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研修医宿題

喀血に対する気管支動脈塞栓術(BAE)

山本 有祐

はじめに

 24時間に100〜200ml以上の喀血があり内科的・外科的治療を行った場合10〜22%の死亡率を認める[3].

 喀血による死因:ほとんどは窒息死で失血死はまれである。

 喀血の原因:肺結核症、気管支拡張症、肺膿瘍、膿胸、肺炎、気管支炎、塵肺症、cystic fibrosis、Wegener肉芽腫症、肺動静脈奇形、肺癌etc

適応

 喀血の原因としては結核や気管支拡張症などの慢性良性肺疾患が多い為侵襲の少ない止血法がよい[2-4].→内科的治療で止血困難な例に対して気管支動脈塞栓術が適応

 喀血のほとんどは気管支動脈由来であるが、肺病変を栄養する肋間動脈、内胸動脈、側胸動脈の塞栓も近年行われている。喀血に対する肺動脈塞栓療法の報告もあり[1].

気管支動脈の解剖

 気管支動脈の走行にはvariationが多い[5].IcBの肋間動脈から5例に前脊髄動脈の描出を認めた。また食道動脈は195例中50例に描出[5].正常の気管支動脈は非常に小さいため造影検査の対象とはならない。炎症や腫瘍により肺組織の充血が起こったときに気管支動脈は拡張し、カテーテル挿入・血管内治療が可能[3].現在BAE検査前にCT Angiographyを行い、CTAにて喀血の原因と考えられる拡張した気管支動脈や肋間動脈の描出は可能である[2].気管支動脈は細気管支レベルおよび毛細管直前で肺動脈系と吻合を持ち、この吻合枝の径は前者で約200μ、後者で約50μとされている[3].

選択的気管支造影および塞栓術

 本邦では気管支動脈の起始部においたカテーテルよりゼラチンスポンジを注入する方法が多くとられている。

欠点:溶解性の材質で早期に再開通認める。非選択的塞栓により脊髄動脈の塞栓の可能性あり。近年超選択的カテーテルシステムを用いた塞栓術が試みられている。欧米ではpolyvinylalcohol(約200μから1000μの粒子)を使用。約1~3mmゼラチンスポンジ併用等[3,4].炎症性疾患では気管支動脈本幹を金属コイル等の永久塞栓子を用いて閉塞させると側副路による再喀血が起こった場合、2回目以降のアプローチが困難。大動脈からの分岐より末梢で塞栓を行っておれば追加の処置が可能。

喀血に対する効果

国立療養所岐阜病院加藤らは短期的止血が得られた35例について、1ヶ月以後の長期的効果について検討[4].

CR(Complete response):22例(62.9%)
PR(Prtial response、喀血はないが血痰のみ):5例(14.3%)
R(Recurrence、再喀血):8例(22.9%)

塞栓血管の再開通が8例全例、側副路が6例。国立療養所病院では再喀血例8例全例に再BAE施行。

再喀血の原因

塞栓血管の再開通.塞栓血管以外からの病巣への血管増生

合併症

 脊髄神経障害、脳梗塞、食道潰瘍、肺梗塞、大動脈解離。気管支動脈は末梢で肺動脈系と約200μ径の吻合を持ち、塞栓物質の粒子は200μ以上必要。前脊髄動脈、脊髄中心動脈の血管径は各々340~1100μ、60~72μである7)。このサイズであれば脊髄動脈への交通枝へ流入する可能性は少ない[3].

 多くの例では造影時、前脊髄動脈が描出されない限り肋間動脈の塞栓は脊髄障害に結びつかないが、中位胸髄のレベルでは脊髄枝が少ないため血流に乏しく、特に第4〜6胸椎の高さでは虚血に陥りやすく、肋間動脈の塞栓により脊髄の虚血性変化が誘発される危険性は全くないとはいえない[6].

 肋間動脈より根動脈を介して前脊髄動脈が描出された場合は塞栓術を断念すべきであると考えるが、血管造影上で前脊髄動脈に連続しない脊髄枝のみの描出を塞栓術の禁忌とするのは数多くの症例で喀血治療の機会を逃すこととなる[6].

 血管造影で同定できない脊髄への血液供給路の把握には、塞栓術前にspinal wada testを行うことが有効であるとの報告もある[7].

結語

 慢性炎症性疾患を中心とした内科的治療で止血困難な例に対して気管支動脈塞栓術が適応。慢性炎症性疾患は再発をおこしやすく、再発時の再BAEのためにも超選択的BAEを施行しておくことが望ましい。再喀血に対しては再BAEが有効である。BAEの術前にマッピング目的にCTAが有効である。

 前脊髄動脈が描出される場合は塞栓術を断念すべきであるが、脊髄枝のみでは神経学的所見に注意しながら手技を行う。

References
von Sonnenberg E,Casola G,Ho M,et al:Difficult thoracic lesions:CT guided biopsy experience in 150 cases.Radiology167:457-461,1988
気管支動脈塞栓術術ぜんのCTangiographyによる気管支動脈描出の有用性について:臨放47.905-910.2002
喀血に対する気管支動脈塞栓術:IVR.14-1.13-19.1999
喀血に対する超選択的気管支動脈塞栓術の短期的長期的有効性についての検討:気管支学.21-7.453-456.1999
気管支動脈内抗癌剤注入療法における血管解剖および手技上の考察:臨床放射線.36.103-111.1991
動脈塞栓術による喀血の治療:日胸疾会誌25-9.959-968.1987
非腫瘍性肺疾患による喀血に対する気管支動脈および体循環系動脈塞栓術の効果:日本医放会誌.51-9.17-26.1991

May 27, 2003

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