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  1. 発熱性好中球減少症
  2. CRP
  3. γGTP

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研修医宿題

カリニ肺炎とニューモシスチス肺炎

小島 章光

Pneumocystis cariniiと命名され原虫の一種と考えられていた菌体には遺伝子多型があり、その宿主である哺乳類に対し種特異的に異なる菌腫が感染することが明らかになった。そこで、ヒト由来のカリニは当初Pneumocystis carinii formae specialis hominisと呼ばれたが、さらに他の動物由来のものと明確に分けるためにPneumocystis jiroveciiと命名された。そのため、『カリニ肺炎(Pneumocystis carinii pneuonia:PCP)』という病名は、『ニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)』に変わった(PCPという言葉を使う限りは変更はない)。

感染様式

P. jiroveciiがどのように伝播するかわかっていないが、現在は新規にヒト−ヒト感染することが発症の由来となることが示唆されている。

P. jiroveciiの推測されている生活環では、栄養体とcyst(嚢胞体)という2つの形態をとると考えられている。まず、経気管支的に吸入された栄養体が?型肺胞上皮細胞に付着する。引き続いて間質への形質細胞の浸潤や肺胞隔壁の肥厚が生じるためにAlveolar-Capiary block(肺胞・毛細管ブロック)を生じ肺胞でのガス交換が阻害される。栄養体は肺胞腔の中でお互いにくっつき減数分裂と有糸分裂を経て8個の核を持った成熟した嚢胞体になり、これらが分かれて新たな栄養体になる。感染期間中は栄養体と嚢胞体はおよそ9:1の割合で観察される。

臨床症状

乾性咳嗽、労作時呼吸困難、発熱が3主徴。

エイズ患者の場合:これらの症状は数日~数週間ほどかけて緩徐に進行する。致死率は10~20%。

自己免疫性疾患、悪性疾患、先天性の免疫不全症の場合:呼吸不全は突然始まり急激に進行する。致死率は30~60%。免疫抑制剤の増量あるいは減量時に発症しやすい。また、プレドニゾン換算で総投与量16gまたは投与期間が8週間を超えると発症のリスクが高まるとの報告がある。

検査所見

血液検査:LDH、β-Dグルカン(感度90%、得異度80%)、KL-6(感度70~100%)、SP-DとSP-A(感度30~70%)

画像所見

胸部X線・CTの典型例では肺門部から末梢に広がる両側の間質影を呈し、肺尖部、外側の肺野末梢、肋骨横隔膜角がspareされる。胸部X線上では、網状影、すりガラス影が典型的。CT上では、地図上分布を示す。また、間質影の中にpneumatoceleと呼ばれる嚢胞性変化をしばしば認める。この嚢胞性変化は治療経過中に新たに出現し増大することがあるため、気胸を起こし突発的な呼吸困難を生じることがある。

確定診断

気管支肺胞洗浄液や誘発痰などの検体のcytospin標本からGrocott染色やToluidine blue O染色でP. jiroveciiの嚢胞体を観察できれば診断が確定する。あるいは同様の検体にPCR法を用いても良い。

エイズ患者では非HIV患者に比べ検体に含まれる菌体の量が膨大であるため、Giemsa染色あるいはその簡易法であるDiff-Quik染色により一塊となった栄養体が観察される。

ちなみに、培養検査は現在確立されていない。

治療

1)治療薬:以下のいずれの治療もエイズ患者では、21日間、非HIV患者では14日間の投与を行う。

ST合剤(trimethoprim-sulfamethoxazole):trimethoprimとして15〜20mg/kg/dayに換算して分3投与する。高率に副作用を合併する。50%に発疹、発熱、肝機能障害、呼吸困難、消化器症状、白血球減少、血小板減少、高K血症などを認める。発熱や発疹の過敏反応は投与開始後、2週目に最も多い。過敏反応を起こした場合、pentamidineに治療を変更する。

pentamidine:3~4mg/kg、1日1回、1時間以上かけて点滴静注。4mg/kgが推奨されている。副作用を軽減するため3mg/kgに減量して投与することもある。数%に耐性があり、肺への移行性が悪く治療成績もST合剤と比較して劣っている。副作用としては、低血圧、低血糖といった重篤な副作用を起こすことがある。

atovaquone:1500mg、分2経口投与。厚生労働省・エイズ治療薬研究班より入手可能。

2)ステロイド併用療法

ニューモシスチス肺炎は治療開始後3~5日後に急激に呼吸不全が悪化することがある。これを防ぐために特に、治療開始時にPaO2<70mmHgまたはAa-DO2>35mmHgの中等度以上の呼吸困難を認める場合はステロイドの併用療法が推奨される。ニューモシスチス肺炎治療開始と同時に、経口プレドニゾロンで80mg分2を5日間、40mg分1を5日間、20mg分1を11日間合計21日間の投与が推奨されている。

予防

HIV感染者の場合CD数が200/μL未満もしくは口腔カンジダ症の既往がある場合にバクタ2T/day(もしくは1T/day、2T×3/week)の予防投与が強く推奨されている。副作用発現は10%程度。バクタの2T/dayではほかの細菌感染症やトキソプラズマ脳症の予防を兼ねる。第二選択としてpentamidine300mgのウルトラネブライザーによる2~4週間ごとの吸入がある。吸入中にbrochospasmによる呼吸困難を起こすことがあり、前投与としてプロカテロールなどのβ2アドレナリン受容体刺激薬のネブライザーを行うとこの副作用を防ぎやすい。この吸入を行っていても稀に上肺野有位のニューモシスチス肺炎を発症することがあるので吸入時に体位変換をするなど十分吸入薬が肺全体に行き届くような配慮が必要である。

これらの予防投与は抗HIV療法によりCD4数が回復し、200/μLを超える期間が3ヶ月以上あれば中止できる。

脱感作

脱感作を行うことにより8割以上の症例で内服可能となる。

脱感作の方法は、1日目朝0.005g夕0.01g、2日目朝0.02g夕0.04g、3日目朝0.1g夕0.2g、4日目朝0.4g夕0.8g、5日目朝1g夕1gである。

参考文献:治療Vol.88 No.12(2006.12)

内科Vol.93 N0.6(2004)、Vol.97 No.6(2006)

最新臨床検査のABC 日本医師会雑誌第135号特別号(2)


May 29, 2007

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