◇ 歌口の素材

糸蔵から3本の弦が出てきて、
ちょうどいい間隔に配置する役目をするのが歌口(うたくち)です。

僕が使う歌口の素材は象牙です。
一般的には牛のスネの骨を使っていまして、
密度がギュッと詰まっていてかなり硬く、
歌口のような細かい部品を作るのに適しているようですが、
でも、象牙です。
なんででしょうか。
解りません(笑)。


◇ 象牙の模様

さて、象牙には年輪のような縞模様が入っています。
このシマシマが縦横に重なって綾織り模様になっている部分もあって
とってもキレイです。
印鑑などでは均一でないとされて等級が下がるような話しもありますが、
いやいや、単純にキレイだなぁと思えるのです。
クリーム色じゃなくて、なんだか真っ白な象牙もあるのですが、
プラスチックみたいで趣が無い。
牛のスネの骨も同じで、素材自体に趣は、特に無いです(笑)。

という訳で、
黒檀に映える、
透明感のある、
縞模様のある、
象牙を使いましょう。

で、せっかくなので縞模様を生かした取り方をしたいですね。
それで、これをどちらの向きに使うか悩んだ結果、
まだ結果が出せていません(笑)。
縦横両方作っています。


こちらは、粗めにハッキリと出ている縞を横方向へ使ったもので、
透明感があって美味しそうです。
こちらから見ると大きく見えますが、
普通の大きさです。

歌口 横目





こちらは、縦目なのですが、解りますか?
そして、弦の位置を割り振るという役目を果たす為だけの、
必要最低限の高さにしてあります。
が、特に意味はありません(笑)。

歌口 縦目

歌口って、
あまり無駄に高く出ていてもなんだか可笑しいですし、
普通の高さのものを見慣れた人にとっては、
あまり低いものだとやはりちょっと可笑しく見えます。
普通でいいですね、普通で。


◇ 溝の深さ

トゥーイを弓なりにする目的の説明として、
弦が振動している時の揺れに沿うような形状にしている
という説がありますが、
振動している弦が棹に近い方が音が良いのだとすれば、
そりゃー当然、歌口付近だって近い方がよろしい訳で、
歌口に切られた弦の溝はなるべくトゥーイに近く、
深く低い方がよろしいという訳です。
振動している弦がトゥーイに触ってしまう寸前まで下げます。

さて、3本の弦の太さは違いますから、
溝の深さも変えます。

と思ったら、
トゥーイまでの隙間は弦の下側なので、
溝の深さは全て同じでよいのですね。
太さの違いは上側に出ます。

と思ったら、
カラクイから上がってきた弦が
歌口で折れ曲がるところで、
弦の太さの違いによって硬さにも違いがあり、
特に男弦は溝よりも若干上に持ち上がってしまうのです。
なので、太い方の溝ほど深く設定しておくのです。
まあ、0.1〜0.2ミリの話ですが。
細かい話ですね〜。


◇ 溝の幅

さらに細かい話です。
弦の太さごとに溝の幅を変えます。
これはまあ、当然といえば当然なのですが。

ある三味線店は、
この溝は弦がしっかり止まるようなキツイ幅にすると言います。
またある三味線店は、
遊びをつけて弦が踊るようにすると言います。

さて、どちらがよろしいのでしょうか。
僕はその中間の、ちょうどいいのがよろしいと思いますので、
ちんだみすればすっきり動き、
弾けばしっとり収まっている、
そんな溝幅にする為に、
それぞれの弦の太さに合わせて
ナイフでスルスルと仕上げていますよ。
また、溝の一番深い所は四角じゃなくて丸がいいです。
幅に遊びがあっても弦の張力で中央に収まるからです。
なので、ヤスリやノコギリでゴシゴシやったままではダメなのです。
そういう仕上げをするのに適した材が
象牙なのです。


◇ 歌口の取付

歌口がグラグラしているようでは
なんだか音も悪そうですよね。
弦を緩めたらポロッと落ちました。とか。
くさび型に作ってハンマーで打ち込む職人もいるようですが、
棹材の泣き声が聴こえてきます。
かといってアロンアルファーで止められているのは
がっかりしますよね。
塗り直しの時とかどうするんでしょうかねぇ。

棹に切った溝と、
象牙の小細工歌口が、
若干キツメに勘合するように作るのなんて、
全然難しい技ではないんですけどね。

棹材も象牙も若干たわむ素材であり、
棹材は滑らず、象牙は滑る。
縦も横も隙間なくムギュッと入っていって、
平らに仕上げた底面にドンと突き当たって止まる。
そして糸蔵側の絶壁はツライチに削り落とされてスッキリと
まるで棹材の一部だったかのように収まっている。
そういう歌口がいいじゃないですかー。


◇ 音は? 弾き易さは?

まず、それぞれの弦の間隔が歌口で決まりますので、
ここは慎重に決めます。
糸蔵の幅やトゥーイの幅との兼ね合いもありますね。

弦の高さも高過ぎれば弾きづらくなりますし、
低過ぎればビビリ音が出てしまいます。

そう考えると、必然的にここしかないという位置に
決まってくるのですね。

本当にトゥーイに近付けて弦が張られている三線は、
早弾きでもなんでもやさしい指使いで
軽く触れるような押さえ方で
心地良く演奏する事が出来るんですよ。


よじ登る。。

とりあえず戻ってみる。