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醫学 


 呼吸器外科領域の代表的な疾患は、「肺がん」である。平成26年度厚生労働省患者調査によると、肺癌の患者数は年間14万6000人(男9万人、女5.7万人)で、本邦では年々増加している1)。経済産業省技術戦略マップ「医療機器分野」では、「がん」は特に対策が必要と考えられている。手術後の生存率を伸ばすため、がん細胞の遺伝子情報に応じた化学療法の選択、抗がん剤の副作用と腸内細菌の関連という視点を交えて、肺がんの診断と治療における医療機器の状況を取り上げたい。

 がんの医療では、外科治療、化学療法、放射線治療の3分野がそれぞれに進化し続けている。外科治療における画像診断では、PET-CT検査の普及、CT検査が日常化するなかで、精細な画像データが激増し、読影・診断する放射線科医師の負担は増える一方である。化学療法も分子標的薬が登場し、肺癌の遺伝子変異応じて、投与薬剤の選択が可能となっている。遺伝子変異を高精度に分析できる遺伝子検査機器が医療機器として必須になってきている。放射線治療として、粒子線治療機器が先進医療として認められ、切除不能肺がんの患者に対する局所治療を試みる時代が来ている。

  低侵襲な手術の術式の進化がある。現在普及している3-port VATSからSingle Port Surgeryの技術が肺がん手術にも広がる可能性がある。創一つで内視鏡手術を行うものであり、それゆえ、操作性の観点から新しい手術器具が必要である。内視鏡については、現行のシステムの延長上で、3D化と4K、8Kへの高解像度が進んでいる。手術の操作に使用される手術器具に注目すると19世紀から続く金属鉗子などの道具類に代わり、樹脂製で滅菌消毒が不要なデスポーザブル手術機器や世界最新の技術で高度な表面研磨された手術機器の開発も始まっている。

  大腸がん、肝臓がんの発がんとの関係が研究されている腸内細菌フローラの解析が始まっている。免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブや分子標的治療薬による肺がんの化学療法の際に、下痢などの副作用の時、16S RNA解析による腸内細菌フローラを解析することを通して、薬剤の副作用予想技術の開発研究も始まっている。安定的に検体から16S RNAを採取し解析できる医療機器が必要とされている。 

  超音波凝固装置についてはブレード先端のDLC加工により切離端の耐圧性向上をめざした研究もおこなわれている5)。また、医療機器の材料面での検討も重要な課題となってきている。

  臨床で既に使われている手術用の自動縫合器は、「手動機械式」から「電動制御式」に置き換わりつつある。従来の人の握力手動によるデバイスでは、操作時の手術機器の先端振動につながり、肺がんの外科手術で血管壁の極めて薄い「肺血管」を切離する際に、大きな医療事故につながる可能性があるという問題があった。手術の操作でブレをなくす点からは、電動化は医療安全に寄与すると考える。

  さらに、新しい動向として、医療機器が特定の手術手技に特化した製品開発に向かい始め、新たな市場を国際的にも形成し始めている。肺血管の切離専用のJ&Jのエシュロン7は、日本からのアイデアの具体化となる製品で、先端のブレード幅は7ミリで旧来の10.5ミリより細くなり、針は2列に減少され、体の小さなアジア人でも容易に血管把持と切離ができるように、電動式デバイスとして改良開発された。米国での承認と販売は、2015年4月、本邦での承認と販売は2015年12月、市販状況は米国、欧州、韓国につづき、日本に上陸し、販売台数は、世界で50万本に急成長中である。 エネルギーデバイスのハーモニックエース+7はブレードの駆動時の温度を変化させることで、タンパク凝固に最適な温度を超えないように制御され、耐圧性のある血管切離ができるように工夫改良されてきている。平成25-27年度経済産業省「医工連携事業化推進事業」:多孔質高分子樹脂を用いた低侵襲手術における吸引機構付き圧排・剥離機器の開発改良・海外展開」の支援により、形状、素材を改良した医療用剥離子として呼吸器外科領域からロータリーダイセクター6)が上梓し販売され、12ミリ、5ミリサイズとともに消化器外科、婦人科領域7)でも使用されている。

  肺がんの自動診断については、人工知能のもっともよい開発目標になると考える。病像を解析するCT装置の解像度は、今後とも飛躍的に向上すると考えられ、画像のデータ量もさらに増加する。画像データの保存の電子化が普及することで、過去の画像データとの比較が実臨床レベルでも容易になり、「微小病変の見落とし」の存在が指摘される場面が増えてくる可能性がある。肺のCT画像に対する微小肺病変の医師診断時に、病変候補を指摘する機能は、今後普及すべき重要な課題になると考える。肺CADの普及には、診断精度の向上に寄与する医療機器の使用に対しての「診療点数」の付与を行い、普及を促進すると同時に、同診療点数の算定時には他施設で頻回に行われてしまっている画像検査の回数の抑制も数値的に盛り込むなど医療費適正化の仕組みをいれてはどうかと考える。

  外科の手術医療機器については、従来のSurgeryの「メス、結紮、縫合」から、Interventionsの「エネルギーデバイス、ステープラー、Fusion」の電気デバイス化により、個人の身体的な能力に関わらず、より普遍的に操作ができるようになってきており、手術操作の要素技術を見つめなおして、産業的に利用可能な工学的な技術と適合させることで、実用までのタイムラグの短い社会実装性のある研究開発につながるものと考えている。 現在の胸腔鏡の形状と性能、そして手術道具を用いた単孔式手術が行われているが、デジタルカメラのCCD、CMOSが2000万画素になり、超小型化している時代に、重厚長大な128万画素レベルの金属の鏡筒の内視鏡を外科医が持って操作する内視鏡手術はいつまでつづくのかと思う。ウズラの卵サイズの小型カメラを手術創に取り付けて、無線でモニター画面に飛ぶようになれば、よりシンプルに手術ができる。 手術後の化学療法については、今や、病変の遺伝子変異の検査は必須であり、再発病変についても生検組織の遺伝子変異の推移の解析は必須になりつつある。この遺伝子検査の手技を革新的に簡便にできる医療機器の開発ももとめられるようになるだろう。

 また、医療経済も逼迫する中、医療機器が医療の中で、どのように使用され、その結果、どのような効果を患者にもたらしたのかを医療機器の改善や費用対効果検討の観点からも「医療とIOT」8)は重要な分野となると考える。

  研究開発の組織の仕組みとしては、医工連携、産学連携といわれて久しいが、オープンイノベーションで成果の出せる組織形成が重要である。現在、Team In KYOTOを運営し、京都中心の企業群と医療機器開発の勉強会を行っているが、問題となるのは「知的財産権」マネージメントの実務調整である。垣根を超えて、問題点を検討する中で解決のアイデアが提示されたとき、誰が発明者となるのか、出願人や費用負担はどうなるのか、などに関して、研究開発内容についてのNDAも含めて、大企業になればなるほど「組織」としての対応となりオープンイノベーションからは程遠い対応となる。社会実装性のある、商品になる医療機器を世に出すには企業の製品力は必須であり、国際競争力のあるオープンイノベーションのためにはオープンさを担保できる知的財産権に関する法制の整備が企業間連合の活動促進発展を促すブレークスルーになると考えている。

参考文献
1)平成26年 患者調査 厚生労働省
2)経済産業省 技術戦略マップ「医療機器分野」2010
3)肺がんCT検診CADシステムの現状と今後の展望、藤田広志、Jpn.J.Med.Phys. Vol.35 No.2: 163-166(2015)
4)超小型RFIDタグを用いた手術用マーキングシステムの開発.小島史嗣,佐藤寿彦,高畑裕美,岡田実,杉浦忠男,大城理,伊達洋至,中村達雄.JJSCAS 2012; 14(3):316-317.
5)Surface-processing technology of a microgrooving and water-repellent coating improves the fusion potential of an ultrasonic energy device.
Okada S, Shimada J, Ito K, Ishii T, Oshiumi K.
Surg Endosc. 2016 Jun 22. [Epub ahead of print]
6)ロータリーダイセクター https://www.youtube.com/watch?v=6sbuexgNMgU
7)ロータリーヘッドダイセクターによる生殖靭帯ラインを意識した子宮内膜症性癒着剥離、秋山誠、楠木泉、伊藤文武、菅沼泉、松島洋、辰巳弘、北脇城、日本エンドメトリオーシス会誌、2014:35:247-249
8)竹上嗣郎、「医療とIOT」J JSCAS Vol.17 no.2 2015/65


 

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