやメシアンの作品を、それぞれ単独で聞くことはもちろん可能でしょうが、どのようにしてそのような音楽になったのかを知るなら、より深い演奏や鑑賞になるのではないでしょうか。
  
Q.西洋哲学や西洋文学にキリスト教はどのような影響を与えましたか。
A.実存主義など近代西洋哲学はキリスト教に否定的であるのですが、なぜそうなのか。その元であるキリスト教が分からなければ、近代哲学を理解することは不可能です。「神が天と地を創造した」という言葉で聖書は始まります。そのようにすべてのものはまず神の頭の中から始まったという考えが、キリスト教の基礎にあります。ギリシャの哲学者プラトンもまずイデア(アイデア)があると言い、キリスト教に似ています。しかし実存主義はまず存在があると主張します。ペーパーナイフはまず人の頭のアイデアから始まり、そのアイデアに基づいて実際の製品が造られ製品として存在するようになります。しかし人はそうではない、まず存在が先にあるというのです。これは人が神に創造されたというキリスト教に、真っ向から挑戦する思想であるのです。またキリスト教は同様に、直接間接に西洋文学にも決定的な影響を与えてきました。そんなわけで私は、大学の英文学科には、キリスト教や聖書の講義は必修にするべきだと思っています。聖書を知らないでシェークスピアを読むのは、赤道直下の常夏の国から出たことのない者が、日本の俳句を研究するようなものであるからです。
 
Q.西洋の絵画にキリスト教はどのような影響を与えましたか。
A.芸術の他の領域と同様、キリスト教は絵画にも大きな影響を与えてきました。 中世の絵画のテーマは、文字通りキリスト教一色 であり、マリア像やキリスト像や聖書からのテーマが圧倒的に多いのは、だれもがよく知っているところです。絵画はその後、教会から解放され、聖書の人物や物語だけでなく様々なテーマで描かれるようになっていきました。しかしそれでも、画家がそう思っていても思っていなくても、画家が神を信じていてもいなくても、彼らはみな神が創造された世界を描こうとしてきたのだと、私は考えています。すぐれた画家とは、一般人が見過ごしている神の創造の世界の美を感じ取り、それを表現する能力のある人のことです。たとえばゴッホのひまわりは、カメラで写したひまわりのようではありません。少しゆがんでいるかもしれません。しかしそこには、私たちもカメラも見逃してしまった、ひまわりの力強い生命力が描かれているのです。ピカソは抽象画を一枚も描かなかったと言われますが本当だと思います。ピカソの描く人は、もっとゆがんでいるのですが、しかしたとえば代表作の一つ「泣く女」は、他のどんな絵画よりも「泣いている」と私には思えるのです。それに対して日本画は、対象の中にある美や真理を表現するというより、対象から画家の心に受けた印象を表現しているように思えます。そのような傾向は、絵画だけでなく、小説でも映画でもアニメでも言えるのではないでしょうか。聖書が人間を、醜さも罪深さもありのままの姿に描くのと無関係ではないと考えます。