「良く響くちんだみ、勘所と調子」

◇はじめに

巨匠が弾き唄うその音には、ピアノなどで表現出来ない音がたくさん使われていますよね。
唄者それぞれによる曖昧な音程であるという話しもありますが、
そんな話しじゃどーも納得出来ませんので、
三線を初めてすぐに疑問を持って以来ずーっと考えていました。

ちなみにこのページの内容は全て僕の勝手な想像ですので何の保証もありません。
沖縄の音楽はある程度決まった琉球音階であるという割には、
どう聴いたって平均律で成り立っていると思えないし、
もし西洋音楽と同じというのなら、それらはただの音痴ということになってしまいます。
しかも、人によって随分とバラツキがありますよね。
でもどこかでみんなが共有している心地良い音階というのがあるんでないかい?と思っているのです。



◇ 本調子、開放弦のちんだみについて

大前提として、ラ=440Hzだとか、キイが4Cだとかいわれるような、絶対的な音の高さは一切関係ありません。
オジイがドーと唄えばそれがドです(笑)。全てそこからの相対的な音程となります。


まず、チューナーでドファドに合わせた本調子ですが、
女弦を弾いてすぐに女弦と中弦を指で触って止めますと、男弦からキーンという音が出ているのが聴こえます。
聴こえなければ合っていないか、男弦にも触れてしまっているかです。
同様に女弦を弾いて女弦と男弦を止めると、聴こえるけれど男弦よりは弱いか、ほとんど聴こえない場合もあります。

男弦のキーンよりも中弦のキーンが小さい場合、
この状態から、上記の要領でチェックしながら中弦の音程をほんのちょっとずらすとキーンと良く鳴る場所があります。
そこが、その三線のその状態で一番良く響くちんだみです。
つまり、女弦を弾いた時に中弦も男弦も良く共鳴する訳ですね。
これでやっと「三線」になりました。

本調子の場合は、男弦と女弦はオクターブなので相性の良い関係であり、普通に良く響きますが、
中弦は三線によって音に差があり、チューナーでこれと決めつける訳にいかないんですね。
つまりチューナー頼りだと、女弦を弾いた時に同時に鳴るのは男弦だけで、この2本しか鳴っていない場合が多いです。
三線なのに二線、3分の1損しています。
店頭なり友人の三線を弾いて、いい音がするとか良く鳴るとか判断する前に、
これがしっかり合っていないと何の評価にもならないんですね。
耳が慣れてくれば、女弦を弾いただけで3本とも響いているかどうかが解るようになります。


◇ 勘所について

それぞれの弦単体で考えて、その弦での勘所は、
その弦の開放弦の音に対する倍音列のいずれかに当てはまる音であるという事です。
つまり、一般的には開放がドなら、人差し指はレ、中指がミとなりますが、
倍音に当てはめますと、開放が基音、人差し指は第9倍音、中指は第5倍音となります。
さて、小指はどうでしょうか。
ファとして使う場合、第21、11、23倍音がありますねぇ。


◇ 尺の音について

よく、尺の音は曖昧でたくさんの種類があって、という話を聞きますよね。
それぞれの調子によって変わり、尺をシの意味で使うか、ファの意味で使うかで数種類ありますが、
そのいずれもピアノで弾ける音とは異なりますから、西洋音階でシとシbとの2種類だというのは
本来の音では無いようです。


◇ 倍音です。

僕は三線の音の全てが倍音で成り立っていると考えています。
倍音は、ネット検索すると難しい理論が出てきますが、
振動する弦の揺れを弦の長さの半分で揺らした時、3分の1で揺らした時、4分の1…と、
順に出てくる高い音なので、古来から自然界で決まっている音なのです。
三線はそれらの音を操る為に非常に良く出来ている楽器なのですね。


◇ 調子について

3本ある弦をどのような関係に置いて響かせるか、が目的で、調子が変わります。
弾き易いからではありません。弾きにくくなっても響かせる為には仕方無いのです。


◇ 本調子

いきなり結論ですが、本調子ドファドでファと言われている中弦の開放は、ファではなくてこれもド。
つまりドファドじゃなくてドドドなんです(笑)。
実際の音程は当然ドファドなのですが、
 工五六七
 四上中尺
 合乙老    
の順でいうと、
 ドレミファ
 ドレミファ
 ドレミ     
となります。
移動ドという考え方で、オジイがファの音程でド〜と唄ったのと同じ事です。
ですから、音名のカタカナが変わっただけで何も変わっていません。
では何が違うのかといいますと、そこから押さえる勘所が違うのです。
ファでも良さそうですが、まずファの音が-29.219だと開放でよく響きませんし、
ファソラシとしてしまっては、そこからの勘所が合いません。

ではなぜ音程はドファドになるのでしょうか。
ちんだみで紹介した通り、女弦に向かって、男弦はオクターブ、中弦は5度の関係にあり、
基本的に一番よく響くようにしているのです。
ドドソであるとも言えますが、女弦もまたドから始まる勘所なので、やっぱりドドドなのです^^
ドドドで基本的な形だから、名称が本調子。
理論値では、キーンという音が鳴るちんだみで、中弦がファの-1.955セントになる三線が
一番よく出来ている、開鐘とはそういうものだったのかもしれませんね。


◇ 二揚げ

で、この本調子を、二揚げにします。中弦を高くしてドソド。(厳密に言えばソは+1.955)
こちらは男弦と中弦が5度の関係になっていて、よく響きます。

ドドドをドソドにする、つまり勘所の意味で言えばドをソまで5度揚げるという事になります。
つまり、見かけの開放音は1音揚げ、本質的な意味は5度揚げた状態の勘所のセットを使うという事なのです。
そして、中弦の人差し指の上という勘所ですが、これはラではなく、シbの-31.174です。
で、中指の中という勘所がシの-11.731。


◇ 三下げ

三下げは、本調子の女弦を下げます。音は1音下げたシb、(良く響くのはそこから-31.174)
で、勘所としては5度下げますので、ドからファになります。
つまり、三下げはドファシと聞こえる音で、実はドドファ。
女弦は中指をあまり使わないですよね。
三下げで低い音から全て弾くと、男弦ドレミ、中弦ファソラシb、
女弦に来てシbドミファというよりもファソシドと女弦だけが違うセットに聴こえませんか?
もしシbドミファならば中指のレの音も多用されるはずだと思いますが、
ファソシドのセットで、ラの音は13倍音?27倍音は存在しない音になっています。
単純に琉球音階というか中国の伝統ですと言えばそれまでですが。


◇ 一二揚げ

そして、淘汰されそうな一二揚げですが、
上記理論の通り、ドドドをソソドにし、音程はレソド。
 工五六七
 四上中尺
 合乙老    
の順でいうと、
 ドレミファソ
 ソシbシ    
 ソシbシド   
ラの音は13倍音は存在しません。(通常押さえる場所ではないですし。)
となります。

という訳で、本調子ドファドを一二揚げしてレソドにすると、三下げのドファシbと相対的に同じだという定説ですと、
見かけの音程は移動ドの考え方で同じなのですが、使う勘所のセットが違いますよね。
一二揚げという言葉が存在しているのですから、当然、三下げとは違う調子なのです。
「だった」のですと言うべきでしょうか。そもそも僕のような異民族がこうだというべき事ではありませんし、
一二揚げの唄というのが唄われなくなればこの調子も同時に消えます。
沖縄県全体的にそちらの方向へ進んでいるようですね。


◇ 終わりに。

全ては僕が勝手に思っている事ですので、証拠文献も何もありません。
ずっと気になっていた人はコレを読んで、ハッとする事もあるでしょう。何かの参考になれば幸いです。
しかし実際に良く響くのは確かで、今現代の重鎮達の唄にもこのような勘所で唄っているものもたくさんあります。
また、一二揚げを上手く説明出来るのもこの理論以外には見つかりませんので、
まあ、間違えている所はあるにせよ、おおよそこれが沖縄三線の音だと言ってもいいかなぁと思っています。
西洋音階で琉球スケールはニロ抜き長音階のCEFGBつまりドミソシドだという説明は、
雰囲気はそんな感じですが、そもそもが平均律では成り立っていないので、根本的に間違いなんですね。
ピアノで八重山民謡は弾けないという事です。
つまり、西洋音楽に染まってしまったか、中国からの東洋音楽を伝承しているか、これは大きな違いになってきます。

三線は素晴らしい構造になっているのに、現代民謡ではピアノを指一本で弾いているのと同じになってしまいます。
どこかの有名な唄者がこんな事を説明し始めたらみなさん混乱するかもしれませんが、
現状ではこれらの音は失われたも同然、残念ですね。

あくまでこれは理論的な事です。
誰々さんはこういう音で弾いているからそれは違う、と言われましても、
どれが正解とは誰も言えない事ですので、あくまでも参考までに。

平均律に慣れてしまった僕らの耳には、音程が外れているとしか思えない音が、
実は狙い通りだという事があるかもしれないという事です。

アイヌと沖縄のそれぞれにあるちょっと不思議な音を考えたら出てきた、ひとつの答えです。


三線&トンコリ

よじ登る。。

とりあえず戻ってみる。