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  1. PaO2と酸素飽和度
  2. 交感神経の走行と解剖
  3. 局所麻酔薬の基礎知識 〜リドカイン lidocain〜
  4. 降圧薬の使い方
  5. 多汗症について
  6. ジギタリス製剤の基礎知識
  7. IVH必勝法〜鎖骨下静脈編〜
  8. 心室肥大(Ventricular Hypertorophy)
  9. NSAIDsによるCOX-2阻害について
  10. アスピリン

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研修医宿題

NSAIDによるCOX阻害について

本間 幸恵

アラキドン酸カスケード 

 細胞膜のリン脂質にエステル結合しているアラキドン酸は、ホスホリパーゼA2により、細胞質内に遊離される。遊離アラキドン酸は、アラキドン酸カスケードと呼ばれる代謝経路でシクロオキシゲナーゼ(COX)により代謝され、PGG2になる。また、LT(ロイコトリエン)合成系で、LTが合成される。(図1)

A.シクロオキシゲナーゼ回路

 COXは、アラキドン酸に酸素分子を付加するリポキシゲナーゼであり、PGG2からPGH2を合成するペルオキシダーゼ活性も有する。つまり、単一の酵素、PGエンドペルオキシド合成酵素に、シクロオキシゲナーゼ活性とヒドロペルオキシダーゼ活性がある。

 その結果、生理機能の維持や免疫的炎症反応に関与するプロスタグランジン(prostaglandin:PG)や、トロンボキサンA2(thromboxane:TXA2)が血小板や好中球で、合成される。

  なお、 活性酸素の一重項酸素が、PGG2からPGH2が合成される際に産生される。

B.リポキシゲナーゼ経路

 アラキドン酸は、5−リポキシゲナーゼにより代謝されて、免疫的炎症反応に関与するロイコトリエン(leukotrien:LT)が肥満細胞などの白血球で、合成される。アラキドン酸から、アラキドン酸カスケードやLT合成系で合成される、TX、PG、LTは、エイコサノイド(eicosanoids)と総称される。

 エイコサノイドは、細胞の刺激に応じてアラキドン酸から合成され、局所で作用した後、速やかに代謝される。エイコサノイドは、生体の局所で合成されて、局所でホメオスタシス(生体の恒常性)を維持するために働いている。エイコサノイドは、エイコサペンタエン酸(EPA)からも合成される。

1.トロンボキサンA2(TXA2) 

 TXA2には、血小板凝集作用、血管収縮作用、気道平滑筋収縮作用がある。血小板から濃染顆粒を放出させる。トロンボキサン合成酵素の活性の高い組織は、まず、血小板、続いてマクロファージ、肺、肝臓である。その他の組織にも、低値ながらトロンボキサン合成酵素は、存在する。TXA2の血中半減期は、30秒以下と短い。

 しかし、同じアラキドン酸から生成される、プロスタグランジンI2(PGI2:プロスタサイクリン)には、血小板凝集阻止作用がある。(同じ材料から、同じ代謝経路で、反対の作用を示す生理活性物質が産生されることは、生命の恒常性を保つために、好都合な仕組みと、思われる。)

 n−3系の不飽和脂肪酸のEPAが、血小板でCOXにより代謝されて出来るトロンボキサンA3(TXA3)は、アラキドン酸が代謝されて出来るTXA2と異なり、血小板凝集作用や、血管平滑筋収縮作用が無いとされている。実際、EPAを含む魚食により、血小板凝集能が抑制される。

2.プロスタグランジン(PG) 

 PGは、赤血球を除く全ての細胞で産生される。

 PGD2は、ヒト肺実質、肥満細胞で産生される。PGD2には、血管平滑筋収縮作用、血管透過性亢進作用、気管支平滑筋収縮作用、粘液分泌亢進作用があるが、血小板凝集は抑制する。PDG2には、自然睡眠誘発作用がある。カゼなどで発熱した時に、眠くなって、体を休息させようとする。

 PGG2、PGH2には、血小板凝集作用や、血管平滑筋収縮作用、気管支平滑筋収縮作用があるという。

 PGI2(プロスタサイクリン)には、逆に血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支拡張作用がある。また、胃酸分泌を抑制する。

 PGE1には、動脈管拡張作用がある。(注射で新生児期の動脈管開存症に用いた時の副作用には、発熱、下痢、出血傾向、などがある。)PGE1は、胃酸分泌を抑制し、発熱させるという。

 PGE2は、精のう腺、腎髄質、肺、胃、肝臓などでアラキドン酸より生成される。主な作用には、血管平滑筋弛緩(血圧降下作用)、血管透過性亢進、気管支平滑筋弛緩(気管支拡張)、胃酸分泌抑制、胃粘液分泌促進(胃粘膜保護作用)、子宮収縮、体温調節(発熱)などがある。炎症時に放出されるPGE2は、局所の血流を増加し、浮腫形成と炎症細胞の浸潤を増強する。PGE2は、視床下部の体温調節中枢に作用して、体温のセットポイントを上昇させるので、発熱が起こる。しかし、PGE2は、T細胞からのインターロイキン−2(IL-2)の産生や、LTなど他の炎症メディエータの産生を阻害する。PGE2には、睡眠阻害(覚醒)作用がある。PGE2は、赤血球変形能を、弱いながら低下させる。

 PGF2αは、マクロファージ、白血球で、生成される。PGF2αには、子宮収縮作用、消化管粘液分泌促進、腸管蠕動亢進作用、気管支平滑筋収縮作用、粘液分泌亢進作用がある。なお、子宮宮筋層は主としてPGI2、TXA2を産生し、子宮内膜は主として PGE2とPGF2αを産生するという。

3.ロイコトリエン(LT) 

 LTは、肥満細胞、好中球、単球・マクロファージなどの炎症細胞においてのみ、合成される。

 LTC4、LTD4、LTE4は、毛細血管の透過性を亢進させたり、気管支平滑筋を収縮させたり、気道粘膜の繊毛運動を減少させたり、気道粘液の分泌を亢進させる(従来、Slow-Reacting Substance of Anaphylaxis:SRS-Aと呼ばれていた)。

 LTB4は、白血球遊走作用がある。

NSAIDs

 ステロイド骨格を持たない抗炎症剤。 シクロオキシゲナーゼ阻害によってプロスタグランジンとトロンボキサンの合成を阻害することによって 抗炎症作用を発揮する。 ただしリポキシゲナーゼは阻害しないのでロイコトリエンの合成には関与しない。 またステロイド系のようにIL-1やTNFのようなサイトカイン合成を抑制することもない。

 NSAIDsとして有名な薬剤にアスピリンがあげられるが、喘息の既往のある患者に不用意にNSAIDsを使用することによって惹起されるアスピリン喘息が一時期話題になった。アスピリン喘息の発症機序は不明で、多くは非免疫学的機序と推察されている。

 その機序の1つとしてアラキドン酸代謝系の関与が考えられる。前述の通り、アラキドン酸代謝系にはプロスタグランジン(PG)合成系とロイコトリエン(LT)合成系があり、アスピリンや他の酸性NSAIDはシクロオキシゲナーゼの酵素活性を阻害して、PG合成を阻害する。したがってアラキドン酸代謝がLT合成系へ多く流れ、喘息を誘発する化学伝達物質のLTが多量に産生されてしまうことになる。また合成を阻害されるPGには、気管支拡張作用を有するPGE2と、気管支収縮作用があるPGF2αがあるが、気管支にはPGE2が多く分布しているため、PGE2合成阻害作用が強く影響することも考えられる。

癌の予防や治療におけるNSAIDsの効果

 ヒト癌細胞でのCOX-2の発現増強としては、大腸がん、乳がん、胃がん、食道がん、肺がん、肝細胞がん、膵がん、頭頚部の扁平上皮がんなどが報告され、NSAIDs服用者における大腸がんや乳がんなどの発症率の有意な低さ(40〜90%)からCOX-2と発がんの機序が注目されている。
例えば、アスピリンを常用している人は、大腸がんで死亡するリスクが半分近くになることが報告されている。がんに関連しているのはCOX-2の方であるが、従来のNSAIDsはCOX-1もCOX-2も阻害するため、多くのNSAIDsががん発生の予防のみならず、がん細胞の増殖や転移を抑制することが報告されている。しかし、COX-1の阻害は生理機能に必要なプロスタグランジンの合成も阻害してしまうため種々の副作用を引き起こす危険がある。そこで近年、COX-1を阻害せずにCOX-2のみを選択的に阻害する薬が開発されている。COX-2の選択的阻害剤であれば副作用が少なく、がん細胞を抑制する強い効果が期待できます。

(参考)CELEBREX (セレブレックス、一般名:Celecoxib)の血管新生阻害作用と抗腫瘍活性に関する文献的考察

COX-2阻害剤の血管新生阻害と抗腫瘍活性について

 シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)により産生されるプロスタグランジンは、がん細胞に栄養を供給する腫瘍血管の新生を誘導することによって、がん組織の成長促進に関与していることが指摘されている。ヒトの大腸がん、乳がん、前立腺がん、肺がんの生検組織の中にあるがん細胞のみならず、新生した腫瘍血管の細胞においてCOX-2は発現していることが報告されている。一方、COX-1はがん組織のみならず、正常な組織にも広く存在していて生理機能に重要な役割を果たしているので、その阻害は多くの副作用を引き起こす。したがって、COX-2を選択的に阻害することは正常組織への副作用がなく、がん細胞の増殖を抑えることが期待できる。

 COX-2がヒトがん細胞の増殖に関わっているということは、マウスに植え付けた肺がんや大腸がんの増殖をCOX-2阻害剤であるCelecoxib(商品名セレブレックス)が抑制するということから支持されている。がん細胞におけるCOX-2の発現は細胞の増殖や転移や抗癌剤抵抗性と関連していることが報告されている。食道癌、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌など多くの癌の発生に対してCOX-2阻害剤が癌予防効果があることが報告されている。このようなCOX-2の発現の多い癌に対して、COX-2阻害剤は抗腫瘍効果が期待できる。

 Celecoxibは強い血管新生阻害作用を持っており、ラットの血管新生の実験モデルにおいて、角膜の血管新生はCOX-1阻害剤では抑えられないが、COX-2阻害剤のCelecoxibでは抑制されたと報告されている。

 COX-2とCOX-2が産生するプロスタグランジンは、がん細胞の増殖や血管新生を刺激するなど多くのメカニズムによって、がん組織の成長に重要な役割を果たしていることが多くの研究結果から明らかになっている。血管新生を阻害して腫瘍細胞の増殖を抑制するCelecoxibの活性は、この抗炎症剤がヒトのがんの治療に対する新たな治療薬になることを示唆しており、現在臨床試験が進行中である。

参考文献:
N Engl J Med 2000; 342 : 1946 - 52 : Original Article
http://cancernet.nci.nih.gov/cancerlit.shtml
http://www.lef.org/protocols/prtcl-027.shtml

September 27, 2002

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